DELA N1Z 来たる
運用編
サーバーソフト編
音質編
USB DAC接続機能を試したかった
激突! DELA N1Z vs LUMIN L1
DELA N1Zは……端的に言って、難しい。
筐体は文句なしに豪華。インシュレーターへのこだわりなど見るべきところは多い。
デザインも、オーディオラックに置いても不自然ではなく、それでいて出しゃばらない造形と考えれば上手い落としどころか。
ハードウェア的には「オーディオ機器としてのネットワーク機器」を標榜したところで罰は当たるまい。というより、これを「NASです」と言われても俄かには信じ難い。
ソフト面、運用面でも、オーディオ的な視点が貫かれている。
「大多数のオーディオマニアはPC的な領域に強くない(強くないどころか……)」という現実を事実として受け止めたうえで、それじゃあどうする、という思考が随所に感じられる。
本機の運用は物足りなくなるくらい簡単で、分かりやすい。PC側から行うことはデータを保存することだけに留め、それ以外の一切の設定は本体側から行う。特に問題ない設定になっているとはいえ、売りになっているTwonkyServerすらユーザーから隠されている。LUMIN L1の何もかも削ぎ落としたようなシンプルさとは違うが、本機の運用も十分すぎるほどにシンプルだと言える。
時として「なんでこんなものが必要なんだ?」と思ってしまう諸々の要素も、結局は「大多数のオーディオマニアはPC的な領域に強くない」という前提に立っているからこそ。尖った仕様にして間口を狭めるくらいなら、変に思われようがとにかく親切設計に徹するに越したことはない……そんな思想が見える。
音質についても、音に対する明確な主張を一切持たないのと引き換えに、「システムの中にあって透明である」という、PC的なハードウェアとして得難い資質を有している。
オーディオ機器として音作りに積極的に関与せず、ひたすら存在を消し去るという方向性は賛否あると思うが、「PCの呪い」から解放されることの意味は巨大である。
ハードも、ソフトも、音も、総じて良く出来ている。
というより、ケチの付け所がない。
ただ、問題が一点ある。
あえてずっと触れてこなかったが、そう、価格である。
高い。70万はする。高い。
今までの検証で色々と見つけてきた様々な美点も、この価格を前にすると非常に危ういものになってしまう。
こんなに高いんだから、筐体がしっかりしていて当たり前、ソフトも運用面もわかりやすくて当たり前、音も良くて当たり前。この「当たり前」の高いハードルをクリアしているかどうか、正直なところ私にはわからない。
とはいえ、ケチの付け所が一つでもあった瞬間、そこから存在意義が音を立てて崩れ去ってしまうだろう。そういう意味で、DELA N1Zは極めて危ういバランスの上に成り立っている製品だと言える。
オーディオ用のサーバーに70万という価格は妥当なのか?
「PC周辺機器」として見れば、異様そのものとしか映らないだろう。
ただ、「オーディオ機器」として考えれば、途端にそれらしく思えてくるから不思議というか、業が深いというか。ケーブルに数百万円のプライスタグを付ける業界だから無理もない。ぎょっとする価格のDAPが次々に出てくる昨今、これだけの内容ならばサーバーに70万という値が付いていてもおかしくはないと思うが。どのみち導入できる人は限られる。そして、特にN1Zは最初から「PCに強くないオーディオマニア(しかもお金持ち)」を狙っているようにしか見えないので、それはそれで別に困るまい。
いや、そもそもDELA N1Zは「サーバー」なのか? 最近のファームアップでUSB出力を備えたネットワークオーディオトランスポートとしての機能を獲得し、USB DACと繋がる――実質的なUSBオーディオ≒PCオーディオ的な要素をも内包した今となっては、もはや「サーバー」と呼ぶこと自体間違っているのではないか?
などという不毛な思考を気にも留めずに、DELA自身は「デジタルミュージック・ライブラリー」を名乗る。
きっと答えはそこにあるのだろう。
純粋にサーバーとして使われようが、ストレージ内蔵ネットワークオーディオトランスポートとして使われようが、自身の内に音源を保存し、それを配信することに変わりはない。
音源がどのような方法で再生されるかは問題ではなく、やはり「音源の保存と配信」こそがDELA N1Zの本懐なのだと言える。
それ以上でもそれ以下でもなく、使われ方に応じて全力で臨む。そしてユーザーにとってみれば、音源をどのように活用するかの選択肢が多いに越したことはない。
DELA N1Zが一番大切にしたいのは音源そのものなのだ。
ディスクが存在感を失う時代にあって、不可抗力的にデジタル・ファイルへと姿を変えていく音源を受け止める器となる。ただそのために、そのためだけに、“持てる技術のすべてを結集して、一切の妥協を捨てて”、おそらくは色々な方面からのツッコミも何もかも承知のうえで、DELA N1Zは生まれた。
DELA N1Zは、デジタルファイル音源時代の『音楽の座』だ。
実質的に「PCに強くないオーディオマニア(しかもお金持ち)」を狙い撃つような製品になっているのは事実だとしても、N1Z、DELAの根底にある思想は素晴らしい。
そして、間違いなく業界に風穴は開いた。
サーバーというものの重要性を知らしめた今、次はその中身となる音源そのものの重要性をいかに伝えていくかが肝になるだろう。音源の重要性はサーバーの重要性に直結する。勿論、ハイレゾ音源は音がいいとかそんなことを言ってるんじゃないぞ。
とまぁ、こんな具合に書いてはみたものの、やはり高いな……
N1Aとの価格差が大きすぎるというのも、N1Zが高いと感じてしまう一因になっている気がする。
DELAのメインとなっている(はずの)N1Aの、ストレージだけをSSDに変えた“N1AS”を出すというのは……どうだろう。ないかな。