9/15に配信されたアップデートにより、PS5で「テレビのスピーカーで3Dオーディオ」機能が使用可能になった。
PS5の「Tempest 3Dオーディオ技術」による3Dオーディオは、従来は純正のワイヤレスヘッドフォン「PULSE 3D ワイヤレスヘッドセット」か、コントローラー(DualSense)にヘッドホンを有線接続した場合にのみ使用可能だったが、今テレビのスピーカーでも使用可能になったということなので、さっそくアレコレと試してみた。
目次
設定方法
PS5の設定→サウンド→音声出力で、出力機器が「HDMI機器(テレビ)」になっていることを確認する。ここで「AVアンプ」か「サウンドバー」を選ぶと3Dオーディオ機能は使用できないので要注意。
ここで「テレビのスピーカーで3Dオーディオを出力」をオンにする。
これはつまるところ、AVアンプ等で行う「自動音場補正」と同様の工程だといえる。なるほど、コントローラー(DualSense)のマイクにはこういう活用方法もあったかと素直に感心した。これもPS5の有り余る処理能力の為せる業といったところか。
測定そのものは5秒程度で終了し、「測定結果を3Dオーディオに反映」がオンになる。
別に測定せずとも3Dオーディオは使えるが、手間も時間もかからないのでやった方がいい。
使ってみる
というわけで、実際に私のリビングシステムを舞台にして、PS5の「テレビのスピーカーで3Dオーディオ」機能を使ってみた。
使用したゲームタイトルは『Ghost of Tsushima Director's Cut』で、オープニングの一連のシーンで様々な比較を行った。
主に意識したのは次の四か所。
②安達殿が奴らの意気をくじきに行くシーン、画面左奥の鳥の群れが鳴きながら左の画面外に飛び去って行く様子
テレビのスピーカー
接続は、
PS5
↓HDMIケーブル
テレビ(Panasonic TH-43HX750)
という、PS5とテレビだけで他のオーディオ機器が一切介在しない、最もシンプルなシステム。
『ツシマ』のゲーム内サウンド設定でも「テレビスピーカー」の項目があるので、それを選択。
3Dオーディオのオンオフにすると、「音の広がりのイメージ」はこんな感じで変化する。
素の状態、つまり3Dオーディオがオフの状態では、「音が空間のどこにあるのか」という定位感、「音が前後左右にどのように動いているのか」という移動感はともに希薄で、音の広がりもほとんど感じられない。端的に言えば、「テレビ画面に音がべっちゃり」という感覚に終始する。ずいぶんな物言いをしておいてアレだが、「そもそもテレビのスピーカーなんてこんなもん」という意識が最初からあるので、別に文句があるわけではない。
3Dオーディオをオンにすると、画面外にも音が広がるようになり、奥行き感も出てくるので、「テレビ画面に音がべっちゃり」という感覚は相当改善される。④の乱戦状態でカメラをぐるぐる回した際の、音の追従性も明らかに向上している。上の図では平面的な広がりしか表現できていないが、「3D」と言うだけあって、「上下」の感覚もそれなりに強まる。
上の図からすれば「ちっとも音が広がってないじゃないか」と思われるかもしれないが、比較対象のレベルがアレなので、実際にはかなり効果があると言っていい。②の鳥の群れなどは、オフの状態ではけっこう意識していないと気付かずに聞き逃しそうだったのが、オンの状態では音の存在感が明らかに増すのがわかる。
感心したのは、いわゆる「バーチャルサラウンド」にありがちな、音を加工しまくった結果のうさん臭さや不自然さ、声や効果音の劣化を感じなかったこと。ほぼデメリットなく自然な音の広がりを得られるあたり、音響測定の効果も含めてPS5の「Tempest 3Dオーディオ技術」の完成度の高さが感じられる。
スピーカー/2chステレオ
テレビのスピーカーとは、つまるところ2chステレオのスピーカーである。
ならば、テレビと2chオーディオシステムを組み合わせて使っているような場合、3Dオーディオはどのような効果があるのだろうか。
というわけで、Paradigm Monitor SE Atomを使って聴いてみた。
テレビは基本的に音声出力を持っているので、今回は以下のように接続した。
PS5
↓HDMIケーブル
テレビ
↓光デジタル
アンプ YAMAHA RX-V4A ※ここではあくまでも2chアンプとして使用
↓
スピーカー Paradigm Monitor SE Atom
『ツシマ』の設定も「ブックシェルフスピーカー」にする。わざわざこんな設定を用意しているサッカーパンチのこだわりにはたまげるしかないが、「3Dオーディオには非推奨」とのこと。はてさて……
このシステムで3Dオーディオのオンオフにすると、こんな感じで変化する。
効果は…………なくはない。横方向の広がりよりも、奥行き感の向上の方が大きいようだ。それにしてもMonitor SE Atomは素晴らしいな。
スピーカー・アンプともにごくエントリークラスのシステムであっても、体験のレベルは
「テレビのスピーカーで3Dオーディオをオン」<<<「しっかりとしたスピーカーを使う」
である。魔法はない。
スピーカー/4.0chサラウンド
せっかくなので(?)、「テレビのスピーカーで3Dオーディオ」と「マルチチャンネル・サラウンド」の比較もしてみた。
Monitor SE Atomをもう2台追加した、4.0chサラウンドである。
PS5
↓HDMIケーブル
AVアンプ YAMAHA RX-V4A →テレビ
↓
スピーカー Paradigm Monitor SE Atom ×4
このシステムの音の広がりはこんな感じ。
「テレビのスピーカーで3Dオーディオをオン」<<<<<<<<「4.0chサラウンド」
である。魔法はない。
なお、マルチチャンネル・サラウンドでそれぞれのシーンを体験するとこうなる。
①冒頭、画面手前左右から人馬が歩み出る際の奥行き感
画面に出てくるよりも前に、馬がカメラ後方から歩いてくるのがわかる。こういう細かい描写の積み重ねがリアリティを生む。
②安達殿が奴らの意気をくじきに行くシーン
この鳥の群れ、実は画面から消えた後も存在感が消えない。
③頭上を火矢が飛び交う騎馬突撃
駆ける境井仁、左右を追い抜いていく味方、奥から来る敵騎兵、空を裂く火矢、飛来し炸裂する火球などなど……『グラディエーター』とか『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』あたりを思い出す。
④敵味方の叫びが渦巻く乱戦
こういう時にカメラをぐるぐる回すとめっちゃ面白いぞ。
まとめ
だいぶ脱線してしまったが、とりあえず。
PS5の「テレビのスピーカーで3Dオーディオ」機能は、かなり効果がある。間違いなく、テレビのスピーカーでのゲーム体験を向上させる素晴らしい機能である。
しかし、無から有を生み出し不可能を可能にするような魔法ではない。
「PS5の3Dオーディオ機能でサラウンドシステムは不要になる」などということはない。
PS5の「テレビのスピーカーで3Dオーディオ」機能は、あくまでも「体験の底上げが成された」という点で評価すべきものであって、「ゲームのためにサラウンド環境を構築する」ことの価値を下げるものではない。
体験して、もっとこだわりたいと思った人はどんどんこだわりましょう。