【レビュー】Marantz NR1608 導入編
【レビュー】Marantz NR1608 設定・音場補正編
昨今の国産AVアンプはエントリークラスに到るまでネットワーク入力を持ち、ネットワークオーディオプレーヤーとしての機能も持ち合わせている。
が、それが「使い物になるかどうか」は、まったく別の話で……
メインで使っているPioneer SC-LX59のネットワーク機能なんて試してすらいない。
さて、NR1608にはネットワーク機能として、D&M入魂のネットワークオーディオのプラットフォーム「HEOS」が搭載されている。ヘオスじゃなくてヒオスと読むようだ。
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マランツのマの字も出てこない辺りがなんともアレだが、とにかくHEOSの登場以降、D&M製品に搭載されているネットワーク機能は基本的にHEOSとなっている。プラットフォームとはそういうものだ。
HPにでかでかと「HEOSはWi-Fiでつなぐワイヤレススピーカーです」と書かれているように、HEOSが意図しているのは本格的なオーディオではない気もする。
とはいえ、D&Mの製品がことごとくHEOSを搭載し、高級AVアンプでも単体ネットワークオーディオプレーヤーでもHEOSを使って音楽を聴くことになるのだから、その完成度は極めて重要だ。
というわけで、NR1608でHEOSを一通り試してみた。
検証は主にiPhone版のアプリで行った。基本的に画像はクリックで拡大する。
まず、HEOSアプリは「ルーム」(再生機器の選択)・「ミュージック」(各種音源のブラウズ)・「再生画面」を、画面下のアイコンで切り替えるデザインとなっている。うむ。
「ルーム」。
ネットワークに繋がったHEOS対応機器が表示される。
デバイス名の編集も可能。
「風呂」とか「寝床」といった選択肢は、HEOSの出自がマルチルーム・ワイヤレススピーカーであることの端的なあらわれだろう。
「ミュージック」。
音楽ストリーミングサービスもこの画面から選ぶ。
いつものローカル音源の再生は「ミュージックサーバー」から。
HEOSアプリはアプリ独自のナビゲーションツリーとして「アーティスト」「アルバム」「ジャンル」「トラック」を持っている。が、「アーティスト」と「ジャンル」はアルバムを介さずに該当する全トラックがドバっと表示される仕様なので使い道は謎。
サーバー本来のナビゲーションツリーを使うには「ブラウズ」を選択する必要がある。一部の項目にはご丁寧にアイコンを付けてくれるようだ。
アルバムを表示させたところ。
アルバムアートの表示が遅いこととタイル表示ができないことを除けば、視認性は高く、必要な情報が揃っている。スクロールもスムーズ。
アルバムの中身。
一曲単位・アルバム全曲ともに、プレイリスト登録時の挙動をその都度選択する仕様となっている。ちょっとめんどい。
ここで一点。
HEOSには、「Twonky Server」で、「同一アルバムタイトルかつディスクナンバーで管理している複数のディスクから成るアルバム」を表示させた時、曲順がおかしな並び方をする(よくよく見れば規則性はある)という意味不明かつ重大な問題が存在する。
Asset UPnPやMinimServerも試したところ、この問題はTwonky Serverと組み合わせた時のみ発生する。
日本では一番メジャーなサーバーソフトで起こる問題なので、早いとこなんとかしてほしい。そもそも私みたいな管理の仕方をしている人は皆無なのか?
気を取り直して「再生画面」。これはリピートとシャッフルを有効にした状態。
曲名・アーティスト名・アルバム名が表示される。アルバムアートの縦横比は維持される。
見てのとおり再生操作に必要な機能は揃っているが、HEOSにはローカル音源の再生時にシークができないという致命的な問題がある。組み合わせるサーバーソフトがTwonky ServerでもAsset UPnPでもMinimServerでも駄目だった。
これはNR1608(の世代)に特有のものなのかか否か。うーむ。
左上のアイコンをタップすると再生中の音源のフォーマット情報が表示される。
画面右上のアイコンはキュー(プレイリスト)。
曲順の入れ替えや削除など、一通りの機能は揃っている。
曲名の右にあるアイコンは「サウンドモード」。
NR1608ではAVアンプならではといった項目が並ぶが、他のHEOS対応機器ではどうなるのだろうか。
iPad版のデザイン/レイアウトはほとんどiPhone版から変化がなく、画面サイズの拡大による情報量の恩恵は感じられない。
横画面では再生画面に表示されるアルバムアートさえ小さなままだが、縦画面にすることで多少は大きくなる。
なお、HEOSは下記画像のとおり、つまりそういうことなのだが、
少なくともHEOSアプリを使う限り、ギャップレス再生もオンデバイス・プレイリストも問題なく機能した。
アプリ間で再生情報も同期される。
ちなみにNR1608はHDMI出力があるので、ネットワーク再生の画面を映し、リモコンを使って操作することも可能。
実際に使ってみて、HEOSアプリの完成度は一線級かと言われると苦しい。ローカル音源の再生時にシークができないというのはあまりにもアレだし、UI・デザインの練り込み不足(特にタブレット版では画面サイズを全然活かせていない)も目立つ。
それでも、音楽再生に必要な機能そのものはきちんと機能するし、ローカルの音源を再生する際のレスポンスは悪くない。
また、NR1608が届いてから一週間以上、有線ではなく無線接続で音楽を聴いていたが、接続が不安定になったことは一度しかなく、その時も電源のオンオフですぐに症状は改善した。さらに、再生可能なフォーマットの上限であるDSD128の音源であっても、無線で音切れもなく再生が可能だった。こと安定感に関しては見事といえる。
続いて、せっかくHEOSは諸々のストリーミングサービスに対応しているので、「ミュージック」から試しにAmazon Prime Musicを聴こうとしたら、こんなのが出てきた。
うーむ。この仕様はAmazon Prime Music特有なのだろうか?TIDALやQobuzみたく、ローカルの音源と区別なくプレイリストに登録する聴き方をしたいのだが。
プレイリストと無関係にAmazon Prime Musicの音源が再生されているの図。
ところで、なぜかAmazon Prime Musicの音源ではシークが可能だった。
タイムバーに赤いポッチが付く。
なぜストリーミングの音源でシークができてローカルの音源でできないのか、謎。
というより、D&Mは本当にこの仕様でいいと思っているのか。
【追記】
Amazonがロスレス/音楽ストリーミングサービスであるAmazon Music HDを開始した際、HEOSは他のメーカー/ブランドに先駆けていちはやく対応を果たした。
【追記おわり】
総じて、色々とツッコミどころはあるが、ネットワークオーディオのプラットフォームとして、HEOSはそこそこの完成度には達している。
アプリの完成度は、iPad版の最適化不足はともかく、2010年当時のSongBook DSくらいは……とも最初は思ったが、言い過ぎか。とりあえず「2010年ならまぁアリかな」、というレベルではある。HEOSが出てきたのは2010年代後半だが。
初めてネットワークオーディオに触れるユーザーがいて、その際の製品がHEOS対応機だったとして、ローカルの音源の再生時にシークが出来ないという一点を除けば、使い勝手に完全に失望するということはないと思われる。仕様と癖を把握すれば、音楽再生機としてきちんと使える。
「国内メーカーによる初の本格的ネットワークプレーヤー」である「NA7004」がマランツから登場した時、もしその時点で、せめてHEOSと同等のユーザビリティを実現していたのなら、ネットワークオーディオというジャンルは今とは違う歴史を辿ったことだろう。
そう思わずにはいられない。