本格的なブックシェルフスピーカーはでかい。
特にウーファーサイズが14センチを越えるくらいになると、基本でかい。どう考えても「本棚」になんて入らないだろお前、というくらいにはでかい。特に近年のブックシェルフは横幅はスリムでも奥行きが大きくなる傾向が強く、ますます本棚に入りそうにない。
となると、「スピーカーの実力を発揮させる」なんて理想論を語る以前の現実的要請から、多くの場合ブックシェルフはなんらかのスピーカースタンドを使って設置することになる。普通の棚に置くとかテレビラックに置くとか、そういうケースももちろんあるだろうが。
このスピーカースタンドは金額はもちろん、サイズ・構造・素材等々で様々なバリエーションが存在し、多くのメーカーがそれぞれに理想を追求して製品をラインナップしている。
さて、私はこのスピーカースタンドというものに対して、以前からとある疑問、あるいは懸念を抱いてきた。
スピーカーに対してスタンドが小さすぎる。
目次
ブックシェルフとスタンドのサイズ感
最初に述べたように、本格的なブックシェルフスピーカーは基本でかい。
例えば、私の使っている
Paradigmの「Persona B」のサイズは「高さ435 × 横幅225 × 奥行330mm」。
でかい。
他の例として、
B&Wの「805D4」のサイズは「高さ440 × 横幅240 × 奥行373mm」。
ELACの「CONCENTRO S503」のサイズは「高さ400 × 横幅225 × 奥行372mm」。
でかい。
スピーカーのサイズにおける「奥行き」は後方に飛び出すスピーカー端子まで含む場合もあるので、必ずしも底面の大きさそのものとは限らない(Persona Bはまさにコレ)が、いずれにせよ、ハイエンドなクラスになると、奥行きが30センチを越えるブックシェルフはざらにある。ついでに重さもかなりある。
もっとベーシックな価格帯でも、例えば私の手元にある
Paradigmの「Monitor SE Atom」のサイズは「高さ320 × 横幅180 × 奥行270mm」。
ADAMの「T7V」のサイズは「高さ347 x 横幅210 x 奥行293mm」。
Dynaudioの「Emit20」のサイズは「高さ370 × 横幅205 x 奥行325mm」。
どれもこれもじゅうぶんでかく、20センチ台後半は余裕である。
で、こういう現実に存在する「でかい」ブックシェルフに対して、各社がラインナップしているスピーカースタンドは、天板の奥行きに着目すると「250mm前後」の製品が圧倒的に多い。
例えば、私が使っているTiGLONのスピーカースタンド「TIS-70J」の天板のサイズは「横幅190 × 奥行240mm」。専用スタンドシリーズを除けば、TiGLONのラインナップするスタンドでこれ以上に天板のサイズが大きいモデルはない。
このTIS-70Jに、DynaudioのEmit20を、フロントバッフルと天板の前面をツライチにして置くとこうなる。
なんかもう見るからに心配になる光景だが、スピーカーの重心の位置が前側にあることも踏まえて設置そのものは特に問題なく、この状態でもどちらかに傾いて倒れるようなことはない。TIS-70Jは金属製のスタンドなので、強度の点でも不安を感じたこともない。現に、Emit20に限らず、B&Wの「706S2」など、数多くの「天板に対して明らかにでかい」スピーカーをTIS-70Jに置いて今まで使ってきた。
スピーカースタンドの天板が小さい理由はある程度理解できる。重心の位置を踏まえれば、Emit20とTIS-70Jの組み合わせのように天板が小さくても設置そのものが問題になることはあまりないし、不要な音の反射や天板の素材由来の音が再生音に乗る可能性を考えれば、天板が小さくて済むならそれに越したことはないのかもしれない。
が、それはそれとして、「設置の安定感」という観点からすると懸念は残る。残りまくる。
さらに、例えばquadralの「AURUM GALAN 9」「AURUM SEDAN 9」のように、横幅も奥行も大きく、さらに底面全体を使っての直接設置が想定されるモデルになると、もはや「スピーカーがはみ出す前提の天板が小さいスタンド」では対応不可能になる。
以前にGALAN 9とSEDAN 9をテストした時は、「スタンドの上に余裕のあるサイズのボードを置いて、その上にブックシェルフを置く」という、我ながら珍妙な設置をせざるを得なかった。
また、天板はともかく、底板もスピーカーのサイズに対して明らかに小さいというのはいかがなものなのか。
仮にスピーカーの重心の位置が真ん中で、スタンドの天板の中央にあわせて置くとしても、例えばTIS-70Jの底板のサイズは「横幅220 × 奥行270mm」でしかないので、奥行きが30センチを越えるEmit20を置いて「安定感がある」とは到底言えない。それなりのブックシェルフを使う以上トップヘビーになること自体は仕方がないとしても、これではやはり懸念は残る。残りまくる。
ハイエンドクラスのブックシェルフともなると、メーカー純正の専用スタンドが用意されている製品も多い。さすがに専用なだけあって、天板とスピーカー底面をネジ止めできる構造だったり、汎用スタンドに比べれば安定性も考慮されているものが多いように見受けられるが、中には「大丈夫なのかコレ」と思うようなものも少なくはない。あとこの手のスタンドは基本的に高いし、サイズや構造に汎用性がない=様々なブックシェルフをとっかえひっかえするテストに向かない場合が多いと感じる。
そんなこんなで、「大型のブックシェルフも余裕で設置でき、底板も含めて安定感良好、さらに音もばっちり」というスピーカースタンドを求めていたわけだが、なかなか手の届く範囲でそういうものはなかった。そしてとうとう「AURUM GALAN 9」「AURUM SEDAN 9」のように、現実に困るケースも現れた。
というわけで、自分で作ることにした。
オリジナルのスピーカースタンドを作る
・天板は大型のブックシェルフも余裕で置けるサイズであること
・底板は設置に際してじゅうぶんな安定感を得られるサイズであること
・作るのも組み立てるのも簡単な構造であること
・音もいいといいなあ
オリジナルスピーカースタンドのコンセプトは以上の四点。
今までの経験を踏まえて、
・天板のサイズは「横幅230 × 奥行350 × 厚さ20mm」
・底板のサイズは「横幅300 × 奥行400 × 厚さ40mm」、大きく重くすることで安定感を得る
・底板にはスパイクやらインシュレーターやらを使えるようにM8の鬼目ナットを埋め込み
・スピーカーの重心の位置を踏まえ、天板の中心から支柱の位置をずらす
・スタンド本体の高さは70センチ
以上を基本構造にした。
天板のサイズはまさにquadralの「AURUM SEDAN 9」、底板は上の写真にも写っている、前々からスピーカー用に使っていたボードから流用したいがためにこのサイズになった。
肝心の素材については、何かしら金属を使うことも考えたが(特に支柱)、私にとってちょっと未知のエリアなので、無難な選択ということで、天板・支柱・底板をすべてカバ集成材とした。樺(バーチ)は頑丈だし、それなりにお手頃だし、なにより今まで色々使ってきたうえでの好印象もある。
こうして出来上がった「カバの一つ覚えなオリジナルスピーカースタンド」がこちら。
支柱も含めて構造を吟味したスピーカースタンド……というよりも、むしろ「70センチの高さのあるカバ材のオーディオボード」的なイメージである。
ちなみにかかった費用は、材料費やら加工費やら諸々込みで6万円ほど(スパイクは除く)。
このサイズなら、Persona Bのありがた迷惑な底板であっても自由自在な設置ができる。
底板の裏。支柱の太さは90mm × 90mmで、上下からネジ四本で締め付ける形。M8の鬼目ナットは四点支持と三点支持を選べるように5個取り付けた。が、もう少し外側に取り付けるべきだったと思っている。
スパイク兼スパイク受けとしてsoundcareの「SuperSpike SS8」をとりあえず使用。しっかりと効果があるうえに移動にめっちゃ便利なので、TIS-70Jにも同じものを使用している。無限の資金力があれば豪華にCERABASEとか使うんだが。
奥行256mmのDynaudioの「Audience52」を置いた様子。
支柱の位置を天板の中心に対してずらすことで、「スピーカーのフロントバッフルと天板前面をツライチで合わせつつ」「可能な限りスピーカーの重心を支柱で受け止め」「踏ん張りも利く」を狙っている。この「ツライチで合わせる」というのは、ブックシェルフの比較をする際、セッティングの条件を合わせるうえで重要になる。
そしてこれらの狙いは、組み合わせるスピーカーが大きくなるほど効果を発揮する(と思う)。とりあえず上のTIS-70Jとの組み合わせに比べれば、見た目からして安定感の違いは明らかだ。
これで、「奥行きが30センチを余裕で越える大型ブックシェルフであっても安定して設置可能なスピーカースタンド」が手に入った。
残る問題は「音」だが……それについては別の記事で。
おまけ:デスクトップオーディオ用の高さ調整の仕組み
Audio Renaissanceでは「デスクトップオーディオ」の可能性を本気で追求している。
デスクトップオーディオにおける机とスピーカーの配置を考えるなかで、「机の奥にスタンドを立てて置く」という選択肢もあるのだが、
私が使っている机の高さは72センチなので、カバスタンドはスパイク込みでも組み合わせるには少々高さが足りない。
なので、その辺の微妙な高さを調整できる仕組みを最初から考慮している。
ここに取り出したるはジュラルミン(A2017)製の高さ5センチのスペーサー。
Persona BをTiGLONの「MZX-3/4」を使って机に直置きした場合と比べるとこんな感じ。
当然と言えば当然だが、TIS-70JにPersona Bを置くよりも遥かに安定する。
ここ最近はずっとMZX-3を使った直置きセットアップをしてきたが、久々に「机の奥にスタンドを立てて置く」セットアップで聴いたみたところ、
色々と越えるべきハードルがあることは確かだが、デスクトップオーディオのシステムを設置の自由度と再生音の両方で追及した時、行き着くのはこの形だと私は考えている。他ならぬ音楽制作の現場で使われている形だということも、この考えを補強する。
この認識をあらためて強くする結果になったのは、身も蓋もないというかなんというか……
こんな感じで、この「カバの一つ覚えなオリジナルスピーカースタンド」、色々と活躍してくれそうである。