ベートーヴェンの交響曲第5。
冒頭、運命が扉を叩く音。
その10秒程度の音だけを、指揮者を替え、オーケストラを替え、演奏を替え、ひたすらCDを入れ替えながら聴き続ける。
まず「誰の曲か」があり、次に指揮者があり、その次に、オーケストラ、演奏といったバリエーションがある。
私の知るとあるクラシック愛好家は、こんな風に厖大な演奏を聴き比べることにより、その曲の奥底に秘められた「何か」を覗き込もうとしていたように見えた。
そして“彼”はCDを入れ替え、音を聴くたびに、「な? 違うだろ?」と居合わせた人間に嬉々として語るのだった。
そんな“彼”に、ネットワークオーディオのシステムを紹介できたならといつも思う。
しかし、もはや紹介することさえ叶わないのが残念でならない。
はたして“彼”は喜んでくれるだろうか。
さて。
すべてのクラシック愛好家が“彼”と同じような聴き方をするわけではないだろうが、どのような聴き方をするにせよ、「聴く曲を選ぶ際に」必要とする情報は共通のはずだ。
“彼”の作法に倣えば、
・作曲家(誰の曲か)
・指揮者(誰の指揮か)
・オーケストラ(どこのオーケストラか)
・演奏(いつの演奏か)
これらがまず必須だろうし、他にも
・楽器(メインで使われる楽器は何か)
・歴史/時代区分(バロックとかロマン派とか……)
・演奏形式(管弦楽とか声楽とか……)
・ソリスト
・合唱
・レーベル
などなど、とにかくこだわればこだわるほど色々な情報が必要とされるはずだ。
と、ここでとあるクラシック音源の中身がどうなっているかを見てみたい。
1951年のバイロイト音楽祭、フルトヴェングラーによる第9である。
dBpoweramp CD Ripperでリッピングした結果、このようになった。
正しくリッピングすれば、これだけの情報が手に入る。
見ての通り、上で書いた情報は、以下の通りすべてタグとして項目が用意されている。
クラシックのためだけに用意されたと思しきものも多い。
・Composer(作曲家)
・Conductor(指揮者)
・Orchestra(オーケストラ)
・Year(演奏年)
・Instrument(楽器)
・Period(歴史/時代区分)
・Style(演奏形式)
・Soloist(ソリスト)
・Chorus(合唱)
・Label(レーベル)
しかし、知っての通り、問題は「タグが付加されていたところでそれが活用されるかどうかはソフト次第」ということだ。
タグとして情報を付加しても、それを活用できないのでは意味がない。
端的に言えば、冒頭の“彼”の聴き方、「作曲家→指揮者→オーケストラ&演奏年」という選曲の作法は、MinimServerを使ったクラシック専用サーバーの構築によって実現可能である。
それでもまだ足りない、「作曲家&指揮者&オーケストラ&演奏年」だけでは足りないという人もいるだろう。それに“彼”とて、常に同じような聴き方をしていたのではあるまい。
となれば、究極的なレベルでタグと向き合うことが求められる。もはやフォルダ構造を工夫したところでどうにかなるレベルではない。
そんなクラシック愛好家のために、Asset UPnPがある。
さすがはdBpoweramp CD Ripperを作っているillustrate社のサーバーソフトというべきか、Asset UPnPは上で示したすべてのタグをナビゲーションツリーに組み込んでいる。
上記すべてのタグに意識を巡らし、かつ活用し得るレベルにまでライブラリを作り込み、さらに自分自身の作法に合わせてAsset UPnPのカスタマイズも完璧に仕上げる。
クラシックをほとんど聴かない私には想像することしかできないが、そのための労力は、きっとルールを構築する時点から凄まじいものになるだろう。
しかし、決して不可能なことではない。
そのために何が必要かも、【音源管理の精髄】でずっと書いてきたつもりだ。
そして、音の深淵に秘沈された「何か」を見出そうとしていた“彼”の真摯さを思い起こすたびに、クラシックの愛好家にとってこの程度の労力など実は些細なものなのではないか、とも思えてくる。
それが自分と音楽との関わりに寄与すると思えば、“彼”はきっとライブラリの構築に着手したことだろう。
自分が望む聴き方を実現するために、どうすればいいのかは既に分かっている。
そのための道具もある。
あとは実践するか否かだ。
自分のライブラリにどこまで愛情を注ぐか。
すべてはひとりひとりのこだわり次第。
音源の管理運用は、結局そこに辿り着く。