Roon Serverの重要性――Roon Readyを本当に活かすために必要なもの

 音楽の海を泳ぎ回れるRoonはよい。
 システム構築の柔軟性と発展性を高める意味で、Roon Readyもよい。
 しかし、Roon Readyの前提として忘れてはならないものがある。
 それがRoon Serverだ。

Roonの「Core」・「Control」・「Output」

 Roon ServerはRoonのシステムの中で「Core」と「Output」の機能を持つソフトであり、「実際にRoon Serverが動いている製品/ハードウェア」としての意味も持つ。「Control」がないということは、自前でコントロールのためのディスプレイやインターフェースを持たず、別途「Control」の端末、iPhoneやらiPadやらが必要になることを意味する。これはネットワークオーディオにおけるコントロール独立モデルと等しい。
 一応「Output」も機能として持つとはいえ、立ち位置的にUSB DACやRoon Readyプレーヤーなどの独立した「Output」と併用して音質を追求することが基本と思われることから、Roon Serverの本質はあくまで「Core」だと言える。
 Roonにおいては「Core」が「ライブラリ機能=サーバー」と「再生機能=プレーヤー」を担うため、オーディオ機器としての単体Roon Serverは製品ジャンル的に「ミュージックサーバー」と呼ぶことができる。

 ちなみに、Roon ServerはOutputを持っているため、ネットワーク内の他の機器でCoreが動いていれば、その時はRoon Readyプレーヤー/Roon Bridgeとして機能する。
 つまり、(意味があるかどうかは別として)Roon Serverを2台用意すれば、1台をCore、もう1台をOutputとして使うことができる。

 さて、問題なのはここからだ。 

 Roon ReadyはUPnP/DLNAとも、OpenHomeとも異なる、RAATに基づくRoon独自のネットワークオーディオのプラットフォームである。それは同時に、同一の製品でUPnP/DLNA/OpenHomeのシステムとRoon Readyのシステムが両立しないという可能性も孕んでいる。

 Roon Readyプレーヤー(Output)は実質的に「LANケーブルで接続するDAC/DDC」として機能するため、さしたるマシンスペックを必要としない。それに対し、Roonの強力なライブラリ機能と再生機能を一手に担うRoon Server(Core)は、スムーズな動作のために相応のスペックが要求される。Roonの推奨動作環境を見る限り、そのスペックは決して低くはない。

 馴染み深いUPnP/DLNA/OpenHomeのプラットフォームでは、「サーバー」にPC以外の単体サーバー(要はNAS)、「プレーヤー」に単体ネットワークオーディオプレーヤーを用いることで、音楽再生の現場にPCを介在させないシステムを容易に構築することができる。さらに、DELAやfidataなど、真にオーディオ機器と呼び得る単体サーバーも製品化されており、音質追求の可能性も大いにある。

 一方で、「サーバー(ライブラリ機能)」と「プレーヤー(再生機能)」を兼ねるRoon Serverは、Coreのスムーズな動作のために、必然的にPCか、限りなくPCに近いハードウェアを使わざるを得ない。UPnP/DLNA/OpenHomeと比べて、製品の選択肢は著しく制限されてしまう。例えばネットワークオーディオ用のNASとして確固たる地位を築いているQNAPでも、スペックの問題からよほどの上位モデルでない限りそもそもCoreが動くまい。あるいはどうにか動いたとしても、ガタガタの挙動では、高度なユーザー・エクスペリエンスが本懐であるRoonの真価を味わえるとはとても言い難い。

 今まで狭義のネットワークオーディオは狭義のPCオーディオに対し、「NASが使える=再生の現場にPCを介在させずに済む」ことを売りにしてきた感がある。しかし、「Roon Server + Roon Readyプレーヤー」のシステムでは、現状サーバーとして使われているほとんどのNASがRoon Serverとしては使えそうにない。これは辛い。
 Roon Readyのシステムで、PCの介在を厭い、音質を追求すべくRoon ServerとRoon Readyプレーヤーの両方を単体オーディオ機器で揃えようと思っても、現状では極めて困難であると言わざるを得ない。UPnP/DLNA/OpenHomeのシステムのように、「NAS + ネットワークオーディオプレーヤー」というPCの介在しないシステムを簡単には構築できないのである。将来的に(ソフトとしての)Roon ServerがLinux等に対応してインストールベースが広がるにしても、動作環境が引き下げられるわけではないので、この状況はそうそう変わるまい。
 要するに、Roon Readyのシステムは多くの場合Roon Serverの存在が足枷となって、Roon Readyプレーヤー=ネットワークオーディオプレーヤーを使うことから狭義のネットワークオーディオに見えるが、実際にはPCを再生機器に用いる狭義のPCオーディオの様相を呈することになる。音楽再生専用のオーディオPCを既に持っているなら話は変わるが、この状況でどれだけRoon Readyが受け入れられるか、正直なところ未知数だ。

 将来的にオーディオ機器としての単体Roon ServerあるいはRoon Serverとして機能し得るオーディオ用PCが多数登場したとしても、Roon Readyは別の問題も抱えている。
 それは、Roon Readyプレーヤー/Roon BridgeはRoon Server(Core)を必要とするが、Roon ServerはRoon Readyプレーヤー/Roon Bridgeを必ずしも必要としない、ということだ。
 
 ハードがPCかオーディオ機器かに関わらず、「Core」を持つRoon Serverは、それ自体で音源の再生機能を有する。そのため、USB出力があれば(実際にほとんどの機器が搭載している)、直接USB DACを繋げるだけで済む。「Output」にわざわざRoon Readyプレーヤー/Roon Bridgeを使う必要はない。
 オーディオ機器として磨かれた単体Roon Serverをシステムの中核に据えることを考えた時、家中に音楽を配信しようという意図がなければ、Roon Readyプレーヤー/Roon Bridgeの重要性は相対的に低下する。実際問題、Coreが動いている限り、目に見える再生機器に何を使おうと、それこそPC/Roon ServerにUSB DACを繋げようがRoon Readyプレーヤー/Roon Bridgeを使おうが、Roonの真価は何一つ損なわれることはない。
 ユーザーはただ、音の好みや設置の自由度で機器を選択すればいいのである。

 結局のところ、ネットワークを用いるRoon Readyの優位性は設置の自由度・システムの発展性という点に集約される。
 幅広いシステムでRoonの高度なユーザー・エクスペリエンスを実現し、なおかつ前提条件としてオーディオ的な配慮が為されているという意味で、Roon Readyとその基礎にあるRAATは「オーディオファイルのためのAirPlay」と公式に呼ばれているのだろう。

 メーカーに目を向ければ、ネットワークオーディオプレーヤーにRoon Readyを採用するのは理に適っている。今からRoonに絶対値で匹敵するユーザビリティを実現することはOpenHomeであっても困難に思え、現にRoon Labsは「ユーザー・エクスペリエンスに関してはうちがやるんで、お互い強みを生かしましょうよ」とオーディオメーカーにRoon Readyの存在をアピールしている。高音質と快適な音楽再生の融合はネットワークオーディオの理想である。メーカーとユーザー、双方にとって悪い話ではないはずだ。
 しかし、もしRoon Readyを狭義のネットワークオーディオとして、従来のイメージの延長線上で訴求していくとすれば、「Roon Serverの器に何を使うか」ということをきちんと考えなければなるまい。そのうえでなければ、「え、今持ってるNASはRoon Serverとして使えないの?」と肝心なところでがっかりするだけの未来が目に見えている。
 Roonはよい。Roon Readyもよい。だからこそ、伝えるべきことは伝える必要がある。

 ただし、別にPCを使うことそれ自体は問題ではない。実際、現時点における数少ない「Roon Serverとして機能する単体オーディオ機器」であるAntipodes DX Music ServerもSotM sMS-1000SQも、蓋を開ければLinuxベースのOS、あるいはまんまWindows Serverが走るPCだと言える。
 別にそれでいいのである。ただただ、音楽再生時にPCの存在を意識せずに済み、なおかつきちんとオーディオ機器として作られた製品が欲しいだけなのだ。

 マシンスペックや汎用性において間違いなくPCでありながら、音楽再生時にPCの存在を意識せずに済み、なおかつきちんとオーディオ機器として作られた製品

 これこそ、純然たるオーディオの領域においてRoon Readyを本当に活かすためにも必要なRoon Serverの器であり、同時にPCオーディオとネットワークオーディオの不毛な対立に終止符を打つ最後の一撃でもある。

 そして、ほんの少し偏見を取り去って冷静に見回してみれば、そういった製品は既に、間違いなく存在している。

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