「707S2」「706S2」はBowers & Wilkins(B&W)の「700S2」シリーズのブックシェルフスピーカー。
707S2の価格は150,000円(税別・ペア、ピアノブラックのみ157,000円)。
706S2の価格は233,000円(税別・ペア、ピアノブラックのみ245,000円)。
両機が属する700S2シリーズはB&Wのラインナップの中間にあたるシリーズ。
B&Wは長いこと、トップエンドの800シリーズ、ミドルクラスの700シリーズ、エントリーの600シリーズという製品構成をとってきた。
最近のB&Wは700シリーズの立ち位置に「CM」シリーズをラインナップしてきたが、そのCMシリーズが第三世代になったタイミングで名称が変わり、新生「700S2シリーズ」となった。
パッと見のデザインこそ旧「CMS2」シリーズからあまり変化はないが、搭載するユニットなど、内容的には大きな進化を遂げている。
目次
外観・仕様
707S2のサイズは幅16.5cm × 奥行き26cm (キャビネットのみ) × 高さ28cm、重量は6kg。
横幅はスリムだがそれなりに奥行きがあるため、設置場所を考える際は注意が必要。正面から見た印象だけで導入すると、予想外の奥行きのせいで設置に困るなんてことになりかねない。
仕上げはローズナット・ピアノブラック・マットホワイトの三種類で、ピアノブラックのみ価格が少々上がる。
底面にはM6サイズのネジ穴が用意されており、純正スピーカースタンドとネジ止めが可能なほか、対応するスパイクやインシュレーターを使うこともできる。
リアバスレフで、スピーカー端子はバイワイヤリング対応。
設置場所に応じて低域の出方を調整できるように、バスレフポートを二段階でふさぐスポンジ(フォームプラグ)も付属する。
ツイーターにはデカップル・カーボン・ドームを搭載。これは700S2シリーズで新開発されたユニットで、振動板にはカーボンを物理蒸着させたアルミニウムが使われている。ドームの補強にカーボンリングが使われているなど、B&Wの45周年記念のブックシェルフ「PM1」を彷彿とさせるツイーターとなっている。
ウーファーには上位の「800D3」シリーズでも使われている「コンティニュアムコーン」を採用。ウーファーのサイズは130mm。
周波数レンジと周波数レスポンスはともに上位の706S2と同じ数値となっているが、能率は84dBと低く、この点は留意する必要がある。
706S2のサイズは幅20cm × 奥行き28.5cm (キャビネットのみ) × 高さ34cm、重量は8kg。本機は搭載するウーファーのサイズが165mmとなり、それに伴い707S2から順当に大きくなっている。
仕上げ・底面のネジ穴・リアバスレフ・バイワイヤリング対応スピーカー端子・ユニットの振動板、周波数レンジなど、基本的な仕様は707S2と共通する一方、能率は88dBと高くなっている。この点が後述する扱いやすさにも繋がっているのだろう。
音質
707S2と706S2は両機種ともに、精密にして情報量豊かな再生音を聴かせる。聴感上の周波数レンジとダイナミックレンジはともに申し分なく、空間(特に奥行き)の表現力にも優れている。
スピーカーの中央にびしっと定位するボーカル、深い奥行きの空間に立体的に音が展開する様は、「なるほどこれがオーディオか!」と思わせるだけの強烈な説得力がある。
これらの特徴はまさにB&Wらしい、「好き嫌いとは無関係に存在する、スピーカーとしての純粋な性能の高さ」を強く感じさせるものだ。
優れたオーディオ機器によって「今まで聴こえなかった音が聴こえる」という感覚は、オーディオの趣味において大きな快感をもたらす。
そして、その点において、B&Wのスピーカーはそれぞれの価格帯で頭一つ抜けた存在だと思っているし、実際に707S2と706S2を聴いてもそのように感じる。
色付けや個性といった要素はほとんどなく、高性能であることそれ自体がある種の個性となっている。
さて、「高性能」という言葉を多く使っているが、それはある種の冷たさやきつさを伴うものではない。
一昔前のB&Wのスピーカーにはいくらかそういう面があった、ということは私自身感じるところではある。それこそ、全モデルにダイアモンドツイーターを搭載する以前の800シリーズなんかはまさに。
しかし、707S2と706S2からはそういったマイナスイメージは感じられない。
硬質な音は硬質なまま、鋭利な音は鋭利なまま描くのはもちろん、柔らかさや滑らかさを表現しうる懐の深さも持ち合わせている。
もし「性能が高すぎて柔和な音を出せなくなった」なんてことを言うようでは、それは本当の意味での高性能ではあるまい。
とはいえ、やはり全体的には「音楽の隅々までしっかりと提示する、性能の高さを強く感じさせるスピーカー」であることは確かである。
なので、音楽に対する向き合い方としては、まったりと浸る、というよりは、能動的にこちらから聴きにいくような、前のめりになって没入するような形になると思われる。
聴く側に「よっしゃ音楽を聴くぞ!」という姿勢があれば、B&Wのスピーカーは――707S2と706S2は真っ向からその想いに応えてくれる。
こういった性格は、音楽を聴くうえでは好みがわかれるかもしれないが、映像音響を再生するスピーカーとしては、極めて有効に作用する。
レンジの広さ、細部まで明晰に描写する能力の高さは映画音響に迫真のリアリティをもたらし、伊達に数多の映画の音がB&Wのスピーカーで作られているわけではない! ということが実感できる。
また、ある程度の音量こそ必要になるものの、707S2であっても常識的な範疇ではサブウーファーを必要としないレベルの低域の再生能力は持っている。
707S2と706S2の違い
707S2は706S2に比べて一回り小さいウーファーを搭載しているが、絶対的な低音の沈み込みという点では、ほぼ706S2との違いを感じない。
その一方で、706S2と比べてしまうと707S2には多少「無理している感」が感じられなくもない。
端的に言って706S2は「余裕」が違う。低音の量感や空間の広がりで明らかな差があるのはもちろん、音量を小さくしても音痩せしないという大きな美点がある。さらに、より大きなウーファーを搭載するにもかかわらず、ボーカルの定位感においても706S2が優位である。
そして映像音響を再生する場合、低域の再生能力の差で707S2と706S2の違いはさらに大きくなる。
つまるところ、706S2は707S2の上位互換である。前々世代の初代CMシリーズのモデルであり、先行する「CM1」に続く形で登場した大大傑作ブックシェルフ「CM5」を思い出す。
置き場所の問題さえクリアできるなら、706S2はより簡単に、より優れた再生音が得られる。
707S2は能力の高さは申し分ないものの、真に実力を発揮するにはある程度の音量が必要という印象を受ける。かえって玄人向けだと言ってもいい。
というわけで、707S2を検討している人はぜひ706S2も聴いてほしいし、私としては、なかなか悩ましい価格差ではあるが、707S2よりも706S2をおすすめする。
まとめ
B&Wのスピーカーに関して、「無個性」「面白味がない」といった声を(得てしてオーディオ歴の長い人から)聞くこともある。
わからないではないが、こうした評価はあくまで一面的なものでしかない。
個性的であるよりも真っ当であることを目指し、それ自体の音として面白くあるよりも再生機器として音楽に誠実であることを己に課す、B&Wのそうした姿勢には敬意を禁じ得ない。
707S2と706S2は「好き嫌いとは無関係に存在する、スピーカーとしての純粋な性能の高さ」を強く感じさせる、B&Wの名に相応しいスピーカーである。
エントリークラスのスピーカーからのグレードアップでは、まさに性能の違い――「今まで聴こえなかった音が聴こえる」という体験――を実感できるだろう。
また、「いまひとつ自分に合うスピーカーがどのようなものなのかわからない」という場合にも、検討している価格帯が合えばとりあえず聴いておくべきモデルだと言える。
707S2や706S2の音が気に入ればそれでよし。707S2や706S2を「基準」にして色々聴いて、もっと好きなスピーカーが見つかれば、それもまたよし。基準があるからこそ、個々の美点にも気が付くのだ。
B&Wを象徴する言葉である「リファレンス」たり得る資質は、700S2シリーズのブックシェルフにもしっかりと備わっている。
【再生システム詳細】
ミュージックサーバー:Soundgenic HDL-RA2HF
プリメインアンプ:YAMAHA A-S801
スピーカースタンド:TiGLON TIS-70J