2012年、憧れのままで終わるだろうと思っていたDynaudio Sapphireと巡り会ったように、
出会い、もしくは機会というものは予期せぬタイミングで訪れる。
いまさらの報告ではあるが、今年の春、私はSapphireを手放して別のスピーカーを迎え入れることになった。
Sapphireは私がDynaudioと出会って間もない頃からの憧れであり、夢だったスピーカーだ。
我が家にSapphireを迎え入れた時の喜びと感動は今でも鮮明に思い出せるし、それ以来、私のオーディオ遍歴は究極的には「Sapphireの実力を引き出す」ためのものだったと言ってもいい。特にMOON 740P/860A v2セットの導入は、Sapphireの潜在能力をいよいよ完全に引き出したのだという実感も得られた。
だからこそ、Sapphireを手放す、別のスピーカーを迎え入れるというのは、考えるだけでも極めて重大なテーマだった。
Sapphireのスピーカーとしての能力に不満があるわけではなかった。確かに、「もうひとつのリファレンス」として導入したParadigm Persona Bや、2019年にフルモデルチェンジされたDynaudioの新Confidenceシリーズと比較すれば、純粋な性能面においては2007年に登場したSapphireが既に過去のものになってしまったという感覚はある。とはいえ、それは技術の進歩に伴う必然であって、Sapphireの絶対的な価値を毀損するものではない。
一方、Sapphireの導入から10年を越えた辺りから、ある意味でドライに考える私もいた。
Sapphireに不満がなくても、どれだけSapphireに愛着があっても、いつかは別れる時が来る。であれば、その瞬間を受動的に迎えるのと、能動的に迎えるのとでは、はたしてどちらかが自分にとって望ましいのだろうか?
そんななか、今年のはじめ、DYNAUDIO JAPAN(現PROSTO)がDYNAUDIOの代理店業務を終了するという衝撃的なニュースがあった。 将来的にメインスピーカーをSapphireから入れ替えるにしてもDynaudio一筋だとずっと思っていたのだが、「日本におけるDynaudioの扱いが今後どうなるかわからない」という状況になってしまったのだ。
そこで、考えた。
あれこれと考え、考えに考えたうえで、なるほど、これが「機会」かと、思い至った。
さらば、Sapphire。
ありがとう、Sapphire。
「同じ血が流れている」とすら感じたDynaudioとの関係、「雪のようなスピーカー」への信頼はこれからも続く。