ファイッ! pic.twitter.com/GdQ2BCSFA8
— 逆木 一 / Audio Renaissance (@sakaki_hajime) February 26, 2022
この時にもっと切り込んでいれば、こんな記事を書く状況にはならなかったかもしれない。
目次
Amazon Music (HD)と、それに対応するということ
※サービスのスタートの時点では高音質を強調するために「HD」が前面に出ていたが、なんやかんやあって、ロスレス品質の音源は現在「Amazon Music Unlimited」のプランの特典的な形で統合されている。とりあえず色々プラン名があってややこしいので、ここでは単に「Amazon Music」とする。
ちなみに「HD」とは「High Definition」であり、普通に考えれば「ハイレゾ」と同義だが、Amazonは「ロスレス44.1kHz/16bit=CD相当」の音源を「HD」と呼び、「それ以上のスペック=ハイレゾ」の音源を「Ultra HD」と呼んで区別している。オーディオファンとしてこの呼称はいかがなものかと思う一方、とりあえずこの記事の内容とは関係ない。
Amazon Musicはロスレス/ハイレゾ音源を提供する音楽ストリーミングサービスであり、最大で192kHz/24bitの音源が用意されている。
となれば、「Amazon Music (HD)に対応する」と言った時、それは「192kHz/24bitの音源を再生できる」と考えるのが至極自然だ。
そしてこの「192kHz/24bitの音源を再生できる」は、「48kHz/24bitの音源は48kHz/24bitのまま、96kHz/24bitの音源は96kHz/24bitのまま、192kHz/24bitの音源は192kHz/24bitのまま、ダウンサンプリングを経ず、ビットパーフェクト(※)で再生できる」ということを至極当然に含意している。というより、常識すぎて意識すらしないレベルの大前提だろう。
※ユーザー側が再生ソフト等を使って自分の好みでアップサンプリングを行ったり、メーカー側が自分たちの目指す音のために独自アルゴリズムでアップサンプリングを行ったり、というケースももちろん考えられる。あとはDACに入力される段階でオーバーサンプリングやら何やらも関わってくるが、あくまでDACより上流の話題だと理解されたい。
というわけで、「Amazon Musicに対応するオーディオ機器」は、「Amazon Musicに用意されている音源を192kHz/24bitまでばっちり再生できる」と考えるのが至極自然だ。少なくとも、音質を大切にするオーディオの世界においては。
逆に、「Amazon Musicに対応する」と言いつつ、例えば「192kHz/24bitの音源まで一通り再生はできるけど、積んでるDACの関係で全部44.1kHz/16bitにダウンサンプリングされるよ」といった仕様があるなら、それは当然ながら製品仕様として明記すべき情報である。ごく廉価だったり、本格的なオーディオをまったく志向していなかったりする製品ならともかく、オーディオ機器たらんとする製品ならば至極当然の話である。
Amazon Musicに限らず、例えば「LAN入力/ネットワーク再生は384kHz/32bitの音源に対応するが、384kHz/32bitは192kHz/24bitに、352.8kHz/32bitは176.4kHz/24bitにダウンコンバートされる」機器があるとする。その情報を仕様に書かないなんてことは、少なくとも私にはとても考えられない。
真に問題なのは製品の仕様がイマイチなことではなく、それを隠すことである。仕様が明示されていればこそ、たとえイマイチに思う仕様があったとしても、それを吟味して、納得したうえで、製品を導入することができる。しかし、仕様が隠されていれば、消費者は判断の機会すら奪われることになる。
実際にAmazon Musicに対応する製品
Amazon Music HDは今から約3年前、2019年9月にスタートした。TIDALもQobuzも一向に音沙汰がなく、世界から取り残される疎外感を味わい続けてきた日本のオーディオファンにとって、「日本でも正式にサービスが提供される」「192kHz/24bitまでのロスレス/ハイレゾ音源がラインナップされる」「邦楽が充実している」などなど、Amazon Music HDのスタートは本当に待ちに待った瞬間だった。
ただ、大きな問題もあった。先行するTIDALとQobuzでは当たり前に実現されていた、「オーディオ機器との連携/統合」が遅々として進まなかったのである。
LINNしかり、LUMINしかり、今までネットワークプレーヤーを手掛けていたメーカーは、当然Amazon MusicもTIDALやQobuzのように製品にサービスを統合してアプリから一括で扱えるようにすべく開発を進めたはずだが、今に到るまでそれが成就した例は少ない。ぱっと思い付くのは、2021年3月にアップデートで対応を果たしたヤマハ(MusicCast搭載製品)、日本には入ってきていない(残念!)AURALiC、ソリューションであるITF-NET AUDIOくらいだ。
オーディオファンからすれば「なんでこんなにAmazon Music対応に苦労するんだ?」と思うところだが、とにかくその辺は色々あるのだろう。私もすべての事情を知っているわけではない。
そんなこんなで、本格的なオーディオの領域においてAmazon Musicを使おうと思えば、最初期から対応していたBluesoundやデノン&マランツ(HEOS)、その後に対応したヤマハの製品が主要な選択肢になるという状況が長らく続いていた。
ちなみに私が持っているものだと、BluesoundとD&Mの製品は、言うまでもなく192kHz/24bitの音源までばっちり再生できる。
Bluesound
使っているのは「NODE (2021)」。
Bluesoundの純正アプリ「BluOS」ではAmazon Musicの音源を再生時にスペックが表示されないので、NODEからデジタル出力(USB)してiFi audio NEO iDSD側で確認。
デノン&マランツ(HEOS搭載機器)
使っているのはマランツのAVアンプ「NR1608」。
再生画面左上のアイコンをタップすると、現在再生中の音源の情報が表示される。
Silent Angel製品がAmazon Musicに対応
2021年11月、「近いうちにAmazon Musicに対応するよ」という予告を引っ提げてSilent Angelの製品が日本に導入された。
そして今年1月、予告通りSilent Angel製品がアップデートで正式にAmazon Musicに対応した。
Silent AngelのネットワークトランスポートM1/M1T、ミュージックサーバーZ1がAmazon MusicのHD、Ultra HDの再生に対応しました。
最新のファームウェアにアップデートすることで、専用アプリVitOS OrbiterからAmazon Musicを再生できます。
【Silent Angel】M1,M1T,Z1がAmazon Musicのハイレゾ音源に対応 2022年01月27日
https://kanjitsu.com/news/202201-1/
これはAmazon Music対応製品に飢えていたオーディオファンに喜びをもって迎えられた。特にM1Tは「高度なスペックを備えつつAmazon Musicに対応するネットワークトランスポート」であり、どちらかといえばカジュアル路線を意識しているBluesound製品と比べて本格的なオーディオを志向する製品という立ち位置を確立し、手頃な価格もあって熱心なオーディオファンから大きな注目を集めた。
「高音質ストリーミングを聴くならM1」「ネットワークオーディオの新定番Z1」という風に、特にAmazon Music対応を訴求するプロモーションが精力的に展開され、にわかにSilent Angelブランドは盛り上がりを見せていた。外から見ている限り、ショップやユーザーの評判も上々のようだった。
私はネットワークオーディオこそ現代におけるオーディオの在り方だと考えており、それだけに優れたネットワークオーディオ製品の登場はいつだって喜ばしい。この頃はiFi audioの「ZEN Stream」、Bluesoundの「NODE (2021)」と手頃な価格かつ優秀なネットワークプレーヤーが連続して登場していたこともあり、Silent Angel製品にもおおいに期待したものだった。
こうして、自分でもその実力を確かめるべく、輸入元の完実電気にお願いして「M1」の試聴機をお借りした。DAC搭載モデルをお借りしたのは、NODEのアナログ出力やZEN Streamのデジタル出力も含めて色々と比較がしたかったため。
そりゃもう、胸は期待でいっぱいである。
ファイッ! pic.twitter.com/GdQ2BCSFA8
— 逆木 一 / Audio Renaissance (@sakaki_hajime) February 26, 2022
しかし……
私も試聴機を借りてみたが……
Silent Angelの純正アプリ「VitOS Orbiter」でM1を一通り使ってみた段階で、私は完実電気に正直な印象をはっきり伝え、以降は沈黙する道を選んだ。
そして私はSilent Angelというブランドに対する関心を喪失した。その後は、廉価モデルの「B1/B1T」が発売されたとか、夏頃にアプリのアップデートでレスポンスが劇的に改善されたという話に接した程度。
このまま沈黙をもって、私とSilent Angelの縁は切れたままになるはずだった。
え?????????????????????
つい先日、Amazonのブラックフライデーセールをうろついていたら、「お客様が閲覧した商品に関連する商品」の中にSilent AngelのB1/B1Tが表示されており、わかってんなこいつ……と思いながら、何の気なしに、商品ページを見てみた。
Silent Angel B1T ミュージックストリーマー - Amazon
やけに評価が低いけどなんだこれ……と思い、ユーザーレビューを見てみたら、
NN
5つ星のうち1.0 amazon music hd 利用時での評価
2022年10月18日に日本でレビュー済み
サイズ: DAC非内蔵
以下を輸入販売元から確認しました。1.B1Tのソフトに問題がありamazon music hd は44.1khz/16bit固定で出力されているとのこと。
ソフトのアップデートも時間がかかる見込みだそうです。
※それじゃCDと同等音質かというと、音圧低くどこか遠くでぼんやり鳴っている感じでCD以下に聞こえました。2.サンプリングレートの表示がないのは仕様。これはamazon music hdだけでなくNAS等の音楽データの再生も同様に表示されないとのこと。
以上
Cub
5つ星のうち1.0 輸入元はamazon music HDではないことを明確にするべき
2022年11月20日に日本でレビュー済み
サイズ: DAC内蔵
Amazon music のハイレゾ音源が聴きたくて購入したのに「44.1k/16bitのみの対応です」ってひど過ぎますね。あまりにAmazon miusic の音が悪いので問い合わせて愕然としました。完実電機信頼していたのに本当に残念です。
え?????????????????????
「Amazon Musicの96kHz/24bitの音源を再生したらハイレゾらしい分解能の高い音で感心」って書かれたB1/B1Tの記事が最新の雑誌に載っているのに、こんなことってあり得る?
かなり困惑しながらM1/M1Tの商品ページも見てみた。
Silent Angel M1 4GB ミュージックストリーマー DAC搭載… - Amazon
Cub
5つ星のうち2.0 Amazon music HD 192kHzは非対応
2022年11月20日に日本でレビュー済み
サイズ: DAC非搭載色: 8GB
Amazon music HDは現在96kHzまでの対応だそうです。しっかりと告知して欲しかった残念!
え?????????????????????
M1/M1Tは今まで数多くのレビューが為されてきたのに、こんなことってあり得る?
大慌てでM1/M1TとB1/B1Tの製品ページを確認したが、上記のような仕様は一切掲載されていなかった。ただ、「Amazon Musicに対応」と書かれているのみである。
それどころか、アレコレと調べるなかで、上記のような仕様はつい最近判明したわけではなく、少なくとも数か月前の時点で把握されていたこともわかった。
こんな極めて重要な情報を仕様として書かない、なんてことはあり得るのか?
あるいは、M1/M1TはAmazon Musicに対応した当初は問題なく192kHz/24bitの音源も再生できていて、その後のアップデートで何かしら不具合が生じて192kHz/24bitの音源が96kHz/24bitにダウンサンプリングされるようになってしまったのか? B1/B1Tも実は同じような事情だったりするのか?
DAC搭載モデルのM1とB1でアナログ出力を使う場合も、「192kHz/24bitの音源は再生できるけど内部では強制的にダウンサンプリングされてDACに入力される」仕様なのか?
もしかしてミュージックサーバー「Z1」も同じような仕様なのか?
いずれにしても、なぜ公式にアナウンスしないのか?
むしろ、私自身M1の試聴機を借りて使ったことがあるのに、なぜこんな大事なことに気付かなかった? となって、当時撮ったスクショなどの記録を引っ張り出して、何を見逃していたのかを再確認した。
結果、私はM1で、Amazon Musicで96kHz/24bitの音源を再生して、それをもって「お~、ちゃんとAmazon Musicのハイレゾ音源を再生できてる」と認識していたことが判明した。
つまり私は、M1の内蔵DACを使う場合でも、デジタル出力を使う場合でも、「Amazon Musicの192kHz/24bitの音源を再生していなかった」。
痛恨である。
「Amazon Musicに対応する製品で96kHz/24bitの音源が再生できているのに、192kHz/24bitの音源が再生できないと考える理由がない」という、常識的見地から言い訳をすることはできるだろう。しかし、192kHz/24bitの音源の再生までチェックしなかった、というのは間違いなく私の落ち度である。そもそもそれ以前の根本的な問題に遭遇していたせいで検証のモチベーション自体がダダ下がりだった、というのも言い訳にはなるまい。
もし、ここで「Amazon Musicの192kHz/24bitの音源を再生すると妙なことになる」と気付いていたら、「レスポンス酷すぎてやばいですよこれ」と伝えるだけでは絶対済ませなかったし、決して沈黙している場合ではなかった。
もう愕然に次ぐ愕然で頭がぐちゃぐちゃである。
事ここに及んで、完実電気に確認した。
以下の内容が、Silent Angel製品のAmazon Music対応の仕様の、現状の実態である。
・M1/M1Tで再生する場合は96kHz/24bitでの出力が最大レート
B1/B1Tで再生する場合は44.1kHz/16bitでの出力が最大レート
これはアナログ出力時も同様
・Z1においても、Amazon Musicの再生は96kHz/24bitが最大
この記事を書いている時点で、上記の情報は依然としてSilent Angelのブランドサイトや製品ページに一切掲載されていない。
私はこのような状況は決して看過されるべきではない問題だと認識しているが、あとの判断は読者の皆様、そしてなにより、他ならぬSilent Angel製品のユーザーに委ねることにする。
なお、完実電気とSilent Angelは双方共にビットパーフェクト再生の重要性は当然認識している。メーカー側には今後のアップデート等で192kHz/24bitでの再生が可能となるよう要望しており、実際に改修作業が行われている。ただし、Amazonとの連動等も関係してくるようで、改善がいつになるかはまだ明確ではない。とのことだ。
最後に
Silent Angel製品のAmazon Music対応の仕様について、私は凄まじい後悔と反省の念を抱いている。
結果的に、この状況を見逃し、見過ごし、放置してきてしまったからだ。試聴機を借りた時点で気付けなかった自分のいい加減さ、苦言を呈しただけでフォローもしなかった自分の不甲斐なさ、今に到るまで問題にリーチすらできなかった自分のアンテナの低さ、すべてが恥ずかしく、また情けない。せめてオーディオ・ジャーナリズムの末席で在りたいと日々活動している私からすれば、いくら反省しても足りるものではない。
だからこそ、せめてものけじめとして、この記事を書いた。