満を持して登場し、世界中で受け入れられ、カプコン史上最高の出荷本数をも達成したシリーズ最新作、『モンスターハンター:ワールド』(以下モンハンワールド)。
記念すべき【GSFレビュー】の第1回には、現在進行形で数百万人のハンターが心血を注いでいるであろう、このタイトルを選んだ。
タイトル情報
・ゲームタイトル
モンスターハンター:ワールド
・対応プラットフォーム(日本国内)
PS4
・音声仕様
リニアPCM 7.1ch (参考:世界一やさしい「音声仕様」の見方)
※カプコンのサイトでは5.1chとなっているが、実際は7.1chとのこと
音楽
【2018/09/05 インタラクティブミュージックについて追記】
モンハンワールドの音楽はモンスターとの激闘の最中でも決して埋もれることなく、戦いを華々しく彩る。
どれだけ滅茶苦茶な戦い方をして泥まみれになっても、音楽は常に美しく高らかに自らの存在を主張する。
すべてのモンスターのBGMが同じレベルで印象的だったかと言われれば必ずしもそうではないが、モンハンワールドの音楽は死闘感の演出、そしてモンスター自身の存在の描写に大きな役割を果たしていることは間違いない。
純粋な音質も満足のいくもので、力なく垂れ流されるイメージとは一線を画しており、テーマ曲をはじめとして美しく勇壮な旋律が空間を満たす様は聴いていて飽きない。
ところで、最終的にモンハンワールドで最も耳に残った音楽はバゼルギウスのBGM「飛来せし気高き非道」。
どんなモンスターと戦っていても乱入と同時にBGMを塗り替え、デデデデン! という耳に焼き付くフレーズとともに爆発鱗を撒き散らして辺り一面地獄絵図。
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また今日もヤツが飛んでくる。
なお、本作の音楽演出もまたおおいにインタラクティブである。
モンスターがプレイヤーを認識して戦闘状態に移行する/モンスターが逃げて戦闘状態が解ける、モンスターが近付いてくる/遠ざかるなど、プレイ時の状況に応じて音楽がリアルタイムに移り変わり、強弱も変化する。「単なる切り替えではない」というのがミソ。
これまたバゼルギウスと戦う時がすごくわかりやすい。バゼルギウスが近付いてくる→ヤツのテーマ曲が大きくなる、遠ざかる→テーマ曲が小さくなるという具合に。音楽が通常時のものに戻れば、それはバゼルギウスを振り切ったということを示す。
このようにゲームプレイと連動する音楽、あるいは音楽演出の手法を「インタラクティブミュージック」と呼ぶようだ。これはかなり以前から様々なゲームタイトルで実際に体験してきたものなのだが、恥ずかしながらそれを表す「インタラクティブミュージック」という言葉を知ったのはわりと最近になってからだ。
インタラクティブミュージックは昨今のゲームの多く(ほとんど?)で活用されているが、モンハンワールドは楽曲が多彩かつ躍動感に富むこともあり、ドラマチックなゲームプレイの実現に大きく貢献している。
効果音
主役は間違いなくモンスターに関するありとあらゆる音。
咆哮、
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暴虐、
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唸り声。
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突進が引き起こす激震、不穏な蠢き、大気を叩き伏せる羽ばたき、炸裂するブレスなどなど、そのどれもがモンスターの個性となり、世界の多様性となる。威力、迫力も申し分なし。
モンスターだけでなく環境音も徹底的に作り込まれており、ひとつひとつのオブジェクトに意味のある音が付加されている。
たまにはモンスターめがけて一直線ではなく、ふと足を止めて、世界の濃密さにも耳を傾けてみてほしい。
個性豊かな音を最高の形で楽しむために、ぜひともダイナミックレンジ設定は「ワイドレンジ」で。
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サラウンド
端的に言って、モンハンワールドでは「ホームシアターで遊ぶゲーム」に望み得る最高度のマルチチャンネル・サラウンド体験が味わえる。
正直に言って、国産のゲームでこれほどの体験が味わえるとは想像もしていなかった。
はじめて古代樹の森を訪れた際に確信した。
モンハンワールドのマルチチャンネル・サラウンドはガチだ。
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横目に通り過ぎる滝の水音、森の中に満ちる様々な命の気配。豊富に、表情豊かに用意されたあらゆる効果音は視点移動に追従してあるべき場所で完璧に機能し、実に濃厚な「世界」を感じさせる。
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ゲーム序盤、初めての釣りをしていた時。
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なにやら左方向から足音が聴こえてきたので、視点を動かす。
もちろん視点に応じて足音の聴こえる方向も動く。
!?
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「釣りの最中なら襲われないだろ!」と思った次の瞬間、喰われました。
狩猟マップだけではなく、拠点の音もしっかりと作り込まれている。
一例として、この歯車の音も視点を動かせばしっかりサラウンドする。
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ちなみに、タイトル画面や長いことで有名なロード画面でも、波の音、風の音、湧き立つマグマの音といった環境音が全チャンネルから流れており、目を瞑って音に集中すれば、きたるべき世界への誘いとして機能する。……と言いたいところだがやっぱりロード長すぎやしないか。
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モンスターの懐に飛び込めば、ハンターを粉砕せんと頭を振り身をよじる動きに応じて四方八方から咆哮が覆いかぶさる。
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何もない空間を突っ走っているように見えて、実際は怒り狂ったモンスターが迫ってきているのが背後からの轟音で手に取るようにわかる。
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モンスターの突進を紙一重で躱した際、カメラの後ろに回ったモンスターを補足するために、視点を左と右のどちらに動かすべきか。
マルチチャンネル・サラウンドなら、モンスターの位置がわかる。それが一瞬の判断の決め手になる。
舞い降りるレイギエナの羽ばたきも、きちんと上方向の存在感をもって降り注ぐ。
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躍動するモンスターが生み出すあらゆる音は緻密かつ豪快なマルチチャンネル・サラウンドとしてゲームプレイと完全に一体化し、ゲーム体験の深化に理想的な効果をもたらしている。
テオ・テスカトルの燃える粉塵がいたるところに撒き散らされる。全チャンネルで炸裂する爆炎に炙られながら、炎王龍と切り結ぶ。
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ゼノ・ジーヴァの光のブレスが画面左にほとばしる。フロント・レフトチャンネルとサラウンド・レフトチャンネルから吐き出される焼け付く閃光の奔流を肌で感じながら、冥灯龍に突撃する。
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【GSFレビュー】で使っているモニターはPC兼用の27インチモニターで、昨今の大型テレビと比べればサイズ的には遥かに小さい。
それでも、モンハンワールドのマルチチャンネル・サラウンドが生み出す圧倒的な臨場感・没入感・死闘感は、もはや画面サイズの限界を越えて、否応なくハンターを「世界」に引きずり込む。これこそ、「ゲームシアター」が放つ最高の輝きだ。
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全方位から轟く咆哮と骨肉を断つ剣戟の応酬の果てに、モンスターを討滅した瞬間の、この達成感たるや!
たとえ狩るモンスターが同じでも、彼らとの戦いによって生じる「音」の体験は、そのすべてが新鮮な衝撃と感動をもってハンターに襲い掛かる。
総合評価
モンハンワールドのクリエイターインタビューなどを見ていると、「ワールド」という言葉が幾度となくクローズアップされていることに気付く。「世界」に打って出るタイトル、モンスターが生きる「世界」を構築する、などなど、様々な意味が込められているようだ。
モンハンワールドの「音」もまた、間違いなくひとつの「世界」を創造する。
こと「音」に関する印象深さにおいては、私が今までホームシアターで遊んできたあらゆるゲームタイトルの中でもトップクラスに位置する。
『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズをはじめ、「巨大なモンスター」が登場するゲームは枚挙に暇がない。しかし、心震わす音楽、徹底的かつ表情豊かに作り込まれた音の演出、それらを最高度に活かす緻密さと豪快さを兼ね備えたマルチチャンネル・サラウンドによって、モンハンワールドの音はかつてないレベルで血沸き肉踊る体験をもたらす。
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世界を闊歩するモンスターの咆哮が空間を揺らす時、狩人の全身には底知れぬ興奮が、そして脳裏には猛々しい生命への畏怖が呼び覚まされることだろう。
最後に、全世界の数百万人のハンターに心から伝えたい。
ホームシアターという環境に解き放たれた時こそ、『モンスターハンター:ワールド』は真の姿を顕す。
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【画像の著作権について】
本記事で引用した『モンスターハンター:ワールド』の画像の著作権は株式会社カプコンに帰属します。