CES2015の「Streamer」に見るネットワークオーディオプレーヤーの復権

 とある刺激的な記事。

11 Years of US CD Sales - stereophile

 数字が示す冷酷な現実に対し、記事のコメント欄でも激論が交わされている。

 CDはもう終わりだァ! と嘆く声。
 こんなもん今に始まったことじゃねーべ今更騒いでどうする、という冷静な声。
 リッピングしてから聴いたほうがCD直で聴くより音がいいぞ、という声。
 どう頑張っても物理メディアで聴いたほうが音がいいぞ、という声。
 流行り廃りなんて知ったこっちゃねーおれはCDを買い続けるぞ、という声。
 音源のデータが全部吹っ飛んだらどうすんだふざけんな、という声。
 バックアップをきちんとすれば全滅する可能性なんてまずないでしょ、という声。
 ダウンロードでもストリーミングでも何でもいいからMP3だけは勘弁してくれ、という声。
 それはそうといったいいつまでCDのリッピングをしなけりゃならないんだ、という声。

 この辺のユーザー事情はあちらもこちらも同じのようだ。
 ただ、ひとりひとりが「こうあるべき」とか「こうあってほしい」とか、あれこれと願望を持ったところで、最後は市場の動向次第だろう。
 売れないものが作られることはない。

 さて、ひとつの兆候がある。

stereophile CES 2015

 上のリンクはstereophileによるCES2015の記事をまとめたもの。
 一通り見てもらえればわかると思うが、CES2015においてCDプレーヤーの存在感は皆無に等しい。レコードプレーヤーにすら明らかに劣っている。たまにディスクドライブを備えた機器を見つけたかと思えば、「リッピング機能搭載のメディアサーバー」がほとんどという有様だ。
 これがいいことなのか悪いことなのかはもはや問題ではない。
 あるのは、「既にこうなっている」という事実だけ。

 もうひとつ、CES2015で注目すべき点がある。むしろここからが本題。

 「Streamer」という呼称/製品ジャンルが目に付く。例えばLUMIN S1も記事ではStreamerとして紹介されている

 ストリーマー。日本のオーディオ業界ではあまり馴染のない言葉だ。
 もっとも、内容を見てみれば、「ストリーマー」とは「音楽ストリーミングサービスに対応した(する予定の)ネットワークオーディオプレーヤー」を意味しており、決して異質な製品ジャンルというわけではない。
 「ストリーム」という言葉は、従来であれば「LANでデータを伝送する」という技術的な意味合いで使われていたが、語感から「ストリーミングサービス」をイメージさせる言葉として採用されたのだろう。

 普通に「Network Player」、あるいはサーバー一体型の製品の場合は「Music Server」という呼称が既にあるにも関わらず、なぜ「Streamer」という呼称が多くの製品で使われているのだろうか?

 音楽を聴く環境がクラウドからのストリーミングに移行した・しつつある昨今、ローカルに保存されたライブラリが前提というイメージを引きずる「Network Player」あるいは「Music Server」という呼称が業界的に敬遠され、結果的に「Streamer」という新しい呼称が期待を集めているのだろうか。たとえ「Streamer」の実態がストリーミングサービスに対応したネットワークオーディオプレーヤーそのものなのだとしても。

TIDALがもたらすもの

 CES2015に並んだ製品を見ていると、「Streamer」をはじめとするネットワーク界隈と「DAC」単体では、ネットワーク界隈の方が勢いがあるように思える。二つの機能が同居する場合も多い(要はDACを搭載する“プレーヤー”という製品ジャンル)とは言え、Dan D'Agostinoのアンプにさえネットワーク機能とストリーミングサービスがビルトインされる勢いである。完全にUSB DAC一強の日本とは大違いだ。

 そして製品ジャンルとしてのネットワークオーディオプレーヤーも、既に諸々のストリーミングサービスに対応していることが前提になりつつあるようだ。従来のローカルライブラリだけではなく、SpotifyやTIDALといったサービスに対応していなければ、そもそも「これからの音楽を楽しむ機会を失ってしまう」という危機感がオーディオ業界の側からも感じられる。
 結局のところ、PCをはじめあまりにも多くの組み合わせ要素が絡むUSB DACよりも、ストリーミングサービスへの対応で音源も機器の側でカバーできる、単体オーディオ機器としてのネットワークオーディオプレーヤー/ストリーマーの方が、メーカー的にも作り込みやすいのだろうか。

 いずれにせよ、クラウド・音楽ストリーミングサービスの爆発的な普及により、製品ジャンルの呼称として「Streamer」という新たな言葉が生まれるくらいには、ネットワークオーディオプレーヤーに再び脚光が当たることになったようだ。海外のメーカーが「ネットワークオーディオ」という領域をどのように定義しているのかは定かではないが。
 

 ちなみに何度も言っている通り、私は製品ジャンルとしてのPCオーディオ/USB DAC、ネットワークオーディオ/ネットワークオーディオプレーヤーを無闇に区別して対立を煽る意図は全くない。
 いわゆるPCオーディオでも、再生ソフト側にTIDALやら何やらのサービスが組み込まれれば結局は同じこと。
 私は単に個人的に嬉しいという理由で、CES2015を見るとネットワークオーディオプレーヤーの新製品が色々あるよ、ということをこの記事で伝えているだけである。

 

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