きたる4/20(金)、ついに全宇宙待望の『GOD OF WAR/ゴッド・オブ・ウォー』シリーズ最新作、『ゴッド・オブ・ウォー』(2018)が発売になる。
Game Sounds Funで行う【GSFレビュー】はあくまでも「ゲームの音」に着目するものであり、作品内容それ自体に深く立ち入るようなことは基本的にしない。
しかし、管理人は『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズがあまりにも好きすぎて紹介したい欲を抑えきれないので、【紹介・特集】というカテゴリーを作って、そこで作品紹介を行うことにした。
『ゴッド・オブ・ウォー』がその第一弾である。
目次
『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズとは
「クレイトス」というスパルタの戦士が、
「ギリシャ神話」をベースにした世界で、
「神々や怪物と戦う」アクションアドベンチャーゲームである。
発売順に、シリーズは以下のタイトルからなる。
(リマスターも複数出ているがそちらは省略)
『ゴッド・オブ・ウォー』(2005・PS2)
『ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲』(2007・PS2)
『ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲愴曲』(2008・PSP)
『ゴッド・オブ・ウォーIII』(2010・PS3)
『ゴッド・オブ・ウォー 降誕の刻印』(2010・PSP)
『ゴッド・オブ・ウォー アセンション』(2013・PS3)
『ゴッド・オブ・ウォー』(2018・PS4)
Metacriticの点数を持ち出すまでもなく、名実ともに神ゲーと呼ぶに相応しいシリーズであり(アセンションはシリーズ全体のクオリティからすればちょっとアレだったが)、特に一作目は管理人にとてつもなく巨大な衝撃をもたらした。
そしてナンバリングを取り去り、オメガからアルファに到ったのが最新作である。
『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズの魅力
立ち塞がるすべてを薙ぎ倒すクレイトスの苛烈にして凄絶なアクション、ギリシャ神話を背景にした世界で繰り広げられる巨大なスケールの物語、各世代で群を抜く圧倒的なグラフィック、血肉を湧き立たせ魂を揺さぶる音楽、ハードコアな内容に反して物凄く丁寧に作り込まれた操作感などなど、『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズの魅力は枚挙に暇がない。
そのうえでなお、真にゴッド・オブ・ウォーならではの魅力は何かと問われたら、私は「とどめを刺す感覚」だと答える。
最初のボス、ヒュドラの衝撃
ドラゴンは はげしいほのおをはいた!
ゆうしゃに 64のダメージ!
ドラゴンは ゆうしゃを わしづかみにした!
ゆうしゃに 128のダメージ!
ゆうしゃの こうげき!
かいしんの いちげき!
ドラゴンに 256のダメージ!
ドラゴンを たおした!
私はRPGが好きだ。
かつてドット絵のRPGをやっていた時、私はありとあらゆるシーン、特に戦闘画面に無限の可能性を感じていた。
ありったけの想像力を駆使して、数多の神々、悪魔、巨人、魔獣、竜……それらの敵と脳内で伝説的な戦いを繰り広げることができた。
今からすればごく限られた画像と音でしか世界を表現できなかったからこそ、無限大に世界を想像/創造する楽しみがあった。
「動かすだけで楽しい」アクションゲームとは異なり、これは「読む」という行為が大きな比重を占めるRPGでこその楽しみだった。
しかし、RPGにおけるこの楽しみは、たぶんPS2世代になった辺りから、私の中で急激に薄れていった。
3Dに多ポリゴン、どんどん進化していくグラフィック。いわゆるムービーの多用も相まって、ゲーム展開や世界のすべてが映像で語られてしまうようになり、想像力が介在する余地はどんどん小さくなっていく。この点、PS1時代はポリゴンの粗さがまだ想像の余地として機能していたのだろう。
それでいてドット絵時代からほとんど変わらない戦闘システム。豪華な見た目のキャラクターがどれだけイベントシーンやムービーで巨大な力を振るっても、結局戦闘が始まった途端に敵味方横並びで行動順を棒立ちで待ち、何かしら行動をして、結果は数字で示される。リアルな造形の敵が、ダメージを受けて体力が尽きると赤くなったり半透明になったりしてそのまま消えていく。
依然として物語は楽しめるし、豪華になった演出を見るという映像鑑賞と同様の楽しみが生まれたことも確かだが、かつてのRPGにあった「想像する楽しみ」が薄れた結果、私のRPG愛は急速に冷めていった。逆に、PS2時代は『魔界戦記ディスガイア』のように、純粋にシステムが面白さを生む類のゲームをよくやっていた。
そんな時、友人に紹介されてはじめてゴッド・オブ・ウォーをプレイし、最初のボスであるヒュドラを倒した時、「負けた」と思った。
今まで様々なRPGで、数えきれないほど大量のヒュドラ的なモンスターを倒してきたが、クレイトスが見せたような倒し方を脳内に思い描いたことはただの一度もなかった。想像を絶する所業。そんな風に倒すという発想がなかった。つまり想像力で負けた。
よくよく考えてみれば、ドラゴンもヒュドラも人智を越えた強大な生物である。
それらに「かいしんのいちげき」を食らわせて「倒す」ということは、つまりこういうことだったのだ。はじめから、技や魔法の名前を叫んでどーんと派手なエフェクトが炸裂してどうにかなる相手ではなかったのだ。
純然たる暴力表現が想像の世界に生々しい現実感を与える様に、私は打ちのめされ、巨大な衝撃を受けた。
RPGにおいて文章や数字や限られた画像のやり取りの中で行ってきた数々の戦いを、リアルスケールかつ圧倒的なグラフィックで、一切の容赦なしに再現するとどうなるのか。
『ゴッド・オブ・ウォー』こそ、その答えだった。
そこで繰り広げられるのは、かつて脳内で自由に思い描いてきた光景さえも軽々と超越する、驚天動地の光景だった。
ゲームに対する行き場のない想像力を抱えていた私は、それ自体がとてつもなく凄まじい想像力の塊である『ゴッド・オブ・ウォー』に光明を見出した。
新しい敵が出てくるたびに、「クレイトスはどんな倒し方をするのか?」と考える。
それは、私の想像力とクリエイターの想像力を戦わせる至福の瞬間である。
こうして、私は『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズの虜になった。
“とどめを刺す”感覚、そしてCSアタック
『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズは、純粋なアクションゲームとして見ても、一般的なタイトルを凌駕する「とどめを刺す感覚」に溢れている。
神話規模の戦いをリアスケールで描くことで生まれるダイナミズムも、究極的にはこの「とどめを刺す感覚」に繋がっている。神話世界を蹂躙するクレイトスの躍動は決してムービーとして垂れ流されるのではなく、あくまでもプレイヤーの意思を反映させる形で行われるからだ。
『ゴッド・オブ・ウォー』も一般的なアクションゲームのように、内部ではダメージ計算を行い、一定のダメージを受けることで敵は撃破され、消滅する。
しかし『ゴッド・オブ・ウォー』ではそれにくわえて、プレイヤーが自覚的にとどめを刺すための選択肢が数多く用意されている。
体力が低い敵であればそのまま、それなりの敵であれば体力を減らしてから○ボタンで掴むことで、いわゆるフィニッシュムーブが発動し、クレイトスは創意工夫を凝らして敵を一撃で葬る。
さらに大型の敵になると、体力を一定値まで減らした段階で頭上に「○」のアイコンが表示され、CSアタックが可能となる。
CSアタック。
Context-Sensitive Attack。
文脈依存の攻撃。
「これほどの敵を倒すためには、ここまでしなければならない」という必然的な暴力。
フィニッシュムーブとCSアタックは通常の攻撃モーションとは異なる動きのバリエーションを、敵の数だけ膨大に提供し、それでいてプレイヤー自身のボタン操作が発動/成功の条件になっているので「見ているだけ」という感覚を抱かせない。さらに、シリーズならではの絢爛たるグラフィックもあいまって、現実にはあり得ない光景が恐るべき現実感をもって繰り広げられることになる。
そしてその光景を生み出しているのは、まさにクレイトスと一体化したプレイヤーであり、他ならぬプレイヤー自身が生々しい実感を込めてとどめを刺しているのである。
豊富なフィニッシュムーブとCSアタックによって、『ゴッド・オブ・ウォー』は、「とどめを刺す」という行為それ自体をゲーム性にまで昇華させることに成功した。
クレイトスとなって刃を振るう感覚は、まさに現実における神話の再現と言えよう。
こんにち、フィニッシュムーブ的なシステムを搭載するタイトルは随分と増えた。
クレイトスの如く強力なキャラクターが、容赦なく敵を粉砕する表現を魅せてくれるゲームも数多い。最近では『DOOM』(2016)のグローリーキルが実に印象的だった。
しかし、システム的な完成度、ゲームプレイに対する貢献度、物語と不可分に融合した「神的暴力」、そして最終的にもたらされる「とどめを刺す感覚」という点で、『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズは今なお頂点に君臨している。
少なくとも私はそう信じて疑わない。
すべての人に送るゴッド・オブ・ウォーの物語
シリーズ経験者だけでなく、『ゴッド・オブ・ウォー』(2018)からシリーズを遊ぶ人のために、『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズのストーリーを時系列に沿って、現状の完結編である『III』のラストまでのあらすじを紹介する。
シリーズにはナンバリング作品にくわえてPSPの『落日の悲愴曲』『降誕の刻印』、PS3の『アセンション』も含まれているが、それらはさらりと触れるにとどめる。
これを読んで興味が湧いたら、全作をプレイして、さらに『ゴッド・オブ・ウォー』(2018)を買おう。
ここから先は決定的な内容かつ物語の結末に到るまで紹介するので、
ついでに、著しく暴力的な表現にも注意。
プロローグ
以下の内容は、一作目の『ゴッド・オブ・ウォー』の作中で語られる。
クレイトスはスパルタの戦士だった。
その勇猛果敢な戦いぶりにより、彼は瞬く間に数千人の部下を持つ指揮官にまで上り詰めた。
征服欲の赴くまま戦いに明け暮れるクレイトスだったが、ある蛮族との戦いに敗北し、絶体絶命の危機に陥る。
蛮族の王/バーバリアン・キングの大槌がまさに振り下ろされようとしたその時、クレイトスは【戦いの神/ゴッド・オブ・ウォー】であるアレスに叫ぶ。
「アレス! 我が敵を滅ぼせ! 我が魂を捧げよう!」
願いは聞き届けられた。
オリュンポスより降臨したアレスの神通力によって、蛮族の軍団は瞬く間に滅ぼされていく。
そしてクレイトスには、アレスから神の僕に相応しい新たなる武器が授けられた。【ブレイズ・オブ・カオス】。冥界の奥底で鍛えられた、クレイトスの腕に焼き付く長大な鎖と、劫火を纏う刃から成る二振りの剣である。
ブレイズ・オブ・カオスによってバーバリアン・キングを葬ったクレイトスは、アレスの僕として歩み始める。
アレスの僕となったクレイトスは、さらなる残忍さと冷酷さをもって征服活動を行っていた。
ある村の襲撃に際し、村の神殿に押し入ったクレイトスは、いつものように目に映るすべての者を切り捨てていった。
しかし、女と少女を手にかけた次の瞬間、クレイトスはその二人が、スパルタにいたはずの自らの妻子だったことに気付く。
家族を自らの手で殺めてしまった事実に絶望するクレイトス。
そこにアレスの幻影が現れる。
「私が思い描いた通りになったなクレイトス。妻と娘が死んだ今となっては、お前には何もない」
すべてはアレスの奸計だった。
アレスは、クレイトスが唯一愛し、彼の人間性の拠り所となっていた家族を彼自身に殺させることで、クレイトスを心無い完璧な戦士に仕立てようと目論んだのである。
燃え盛る神殿から吹き出した妻と娘の遺灰がクレイトスの全身に貼り付き、その肌を白く染め上げる。
かくしてクレイトスは、その異様な姿から「スパルタの亡霊」と呼ばれるようになり、己の運命を狂わせたアレスに復讐を誓った。
その後、アレスと交わした誓約を破棄しようとするが、一筋縄ではいかなかったのが『ゴッド・オブ・ウォー アセンション』。
家族を殺める悪夢に苛まれるクレイトスは、救済を求めて神々の僕となり、その命に従い数々の戦いに身を投じる。
そんな戦いのひとつを描いたのが『ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲愴曲』。
なおこの時、冥界の奥底にあるタルタロスに赴き、生還している。
絶え間ない戦いの日々が続き、やがて十年の月日が流れた。
『ゴッド・オブ・ウォー』
「オリュンポスの神々は私を見捨てた。もはやこれまでだ」
そしてクレイトスは、ギリシャで一番高い山から身を投げた。
十年に及ぶ苦難。十年の絶え間ない悪夢。
それがついに終わりを迎える。
死こそが、狂気から逃れる術なのだ。
――三週間前、エーゲ海。
クレイトスは乗っていた船を襲撃してきたアレスの軍勢と戦い、ヒュドラを撃破する。
船上のアテナ像にクレイトスは叫ぶ。十年も神々に仕えてきたというのに、いつになったら家族を殺した悪夢から解放してくれるのかと。
像に宿ったアテナが応える。アテネで最後にして最も困難な使命が待っていると。
アテナの守護する都市アテネは、ゼウスに力を見せ付けたい彼女の兄アレスによって攻撃を受け、滅亡の危機に瀕していた。
ゼウスが神同士の戦いを禁じているため、頼りになるのは神から力を受けたクレイトスのみ。
アレスを倒せ。人間が神を倒すという不可能極まる所業こそ、クレイトスに与えられた最後の使命だった。
「もし私が神を倒せば、あの悪夢は消えるのか」
「この使命を果たせば、過去の行いは赦されるでしょう」
アテネに到着したクレイトスは、人間よりも遥かに巨大かつ強大な神を倒す力として「パンドラの箱」を求める。
パンドラの箱はアテネから遠く離れた死の砂漠の向こう、そこを彷徨うタイタンの王クロノスの背中に括りつけられた神殿の中にあるという。
数々の困難を踏破してクレイトスはついにパンドラの箱を手に入れるが、それを察したアレスが遥かアテネから投擲した杭に貫かれ、絶命する。
しかしクレイトスは冥界から物理的に脱出し、アテネに舞い戻ってアレスと対峙する。
アレスから奪い返したパンドラの箱の力を解放すると、クレイトスはアレスと同等の大きさにまで物理的に巨大化する。
「お前はただの人間に過ぎぬ。かつて私に命乞いをした日と寸分違わず弱いままだ」
「私はあの日と同じ人間ではない。私はお前が作り出した……怪物だ」
「お前は本当の怪物というものを知らないようだなクレイトス。最後の稽古をつけてやろう!」
アレスは背中から六本の鉤腕を生やし、神の力をもってクレイトスに襲い掛かる。
クレイトスはアレスの作り出した幻影の中、再び家族を失う体験を味わわされるものの、さらなる死闘の果てにとうとうアレスを追い詰める。
「あの夜……私はお前を最強の戦士にしようとした」
「それは成功だな」
クレイトスの剣がアレスを刺し貫く。
クレイトスは不可能を成し遂げた。人間が神を倒したのだ。
使命を果たしたクレイトスであったが、彼を苛む悪夢は消えなかった。
アテナは言う。
「あなたの罪を赦すとは約束しました。それは守ります。しかし、悪夢を消すとは約束していません。神といえども、あなたの忌まわしい記憶を拭うことはできないのです」
結局、過去の幻影を消すことは不可能だと知ったクレイトスは、エーゲ海を見下ろす断崖へと向かった。
「オリュンポスの神々は私を見捨てた。もはやこれまでだ」
そしてクレイトスは、ギリシャで一番高い山から身を投げた。
十年に及ぶ苦難。十年の絶え間ない悪夢。
それがついに終わりを迎える。
死こそが、狂気から逃れる術なのだ。
クレイトスの運命はそこで尽きなかった。
神々には別の思惑があったのだ。
クレイトスの体は地上へと引き上げられ、彼にアテナが告げる。
大業を成した人間が自ら死ぬことを神々は許さない。
アレスの残忍な所業は止めねばならなかったが、アレス亡き今、オリュンポスは新たな戦いの神を必要としている。
アテナから新たなる武器【ブレイズ・オブ・アテナ】を授けられたクレイトスの前に、扉が開かれる。
扉の向こう、階段を上った先にあったのはオリュンポス山に建つ宮殿だった。
宮殿の奥には玉座があった。GOD OF WARの玉座である。
その玉座に腰を下ろしたクレイトスこそ、新たなるGOD OF WARなのだ。
それ以来ずっと、その理由がどうであれ、人間が起こす戦いには、かつて神を倒した人間の眼差しが向けられている。
彼らは新たなる戦いの神――GOD OF WARとなったクレイトスに操られているのだ。
この後、ひと悶着起こして幼い頃に生き別れた弟デイモスと再会したり、アトランティスを沈めたりするのが『ゴッド・オブ・ウォー 降誕の刻印』。
なおこの時、死の領域に赴き、死の神タナトスを滅ぼしている。
『ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲』
新たなる戦いの神となったクレイトスだったが、神々はクレイトスを相手にせず、彼自身も悪夢から解放してくれなかった神々を憎悪するようになっていた。
クレイトスは殺戮の中に古傷の癒しを見出し、スパルタの戦士たちとともに、アレス以上の残忍さをもってギリシャの町々を破壊していた。
ある日、クレイトスは制止するアテナを無視し、ロードス征服の仕上げとして町に降り立つ。
神であるクレイトスはその巨体をもって破壊の限りを尽くしていたが、一羽の鷲によって力を奪われ、通常の人間の大きさに戻る。
鷲はクレイトスから奪った力をロードスのコロッサス像に注ぎ込み、命を宿した巨象がクレイトスに襲い掛かる。
コロッサスとの戦いの最中、クレイトスはゼウスからの支援として、かつてタイタンとの戦いに終止符を打ったという「オリュンポスの剣」を授かる。
剣にすべての力を注ぎ込めば、コロッサスを倒せるというのだ。
かくしてオリュンポスの剣をもってコロッサスを内側から破壊したクレイトスは、己の力を神々に誇示する。
しかし次の瞬間、倒れ伏すコロッサスの最後の一撃をまともに受けたことで、オリュンポスの剣にすべての力を注ぎ込み神の力を失っていたクレイトスは瀕死の状態となる。
手から離れたオリュンポスの剣を取り戻そうとするクレイトスの前に現れたのは、神々の王ゼウスだった。
蛮行を繰り返すクレイトスを自らの手で始末すべく現れたゼウスは、クレイトスに服従を求めるが、クレイトスは神々など下らぬとこれを拒絶。
ゼウスによってクレイトスはオリュンポスの剣で胴を刺し貫かれ、絶命する。
「他にも道はあったはずだ息子よ。だがこれが、貴様の選んだ道だ」
亡者の手によって冥界に引きずり込まれ、落ちていくクレイトス。
その時、死せるクレイトスの前に、かつての大戦でオリュンポスの神々に敗れ、冥界の奥底に囚われていたタイタン族が現れる。クレイトスはタイタンを主導する地母神ガイアによって傷を塞がれ、「ゼウスを倒す」という共通の目的のためにタイタンと協力関係を結び、再び物理的に冥界を脱出する。
神の力を失ったクレイトスはゼウスを倒すために、運命の女神の力を求める。
道中でテュポーンの目をつついたり、プロメテウスを苦しみから解放したり、テセウスをドアに挟んだり、クレイトス同様冥界から気合いで舞い戻ってきたバーバリアン・キングを叩き潰したり、ペルセウスをフックに掛けたり、イカロスの翼をもぎ取ったり、タコを捌いたりしつつ、ついにクレイトスは運命の女神の神殿に辿り着く。
最初にクレイトスとまみえた運命の三女神の一柱、ラケシスは協力を拒絶。妹のアトロポスとあわせてクレイトスに襲い掛かる。
しかしクレイトスは、時を操る力を持ち、「クレイトスがここに来ることも含めてすべてを定めた」と豪語する運命の女神さえ粉砕する。
さらに神殿の奥へ進んだクレイトスは「運命の糸」を操る長姉のクロトを抹殺し、ついに運命を操る力を手中に収める。
クレイトスは自らの死の運命を変えるべく、ゼウスに剣を突き立てられた瞬間に舞い戻る。
「どういうことだ。運命の三女神が助けたのか。そんな馬鹿な」
「奴らは……殺してやった」
クレイトスは死闘の果てにゼウスを追い詰め、奪い取ったオリュンポスの剣によってまさにとどめが刺されようとしたその時、ゼウスを助けるべく割って入ったアテナが代わりに剣を受ける。その隙にゼウスは捨て台詞を吐いて逃げる。
「なぜ自分を犠牲にしてまで」
「オリュンポスを守るため」
「オリュンポスの破滅など望んではいない。ゼウスだけだ」
「ゼウスこそがオリュンポスです」
「奴が自ら招いたのだ」
「恐怖なのです、クレイトス。クロノスが感じたのと同じ恐怖。大戦を始めさせた恐怖。そして、あなたを殺させた恐怖。……実の息子を」
かつて神々の王の座にあったクロノスは子に背かれるという予言を恐れ、自らの子が生まれるたびにそのことごとくを呑み込んでいた。
しかしある時、クロノスの妻の一計でひとりの赤子がクロノスから逃れる。その赤子はガイアに保護され、成長し、やがて兄弟たちを率いてクロノスをはじめとするタイタン族に戦いを挑む。
その赤子の名はゼウスといった。
「息子だと!?」
「ゼウスが自らの父クロノスを討たざるを得なかったように、あなたもまた同じ道を歩んでいる。父を殺すべき息子など、存在しないのです」
「……違う。私に父などいない」
先のロードスでゼウスがクレイトスに「息子よ」と言っているが、英語では「My Son」と言っている。これ自体は血縁に関係なく若い男への呼びかけでよくある表現(実際この時点では特に何もなくスルーされている)だが、同時にクレイトスがゼウスの息子であるということの伏線となっていたのである。
なお、『降誕の刻印』にはクレイトスの母親が登場し、彼の父が誰かを伝えようとするが、その瞬間に異形の怪物に変えられ、クレイトスはまたも自らの手で家族を殺めることになった。そしてゼウスがクレイトスの父親だとわかった今、母の死にもゼウスが関与していたことは明白だった。
事ここに及んで、クレイトスの復讐は新たな局面を迎える。
「あなたの前にすべての神々が立ちはだかるでしょう。彼らは命をかけるはず。オリュンポスの存続には、ゼウスが必要なのです」
「オリュンポスの神々が立ちはだかるなら、そのすべてを殺すまでだ。私は奴らの作る闇に長くとどまりすぎた。神々の時はこれで終わるのだ!」
かくしてアテナは死んだ。
クレイトスは時を操り、過去のオリュンポスの神々とタイタンの最終決戦の場に赴く。敗北の運命にあったタイタンを現代に呼び戻すために。
過去のガイアにクレイトスが告げる。
「この大戦の勝利は我らのものだが、この時代ではない。私と共に愚かな神々を打ち倒し、オリュンポスを我々の前に跪かせるのだ。共に来い、私の時代に!」
一方、ゼウスは宮殿にオリュンポスの神々を集め、きたるべき戦いに備えて結束を呼び掛けていた。
その時、宮殿を激震が襲う。
宮殿から飛び出した神々が眼下に見たのは、タイタン族を従え、オリュンポス山に侵攻するクレイトスの姿だった。
「ゼウス! 貴様の息子が戻ったぞ! オリュンポスの終焉を引き連れてな!」
『ゴッド・オブ・ウォーIII』
https://www.youtube.com/watch?v=W3OfjO0ThhQ
クレイトス。
タイタン。
オリュンポス。
ついに神々の最終戦争が始まった。
切り立った崖を難なく走破するヘルメス。炎の馬車で空を駆り灼熱の光を放つヘリオス。タイタンの巨躯をも鎖で捉え落とすハデス。オリュンポスの神々は「既に勝利した戦い」だといわんばかりに、圧倒的な力を見せ付ける。
クレイトスを背に乗せて侵攻するガイアは、海と一体化して巨大な姿となったポセイドンに苦しめられるが、クレイトスとの共闘でポセイドンが纏っていた“鎧”を撃破し、クレイトスはポセイドンの本体を引きずり出す。
ゼウスの兄弟にして海を統べるポセイドンはクレイトスの反逆を非難し、オリュンポスの崩壊は世界の崩壊に繋がると警告するもそのまま容赦なく叩きのめされ、両目を潰された挙句首を捩じ折られ、その骸は遥か下方の海に落ちる。
海神を失った海は荒れ狂い、大地をことごとく呑み込んだ。
ポセイドンを退けたクレイトスは、ついにガイアと共にゼウスと対峙する。
憎悪の籠った会話の果てに激怒したゼウスは凄まじい雷霆を放ち、ガイアもろともクレイトスを吹き飛ばす。
オリュンポス山の断崖にしがみつくガイアと、その背中にしがみつくクレイトス。
身を捩るガイアが生み出す振動は激烈で、これ以上は掴まっていられないとクレイトスが叫ぶ。
「ゼウスを滅ぼすために、私を死から蘇らせたのだろう!」
「すべてはタイタンのためだ」
「私の復讐を否定するのか!」
「よく聞けクレイトス。お前はただの駒でしかない。ゼウスのことはもういい。これは我々の戦いであって、お前のではない!」
嗚呼ガイア。絶対に敵に回してはいけない人を敵に回してしまった。
ガイアから振り落とされ、落ちていくクレイトス。
落ちに落ちて、ついに冥界まで落ちて、冥界を流れるステュクス川に落下する。
川を泳ぐ無数の亡者に力を吸い取られ、息も絶え絶えになるクレイトスだが、なんとか川から上がり、叫ぶ。
「まだ終わりではないぞゼウス。冥界ごときに囚われる私ではない!」
力を失ったクレイトスの前に、霊体となったアテナが現れる。死を経て、今まで見えなかったものが見える、より上位の存在になったというのだ。
アテナは力を失ったブレイズ・オブ・アテナを【ブレイズ・オブ・エグザイル】に蘇らせ、クレイトスにゼウス打倒に必要な「オリュンポスの炎」の存在を教える。
ゼウスを守るために命を落としたとは信じられないアテナの豹変ぶりを訝しむクレイトスだったが、その助言に従い行動を開始する。
冥府の主宰神ハデスを殺して冥界を脱出し、オリュンポス山の中腹にいたガイアを先の御礼にと地の底へ叩き落とし、ヘリオスの首をもぎ取り、神々の宮殿に辿り着いたクレイトスは、神々でさえ手出しできない「オリュンポスの炎」に守られた「パンドラの箱」を見つける。
再び現れたアテナが言うには、これはまさにかつてアレスを倒した際に用いた箱であり、箱の中には未だ「神を倒す力」が眠っている。
アテナがパンドラの箱の来歴を語る。
オリュンポスの神々とタイタンの大戦の際、「恐怖」「強欲」「憎悪」といった様々な「邪悪」が生まれた。
ゼウスはそれらの「邪悪」が世界を滅ぼさないように、それらを封じ込める「箱」を鍛冶の神ヘファエストスに命じて作らせた。
しかし、箱はアレスとの戦いで解放され、クレイトスはその恐るべき力をもってアレスを倒した。
そしてクレイトスの所業を見たゼウスは、「恐怖」に囚われた。ゼウスの豹変は解き放たれた「邪悪」の影響だったのだ。
しかし、オリュンポスの炎で守られている箱には手出しができない。
アテナは、クレイトスがここに到る道中で幾度となく声を聞いた「パンドラ」という少女が炎を消す鍵だと語る。
クレイトスは道中でヘルメスの駿脚を切り落とし、ヘラクレスの顔面を陥没させ、アフロディーテとよろしくやり、パンドラを知るヘファエストスに導かれて再びタルタロスに下りる。
『1』のパンドラの箱の一件以降タルタロスに堕とされていたタイタン族の王クロノスに引導を渡し、帰還したクレイトスの油断を突いて襲ってきたヘファエストスを返り討ちにする。
パンドラの正体は、ヘファエストスがパンドラの箱を作った際、箱を守るオリュンポスの炎それ自体が人の形を成したものだったと判明する。ヘファエストスはパンドラを娘のように愛し、それゆえに破滅をもたらすクレイトスを彼女から遠ざけようとしたのだった。
パンドラが幽閉されているラビリンスを目指す道中、クレイトスは彼やパンドラを侮辱した神々の女王ヘラの首を圧し折る。
クレイトスは様々な罠と仕掛けに満ちたラビリンスを突破し、幽閉されていたパンドラを解放する。
そしてあらゆる障害を物理的に粉砕し、ついにクレイトスはパンドラを連れて箱の前に立った。
ただ、パンドラによってオリュンポスの炎を消滅させることは、パンドラ自身の消滅も意味していた。いつしかパンドラに娘の存在を重ねていたクレイトスは、率先して炎を消滅させようとするパンドラを制止する。
そこにゼウスが現れ、クレイトスと激突する。
戦いの最中、クレイトスの制止を振り切ってパンドラが炎に飛び込み、共に消滅する。
パンドラの行動に呆然としつつも、クレイトスは「神を倒す力」を求めてパンドラの箱を開ける。
しかし……
「“空”か!? 数多の苦難、数多の犠牲の果てに、またしても無様な結末だな!」
箱は空だった。最初からそれを知っていたゼウスの嘲笑が響き渡る。
クレイトスは憎悪で顔を歪め、煽るだけ煽って姿を消したゼウスとの決戦に赴く。
ポセイドンが死んだことで海は大地を呑み込み、ハデスが死んだことで亡者が世界中に溢れ出し、ヘリオスが死んだことで晴れない暗雲と嵐が渦巻き、ヘルメスが死んだことで疫病が蔓延し、さらにヘラが死んだことであらゆる植物までもが死に絶えた結果、世界は黒々とした混沌に沈んでいた。
「終わりにしよう、父よ」
「そうだな、息子よ」
父と子の戦いが始まる。
その時、二人の戦いに割って入るように、死んだと思われていたガイアが現れる。
親子諸共葬ろうとしたガイアの手から逃れ、ゼウスとクレイトスはガイアの体内に潜り込み、脈打つガイアの心臓の目の前で戦い始める。
死闘の末にクレイトスがオリュンポスの剣でゼウスとガイアの心臓を同時に刺し貫き、ついにゼウスは斃れ、ガイアの巨体も崩壊した。
ゼウスの骸からオリュンポスの剣を引き抜き、立ち去るクレイトス。その背後で、黒い霊体のような姿になってゼウスが復活し、クレイトスを闇の中に閉じ込める。
クレイトスは闇の中で、家族を殺める光景をはじめ過去の悪夢の数々を見せ付けられる。
しかし、パンドラの導きを得て、ついに「自分自身を赦す」ことで悪夢に打ち勝ち、闇の旅路の果てに再びパンドラの箱を見つける。
そして、箱の中には……
青白い炎を瞳に宿し、クレイトスは帰ってきた。
ゼウスの手を振り払い、ブレイズ・オブ・エグザイルで霊体をぶっ飛ばす。
霊体を吸収して再び立ち上がったゼウスに対し、ブレイズ・オブ・エグザイルも放り捨てたクレイトスは、ゼウスを岩に叩きつけ、髭をひっつかみ、ゲーム史に未来永劫残るであろうシーンを経て、ついにゼウスの息の根を止める。
その瞬間、かつてブレイズ・オブ・カオスを与えられた時以来ずっとクレイトスの腕に焼き付いていた鎖が、静かに外れ落ちるのだった。
すべての神々が滅び、何もかもが崩壊したオリュンポス山の山頂で、クレイトスは世界を覆い尽くした混沌を前にひとり佇む。
その時、クレイトスの前にアテナが現れ、「箱の中の力」の返還を求めるが、クレイトスは「箱は空だった」と答える。
それでもアテナは引き下がらない。そんなはずはない、クレイトスの瞳を見ればその力を持っているのがわかると言う。
パンドラの箱に「邪悪」が封じ込められる時、アテナは再びそれが解き放たれることを恐れ、「この世で最も強力な武器」を召喚し、同時に箱に入れておいたのだった。
そこでアテナは気付く。
アレスを倒すために箱が解放された時から、その「力」はクレイトスの奥深くに宿っていた。
その力の正体は「希望」。
あとは、クレイトス自身がそれを発現させるかどうかだったのである。
今までの助力を強調し、「希望」の返還を要求するアテナを拒絶したクレイトスは、「神殺しの剣」――オリュンポスの剣を振りかざす。
「私の復讐が……今、終わる」
クレイトスはオリュンポスの剣をアテナにではなく、自らの体に突き刺した。クレイトスの肉体から解放された「希望」が光となり、世界に広がっていく。
その力を自分のものにできなかったアテナはクレイトスをなじり、それにクレイトスは凄絶な笑みで応える。
アテナはクレイトスからオリュンポスの剣を引き抜き、投げ捨てると、何処かへと去っていった。
クレイトスは血だまりの中に横たわり、ゆっくりと息をするのだった。
クレイトスの復讐の対象は、最初は妻子を殺める原因となったアレスであり、その後はクレイトス自身を生み出し、運命を歪めたゼウスをはじめとする神々となった。
そしてすべての神々を滅ぼし、神々によって秩序立てられた世界を混沌に沈めた今、クレイトスの復讐の対象は、まさにアテナが成ろうとしているような「絶対的な力を持ち、人間の運命を操る存在」――「神という存在そのもの」となった。
クレイトスが自ら命を絶ち、己に宿る最強の力――「希望」を世界に解き放ったことで、その力を独占する「絶対的な存在」は二度と生まれないだろう。
己の運命を狂わせた「神という存在そのもの」に終止符を打ち、クレイトスの復讐は完結した。
置き去りにされたオリュンポスの剣の傍らに、クレイトスの姿はなかった。
血だまりから身を引きずるようにして続いた血痕の先には、ただ、微かな希望を孕んだ混沌だけが広がっていた。
そして、物語は続く
クレイトスは生きていた。
流れ着いた北欧神話の世界で、再びクレイトスの物語が幕を開ける。
ゲームシステムの大幅な刷新により、「こんなのゴッド・オブ・ウォーじゃない!」と言う人もいるだろう。
かくいう私も、最初の映像を見た時は期待半分、不安半分といった感じだった。
しかし、様々な情報が公開されるについて、不安は吹き飛び、今では完全に期待しかない。ゲームメディアの評価がとんでもないことになっていることもまた、期待に拍車をかけている。
この記事を通じて、多くの人に『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズに興味を持ってもらうことを願ってやまない。