2014年、TIDALが「ロスレスクオリティ」の音楽ストリーミングサービスを開始。TIDALは「オーディオ機器との連携」も当初から念頭に置いて仕組みを作っていたため、LINNやLUMINなど、一線級のネットワークプレーヤーはあっという間にTIDALをビルトインした。そしてQobuzもそれに続いた。
TIDALとQobuzの登場により、「CDのリッピングや音源のダウンロード――自分の音源ライブラリを用意する必要なく、サービス側が用意した膨大な音源でもってファイル再生/ネットワークオーディオを楽しむ」環境が現実のものとなった。
RoonはTIDALのスタートからあまり間を置かずに登場しているが、Roonの真価は「強力無比なライブラリ機能によって手持ちの音源とストリーミングサービス(TIDAL/Qobuz)の音源を統合し、広大にして深遠な“音楽の海”として提示する」ことにある。よって、オーディオの世界に与えた本質的な影響度でいえば、RoonよりもTIDAL/Qobuzの方がずっと大きい。この文脈において、Roonはあくまでも「既存の音源/サービス」をよりよく扱うためのソフト/システムに過ぎない。
TIDALの登場によってクオリティが担保されたことで(ロスレス44.1kHz/16bit)、世間ではとっくに浸透していた「ストリーミングで音楽を聴く」というスタイルがオーディオの世界でもいよいよ受容され、さらにRoonが登場したことでファイル再生/ネットワークオーディオのユーザー・エクスペリエンスも新たな次元に到達した。
というわけで、世界的には2015年から2016年の段階で(Roon Readyは2016年始動)、現在まで続くファイル再生/ネットワークオーディオの環境はほとんど完成していたのだと言える。
しかし、日本ではそうならなかった。
待てど暮らせど日本ではTIDALもQobuzもサービスインせず、日本は蚊帳の外に置かれ続けた。「TIDAL/Qobuzが使えないからネットワークオーディオをやらない」という文言にもいたるところで出会った。「手持ちのファイル音源があればネットワークオーディオは実践できるんですよ」といくら言ったところで、そもそも「自分のライブラリを作る」という発想のない人には馬耳東風でしかなかった。
日本発のサービスとして期待を集めたmora qualitasは盛大な肩透かしに終わった。唐突かつ鳴り物入りで始まったAmazon Music(当時の名称はAmazon Music HD)は仕様的にはオーディオファンを満足させるものではあったが、「オーディオ製品との連携・統合」は遅々として進んでおらず、対応製品がわずかなため、ネットワークオーディオの受容に一定の役割を果たしつつも、TIDAL/Qobuzの代替とは成り得ていない。
いつまで経っても、日本におけるネットワークオーディオが本格化しない。
しかし、そんな状況もようやく終わる。変わる。
今にいたるまで日本のオーディオ界に大きな影を落としてきた「やらない理由」がなくなる。
プレオープン中に「日本のQobuz」がどんなものか、色々と見ていくとしよう。