【コラム】「マルチチャンネル」と「サラウンド」
【コラム】世界一やさしい「音声仕様」の見方
【コラム】ゲームの音はここが凄い!
DVDでもBDでもUHD BDでも何でもいいから、映像メディアのパッケージの裏を見てほしい。
「音声仕様」が絶対に書いてある。
「映像メディア」が「映像」と「音」の両方を扱うものである以上、音声仕様は絶対に必要な「商品情報」であり、たとえ購入者の99.99%がそんなもの気にしないとしても、それを書かない・公開しないなんてことはあり得ない。
Game Sounds Funは「ゲームの音」にこだわり、【GSFレビュー】は「音声仕様」を必ず書くようにしている。
しかし……
音声仕様がきちんと公開されている例
まず、『モンスターハンター:ワールド』(以下モンハンワールド)。
公式サイトに音声仕様の記載はない。
私が買ったのはDL版なのでパッケージ裏がどうなっているかはわからない。
ゲーム内のオプションでも「ホームシアター」という項目があるだけで、具体的な音声仕様は確認できない。
しかし、カプコンはサポートページにて、同社ゲームタイトルの音声仕様を、「音声形式」と「チャンネル数」の両方について公開している。素晴らしい。
このおかげで、モンハンワールドの音声仕様はリニアPCM 5.1chだとわかる。
また、『大神 絶景版』は2ch、『デビル メイ クライ HDコレクション』はリニアPCM 7.1chというように、同じPS2からのリマスタータイトルであっても、音声仕様には差があることもわかる。
2chだから駄目、7.1chだから良いという話ではなく、きちんと情報が公開されていることが重要なのだ。
こういう音に対するカプコンの真摯な姿勢が、モンハンワールドの素晴らしい音に結実しているのだろう。
続いて、『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS: M∀RS』(以下アヌビス)。
知ってのとおり、本作はPS2タイトルのPS4リマスター。
まずはPVを。
3:26から、「New Sound Design Next-gen Surround Sound」とある。
「あぁ、アヌビスはきちんと“音”を売りにしているんだな」とわかるPVである。
そして公式サイトを見ると、「ドルビーアトモスを採用」と明記されている。
ドルビーアトモスはそれ自体でチャンネル数を包括する形式なので、この一言で「音声仕様の公開」は完璧に果たされる。
発売が楽しみだ。
ちなみに、PS3版の「HD Edition」でも、パッケージ裏にはきちんと音声仕様が掲載されている。
残念なのは、カプコンやアヌビスの例はゲーム業界全体からすれば珍しいケースに過ぎない、ということだ。
音声仕様は公開されていないが、ゲーム内で確認できる例
まずは、『アンチャーテッド 古代神の秘宝』(以下アンチャ)。
公式サイトに音声仕様の記載はない。
しかし、ゲーム内の音声設定から7.1chに対応していることが確認できる。チャンネル数だけの表記ということはおそらくリニアPCMだと思われる。
サラウンドスピーカーの設置位置に合わせた微調整まで可能という凝り具合。
続いて、『グランツーリスモSPORT』。
公式サイトに音声仕様の記載なし。
トルクの揺らぎまで伝える実車さながらの音響体験
自動車の室内には、エンジン音、トランスミッションノイズ、排気音、ロードノイズ、ウインドノイズなどが溢れています。「グランツーリスモSPORT」では、リアルなクルマを理想的な状態でベンチテストし、そのサウンドを録音するだけでなく、ソニー(株)のオーディオ技術部門とサウンドシミュレーターを開発して、人間の認知メカニズムまで踏み込んだ「理想的な音」を再現しています。
ここまで書いておきながら音声仕様を公開しないのはなぜなのか。
あとはアンチャと同じ。7.1ch。
UHD BDも販売しており、率先して音と映像に究極的なこだわりを見せなければならないソニー……グループのSIEのゲームタイトルでさえ、音声仕様が公開されていないというのはいかがなものか。
もっとも、実際にSIEのゲームから出てくる音はどれも素晴らしいのだが……
音声仕様は公開されていないが、聞けば教えてくれる
こういう場合もある。
しかし、教えてくれた音声仕様を公開してもいい場合と、駄目な場合がある。
なぜ駄目なんだ。例えばリニアPCM 5.1ch収録という情報は、ゲームにとってプラスに働いてもマイナスに働くなんてことはないはずのに。
というわけで後者の場合は、レビュー環境で実際に確認できた「チャンネル数」のみを掲載することになる。
聞けば教えてくれるのなら、最初から公開してほしいと願っている。
その姿勢は絶対にプラスに働く。
音声仕様は公開されていないし、教えてもくれない
別にどことは言わないが、こういう場合もある。
こうなってしまうと、もはや実際に自分で確認する以外にない。
まとめ
多くのゲームタイトルで音声仕様の扱いがないがしろにされ、情報の公開すら満足に行われていない現状は、直接的にはゲーム会社の怠慢の結果であると言わざるを得ない。
なんかこう、「ゲームのタイトル情報にきちんと音声仕様を明記しなければならない」的な、業界標準的なものはないのだろうか? 各プラットフォーマー自身の姿勢を見る限り、そんなものはなさそうだが……
ただ、こうした状況の原因のすべてをゲーム会社に負わせることはできない。
「音声仕様なんて誰も気にしない」、あるいは「公開したところで混乱を招くだけ」、音声仕様がそんなレベルで無意味な情報に成り下がっているのだとすれば、ゲーム会社として「音声仕様なんてどうでもいいわ」となっても仕方がない側面はある。だからといって音声仕様を公開しなくてもいい理由にはならないが。
つまり、「音声仕様には大きな意味がある」と伝えるべき側――オーディオ業界の側にも、同様に責任がある。
作品における音声仕様の価値、例えば「ドルビーデジタル/DTSよりも、リニアPCM/ドルビーTRUEHD/DTS-HD Master Audioの方が凄い!」という価値を伝える立場にあったオーディオ業界がまるで役割を果たせなかった結果が、少なからずゲーム業界の現状に繋がっていることは否定しようがない。オーディオ業界の末席に座す者として私はこの十数年間でいったい何をやっていたのだと、反省してもしきれない。
「あの○○○ってゲーム、リニアPCM 7.1ch収録なんだって」
「絶対買うわ」
「あの□□□ってゲーム、Dolby Atmos収録なんだって」
「絶対AVアンプ買い換えてトップスピーカー付けるわ」
もしこんな夢のような時代が来たら、ゲーム会社は我先にと音声仕様をアピールするようになるだろう。
だから、せめてGame Sounds Funだけでも、「ゲームの音声仕様には大きな意味がある」と言い続けたい。
そして、国内外のあらゆるゲーム会社/クリエイターに、「ゲームの音声仕様には伝えるべき価値がある」と認識してもらいたい。
愛してやまない大作シリーズの最新作が発売された。
あまりにも楽しみすぎて、ゲームをもっともっと楽しもうと、7.1chのゲームシアターまで作り上げてしまった。
音声仕様が公式サイトにもパッケージにも書かれていないのが気になるが、これほどの大作なのに音声がマルチチャンネル・サラウンドではないなんてことはないだろう。
しかし、蓋を開けてみたら、そのゲームの音は2chだった。
こんな悲劇を起こしてはいけない。