ゲームの音はココが凄い!

 ホームシアターのマルチチャンネル・サラウンド環境でゲームを遊んだ時、具体的にどのような体験ができて、どんな風に楽しいのか。

 「ゲームの音」はいわゆる「映画の音」とどう違うのか。

 この記事では、私が考える「ゲームの音ならではの魅力」を解説&紹介する。

基本:スピーカーの配置

 まずはおさらいも兼ねて。

世界一やさしい「音声仕様」の見方 色々な呼び方があるけれど、映画、アニメ、ゲームといった映像コンテンツの「音声仕様」は、「音声形式」と「チャンネル数」で成り立っている。...
「マルチチャンネル」と「サラウンド」 「マルチチャンネル」と「サラウンド」。  ほとんど同じ使われ方をする言葉だが、意味は微妙に異なる。  この記事では、それぞれの...
ゲーム会社は「音声仕様」についてどう考えているのか?【コラム】「マルチチャンネル」と「サラウンド」 【コラム】世界一やさしい「音声仕様」の見方 【コラム】ゲームの音はここが凄い! ...

 
 これがマルチチャンネル・サラウンドのスピーカー配置。

 
 サラウンドバックとサブウーファーを省いて5chのシステムにすると、スピーカーの配置はだいたい下図のような感じになる。理想とされている配置と厳密には違うが、ここはわかりやすさ重視ということで。

 
 下図はさらにセンタースピーカーを省いたもの。

 中央のアイコンは「ゲーム内の視点/カメラ」を表し、このカメラに映った映像を、プレイヤーはゲーム画面として目にしている。

 
 大前提として、視聴位置でプレイヤーが聴いている音とは、音楽を除けば、「カメラの位置で聴こえる音」である。これはゲームでも映画でも基本的に変わらない。

 
 再生音はスピーカー間を自在に移動できるので、センタースピーカーとサブウーファーなしの「4.0ch」でも、「切れ目のない包囲感」「全方位での音の定位感」「前後左右上下の音の移動感」といった、マルチチャンネル・サラウンドの醍醐味をほぼ完璧に味わうことができる

 
 とにかくまずは2本、後ろに置けばそれでいい

 
 ここからは『モンスターハンター:ワールド』(以下モンハンワールド)を例として、「ゲームの音」をステレオで聴く場合と、マルチチャンネル・サラウンドで聴く場合ではどう違うのかを解説する。

【GSFレビュー】『モンスターハンター:ワールド』  満を持して登場し、世界中で受け入れられ、カプコン史上最高の出荷本数をも達成したシリーズ最新作、『モンスターハンター:ワールド』(以下...

ゲームの音×マルチチャンネル・サラウンド

 まずはステレオの場合。テレビのスピーカーをそのまま使うのもヘッドホンを使うのもステレオである。

 大前提として、カメラに映っている=画面に映っている前方の音は、そのまま前方のスピーカーから聴こえてくる。

 
 スラッシュアックスの剣モードでレイギエナと切り結ぶ。キャラクターもモンスターも画面の中央から微妙に外れているので、音の位置も微妙に中央から左寄りになる。

 ディアブロス亜種が右に突進すれば、もちろん音も右方向に動く。画面奥に突進すれば、もちろん音も遠ざかる。

 このように、たとえゲームの音声が2chでも、あるいはスピーカーが2本のステレオシステムでも、前方左右や奥行方向の位置関係や移動感は問題なく表現できる

 そして音楽や映画がそうであるように、良質なステレオスピーカーを導入すれば、それだけでゲームの印象は劇的に変貌する。音楽・効果音・ダイアローグ・動き回るオブジェクトの空間表現のすべてが恩恵を受け、この時点でゲームの音がもたらす楽しさは著しく増大する

 スピーカーを横や後ろに置くスペースがないからといって、必ずしも嘆く必要はない。

 
 ただ、ゲームの音声がサラウンドに対応し、それをマルチチャンネル・サラウンド環境で再生することができれば、ゲームプレイはさらに別次元の面白さを得る

 
 というわけで、ここからはサラウンドの場合。

 
 カメラ後方で大地を揺らすディアブロス亜種が恐ろしいので逃げる。この後踏み潰されるかどうかは神のみぞ知る。

 (ちょっとわかりにくいが)カメラ右後方でネルギガンテが咆哮する。咆哮はきちんとネルギガンテの「口の位置」から聴こえる。

 左前方から放たれたレイギエナの冷気が直撃。冷気はそのまま右後方へ抜けていく。「ズシャアアアアッ」って感じの物凄く気持ちのいい音である。

 左方向を掃射するゼノ・ジーヴァのブレス。このブレスは掃射中は常に音が鳴り続ける。その音を左から浴びながら突撃。

 前方から咆哮と共に突進し、ハンターを飛び越えて後方に着地するネルギガンテ。助かった。


 「位置関係を無視するレベルで巨大/強烈な音」という演出意図であれば、こんな感じになる。

 
 「あるべき場所であるべき音が鳴る」ことによって、「ゲームの世界」の実感も、プレイヤー自身の感情の揺れ幅もまるで違ってくる。

 
 例えばレースゲームで、「複数の後続車に追い上げられながら左コーナーを曲がる」という状況だと、こんな感じになる。

ゲームプレイ、カメラの操作、インタラクティブ性

 今まで書いてきたような「切れ目のない包囲感」「全方位での音の定位感」「前後左右上下の音の移動感」は、「映画の音」でも同様に味わえる。

 というより、「あるべき音をあるべき場所で鳴らして世界を表現する」という意味では、ゲームと映画に違いはない。

 しかし、ゲームは映画と異なり、一方通行ではない。

 ゲームでは様々なオブジェクトそれ自体が音を生み出し、動き回り、ゲームプレイにリアルタイムに反応してまた新たな音を発する。映画/映像の音はDolby AtmosやDTS:Xの登場でオブジェクトオーディオという考え方が取り入れられたのに対し、ゲームの音の多くは最初からオブジェクトベースである。

 フィールドごとの環境音の変化や、戦闘状態に入ると音楽が戦闘曲に移り変わるということもまた、ゲームプレイに対する反応と言える。

 
 というわけで、このように「ゲームの音」には「インタラクティブ性」があり、これが「映画の音」との決定的な違いとなっている。
 

 ここで「カメラ」の存在がますます重要になる。

 繰り返しになるが、プレイヤーが聴いている音とは、音楽を除けば、「カメラの位置で聴こえる音」である。

 プレイヤーのキャラが動けばカメラの位置も変わる

 また、この記事で例として使っているモンハンワールドはカメラ自体を動かせる

 つまり、プレイヤーの操作に応じて、音も動く

 一例として拠点の歯車。プレイヤーが何をしようがお構いなしに、常にギコギコと音を出しているオブジェクトである。

 ここに映せば、ここから鳴る。

 そしてカメラを左にぐる~っと動かせば、歯車の音はこんな感じで動く。

 たとえ画面に映らなくとも、歯車が消えてなくなったわけではない。動き回るモンスターもまた然り。

 「画面の外から聴こえてくる音」こそが「画面の外の世界」を感じさせてくれる

 ただでさえそれ自体で完璧なサラウンド音響を実現しているゲーム世界を、さらにプレイヤーの操作によって自由自在に動かし、ありとあらゆる方向から音を浴びる。

 このマルチチャンネル・サラウンド体験は「映画の音」では絶対に得られないものだ。

 プレイヤー自身の操作に応じてリアルタイムに千変万化する音の奔流がもたらす、時として映画をも凌駕する圧倒的な臨場感と没入感

 これこそ、Game Sounds Funの考える「ゲームの音」ならではの魅力である。

 そして、TPSやFPSのようにプレイヤーの視点とゲーム展開が一致するタイプのゲームになるほど、ゲームでしか味わえないマルチチャンネル・サラウンド体験は強烈なものとなる。

 ゲームプレイそれ自体が音の魅力を高め、その音がまたゲームプレイに恩恵を与えるという理想的な構図が実現する。

 なお、音声がサラウンドに対応しているゲームでも、カメラ/視点をプレイヤーが動かせなかったり、あるいはかなり遠い(高い)位置にカメラ/視点があったりする場合、サラウンド感を出すことは相対的に難しくなる。

 そのようなゲームでも、マルチチャンネル・サラウンドを有効活用することはできる。ただ、音楽を全チャンネルから積極的に鳴らしたり、魔法か何かで画面を埋め尽くす規模の爆発を起こしたり、フィールドの環境音を充実させたりと、カメラの動きや位置関係にあまり依存しない工夫が必要となる。

 一方、カメラワークも含めて自動進行のゲーム内イベントシーンに関しては、まんま「映画の音」の手法を取り入れることもできる。

Dolby Atmos/DTS:Xについて

 このところ「Dolby Atmosでなければ音が動き回る感覚を実現できない」などという言説を目にするが、これはとんでもない嘘っぱちである。

 Dolby Atmosの価値を高めようという意図なのかもしれないが、以前から真剣にマルチチャンネル・サラウンドに取り組んできた身からすれば、馬鹿も休み休み言えという話でしかない。新しいものの価値を高めるために従来からあるものを不当に貶めるのは愚か者のやることだ

 トップスピーカーの存在によって「上下」の感覚が強まることなど、Dolby Atmos/DTS:Xの価値は間違いなくある。また、新しい音声フォーマットに積極的に取り組むサウンドクリエイターの方々にも心から敬意を表する。

 しかし、ユーザーの立場からすれば、従来のチャンネルベースのシステムとDolby Atmos/DTS:Xのシステムで、本質的な体験の部分で極端な差が生じるようなことはない。そしてDolby Atmos/DTS:X対応を無闇にありがたがるよりも、チャンネルベース、それこそ基本となる4.0chのシステムをしっかりと構築した方が、遥かに満足度は高くなる。

 逆に、基礎となるチャンネルベースのスピーカー構成をおろそかにしたままDolby AtmosだのDTS:Xだのと言ったところで虚しいだけである。実践と実感の伴わない雑な持ち上げは、かえってDolby Atmos/DTS:Xの価値を下げる。

 チャンネルベースの再生環境をしっかりと構築したうえで、さらに上を目指すのでもない限り、コンテンツや機器に対して「Dolby Atmosじゃないのか。残念」なんて思う必要はない。

 Dolby Atmos/DTS:Xは、単にコンテンツや機器が対応しているだけでは意味がなく、それを正しく再生し得る環境があって初めて意味を持つ、ということを忘れてはならない。自分がそうした環境を作り上げた時にこそ、Dolby Atmos/DTS:Xコンテンツを喜ぼう。

【Dolby Atmos/DTS:X】オブジェクトベースシアターが完成して思うこと Dolby AtmosやDTS:Xといったオブジェクトベースオーディオ規格。  トップスピーカーも含めた複数のスピーカーに「オブジェ...

まとめ

 ゲームの音声仕様を見て、もし「サラウンド対応」と書いていたら、まずは「このゲームをマルチチャンネル・サラウンド環境で遊んだらどうなるんだろう?」と想像してみてほしい。

 ゲームの音をしっかりとした音響システムを使って再生した時、きっとゲームは真の姿を見せる。世界が変わる

 それくらい、「ゲームの音」は凄いのである。

 もちろん、ゲーム内容や製作年代的にサラウンド音声とは無縁のゲームでも、純粋に再生環境の音が良くなることで、音楽をはじめとして様々な恩恵が得られることも確かだ。

 すべてのゲームファンに、ホームシアターでゲームを遊ぶ楽しみを味わってほしいと願ってやまない。

 
 
【画像の著作権について】

本記事で引用した『モンスターハンター:ワールド』の画像の著作権は株式会社カプコンに帰属します。