On-Device Playlist。
これは、この機能を言い表す用語が存在していなかった時、私が「再生中のプレイリストを機器本体に記憶/キュー」と呼んでいたもの。とりあえず、そのままオンデバイス・プレイリストと呼ぶことにする。
On-Device Playlistは、国内メーカーでは最近になってようやくDELAで言及された程度で、まだまだ業界で共通理解になっていない気がする。
よって、他所で断片的に触れるだけでなく特化させた記事が一本必要だと判断した。
ところで、CDプレーヤーにCDを入れて、別にリモコンでも本体でも構わない、再生ボタンを押すとどうなる?
勿論、CDの最後まで自動的に曲が再生される。
口にするのも馬鹿馬鹿しいほど、あまりにも当たり前の話だ。
しかし……
……
…
ネットワークオーディオプレーヤーにおいて、まともにネットワークオーディオを実践するとすれば、音楽再生の操作は基本的かつ全面的にコントロールアプリが担う。
そして、実際に曲を再生する際にはプレイリストが用いられる。
一例としてPlugPlayerを使い、アルバムの全曲をプレイリストに登録し、プレーヤーで再生する。
要はCDを入れて頭から再生するのと同じである。
(ちなみに今回はレンダラーにfoobar2000に使っている)
この時ネットワークオーディオプレーヤーに期待される挙動は、ひとえに、CDプレーヤーのように、「アルバムの全曲が通して再生されること」である。そりゃそうだ。
ただ、iPhoneにせよ、iPadにせよ、諸々のandroid端末にせよ、音楽を聴くためだけに四六時中コントロールアプリを付けっぱなし、というわけにはいくまい。
別のアプリを起動するためにホーム画面に戻ったり……
(この場合アプリはバックグラウンド動作になる)
バッテリーの消耗を抑えるためにアプリを終了させたり……
(コントロールアプリはどれもこれも基本的に電力食いである)
もしくは、単に放っておいて自動ロック/スリープになったり。
これらはみな基本的な動作であり、日常的に起こり得る。
問題はここからだ。
使用するプレーヤーが「On-Device Playlist」に対応していない場合、
ホーム画面に戻った時、
アプリを終了させた時、
端末がロックされた時、
現在再生中の曲が終了した時点でプレイリストの再生が止まる。
つまり、次の曲が再生されない。
上記三点のどこでプレイリストが機能しなくなるかは、使用するコントロールアプリとプレーヤーによって微妙に異なる模様。
このふざけた現象を防ぐためには、コントロールアプリを常に最前面で起動し続けるしかない。さらに言えば、それでもなお次の曲が再生されないプレーヤーもある。アプリを復帰させるたびにプレイリストが消滅する場合もある。もうどうしようもない。
これをCDプレーヤーで考えれば、「リモコンを常にプレーヤーに向けて再生ボタンを押しっぱなしにしないと一曲ごとに再生が止まる」ということに等しい。
「再生ボタンを押せばアルバム内の全曲が再生される」という、音楽を聴くうえで至極当然のことすら満足にできない。
このようにそもそも音楽再生機器として甚だしく不適当と言わざるを得ない代物こそ、「便利」「快適」などと謳う大多数のネットワークオーディオプレーヤーの正体である。
こんな製品がまかり通るようでは、ネットワークオーディオプレーヤーという製品ジャンルが没落するのも当然だ。まったくもって情けないことこのうえない。
さて、大多数のネットワークオーディオプレーヤーがこんな有様なのは、端的に言えば大多数のネットワークオーディオプレーヤーがプラットフォームにDLNAを採用していることに起因する。
とはいえ、DLNAの仕様(※)がどうしたこうしたとか、そんなものはユーザーからしてみれば知ったことではない。問題は、こんなザマになるとわかっていて、なぜDLNAを(そのまま)採用したのかという話である。
だから音質以前にやることがあるだろ! 音質以前に!
※DLNAのシステムでは、DMR(つまりプレーヤー)ではなく、DMC(コントロールアプリ)がプレイリストを保持する。よって、アプリを終了したりバックグラウンド動作にしたりすると、再生指示が行われなくなり、結果的にプレイリストの再生が止まる。
DLNAは「プレーヤー」と「コントロール」を分離させるという発想自体は素晴らしかったのだが、なぜプレイリスト絡みがこんな仕様になってしまったのか理解に苦しむ。再生するコンテンツが「音楽」ではなく「映像」ならば、この仕様でも問題にならなかったのかもしれないが……
そこで、「On-Device Playlist」である。
On-Device Playlistとは、デバイス、すなわちプレーヤー側がプレイリストを保持する機能を意味する。
音楽再生に関わるプレイリストの挙動、編集、管理はあくまでコントロールアプリが担うが、その「保持」をプレーヤーが担うのである。ここ重要。
プレーヤーがOn-Device Playlistに対応することで、仮にコントロールアプリを終了させても、プレーヤーが保持するプレイリストに基づいてプレーヤー側からサーバーにリクエストが送られるため、曲の再生が止まることがない。
また、On-Device Playlistに対応するプレーヤーであれば、使うコントロールアプリによって再生機能に差が生じることはない。つまり、「純正アプリを使わなければギャップレス再生もプレイリストの継続再生もできない」なんてことは基本的に起こらない。
こうして、「コントロールアプリを終了させようがコントロール端末の電源を切ろうが使うアプリを変えようが、再生ボタンを一度タップすれば、プレイリスト内の全曲が自動的に再生される」という、音楽再生機器としてあまりにも当たり前の機能が担保される。
そんなこんなで、DLNAと同様にUPnPをベース(※)にしながら、On-Device Playlistを含む諸々の機能をまとめたOpenHomeというプラットフォームが誕生している。
※このため、OpenHome対応のネットワークオーディオプレーヤーでも、「サーバー」は従来通りUPnP/DLNA対応のものが使える。なお、DLNA/OpenHome両対応のプレーヤーを無理矢理DLNAにのみ対応するアプリで操作すると、おかしな挙動が引き起こされる場合があるので要注意。
DLNA/UPnPとOpenHome・プレーヤーとコントロールアプリの組み合わせについて
一応付け加えておくと、「On-Device Playlistに対応するプレーヤーは良いプレーヤーである」と褒めているのではなく、「まともな音楽再生機器であるためにOn-Device Playlist対応は必須である」と言っているに過ぎない。問題なく音楽再生が行えているなら、本来On-Device Playlistなんて機能は意識する必要すらない。
On-Device Playlist対応はゴールではなくスタートにもかかわらず、残念ながら、UPnP/DLNAの仕様をそのまま採用したネットワークオーディオプレーヤーは、音楽再生機器として当然の機能さえ備えていないものが多々あった(ある)、という話である。
ただ、たとえDLNA準拠のプレーヤーであっても、メーカー純正/専用/推奨アプリと組み合わせた場合であれば、On-Device Playlistがきちんと機能するなど、優秀なユーザビリティを実現している製品は存在する。
一方、PCの再生ソフトを使っている場合、JRemoteやMonkeyMoteといったコントロールアプリは、あくまで再生ソフトそのものをコントロールしているだけなので、基本的にOn-Device Playlistなんて問題を気にする必要はない。
この辺の差も、黎明期において「これだからネットワークオーディオは……」という残念感を醸成する一因となったのだろう。
※JRemoteやMonkeyMote、他にはDLNA準拠ではない単体プレーヤーの専用コントロールアプリをDMCと呼ぶのは誤り。DMCとはあくまでDLNAの仕組みにおけるコントローラーの呼称に過ぎず、すべてのコントロールアプリがDMCというわけではない。
「PCの再生ソフトのコントロールアプリ」におけるプレイリストとは、つまるところ再生ソフト本体のプレイリストのミラー表示である。
「On-Device Playlistに対応したネットワークオーディオプレーヤーは何か?」という問題は、UPnP/DLNA準拠の製品が大多数を占めている以上、依然として存在する。
【2017年末現在】、LINN DSをはじめ、LUMIN、TEAC/ESOTERIC、SFORZATO、DELA、fidataなど、国内外でOpenHomeに対応するネットワークオーディオプレーヤーは増えつつある。
あとはJPLAYStreamerやTuneBrowserなど、OpenHomeに対応することで、音楽再生の操作を優れたサードパーティー製のアプリに委ねるという再生ソフトも存在する。
→JPLAYはバージョンアップでOpenHomeを捨て、DLNAに回帰する選択をした。
UPnPではなくMPDを採用するネットワークオーディオプレーヤーは、システムの構造的にプレイリスト絡みの問題は最初から生じなかったのだそうだ。
自社で独自のシステムを作り込んだプレーヤーであれば、当然のようにOn-Device Playlistに対応していると思われる。aurenderなど、優れたユーザビリティを実現している製品もある。
ちなみに、プレーヤーとコントロールアプリの双方がOpenHome対応であれば、アプリを切り替えてもプレイリストが同期・共有・保持される。このことに大きな意味があるかどうかはさておき、少なくとも便利ではある。
使い道は……例えば他の人が聴いている最中、プレイリストの次に再生される曲にネタ曲を仕込むとか、そういうアレ。
On-Device Playlistによるアプリ間のプレイリスト共有はこんな感じ。
ギャップレス再生とOn-Device Playlist/オンデバイス・プレイリスト。
プレーヤーがまともな音楽再生機器であるために最低限必要なもの。
どれだけ音が良かろうが、音楽再生機器として破綻している代物に用は無い。
「音質」と「快適さ」を両立してこそのネットワークオーディオである。
ネットワークオーディオプレーヤーにおける世代間断絶と、本当に求められるもの
BubbleUPnP Serverを使ってプレーヤーをOpenHomeに対応させる