PCが本当の意味で「オーディオ機器」になる日
理想のオーディオ用PCを求めて ハード編
理想のオーディオ用PCを求めて ソフト編
理想のオーディオ用PCを求めて ミュージックサーバー編
理想のオーディオ用PCを求めて 単体プレーヤー編
理想のオーディオ用PCを求めて 単体サーバー編
理想のオーディオ用PCを求めて 単体Roon Server編
EVO(便宜的な名称)はPCであると同時に、他ならぬオーディオ機器である。
なればこそ、設置や接続も含めてきちんとオーディオ機器として扱わねばならない。
そこで、諸事情により引退させていたブビンガ・ラックに再登場願った。
いかにもなデザインの凄みやケレン味はないにしても、立派にオーディオ機器していると言っていい佇まいである。黒一色の面構えもなかなかに精悍だ。むしろ下の段に見えているUSBハブ用の電源の方がよほど気になる。ま、こういうのは隠せば済む。ちなみにケーブル長の関係で見えていないが、外部電源も下の段に入れている。
それにしてもこの外部電源、製品紹介にもあるように、最初から外付けを想定して作られたものではないようだ。そのため、外付け用として練り直せば、筐体の構造から内部のスペースから、色々と出来ることも多そうだ。
デザイン……デザインそれ自体にあんまりコストをかけるのもアレだが、「らしさ」の演出のためにはそこそこ大事なことも確かである。
あとはLANケーブルを繋いで、USBケーブルでUSB DACに繋いで、ひとまず普通の電源アダプターを繋いで、接続はおしまい。ちなみにLANとUSBケーブルは、私が全幅の信頼を置いているaudioquestのforestを使用した。やたらめったら高級なケーブルを使う趣味はないし、趣味以前に先立つものもないが、さすがにその辺に転がっているケーブルで繋ぐわけにもいくまい。なにせオーディオ機器なんだから。
なお、Splashtopを使っているので映像ケーブル等は不要である。
というわけで、EVOの音を聴いてみる。
競合機はいつものDELL Inspiron 13z。
何の変哲もない、誰もが使っているような、そのまんまのノートPCである。
購入からそろそろ5年が経過し、バッテリーが死んで電源ケーブルを繋がないと起動すらしなくなったが、それ以外は今でも問題なく動く。
Core i3-2330Mを積んでいるおかげで、DSD256だろうが何だろうが再生がおぼつかなくなることはない。さらにストレージはSSDのみ、ディスクドライブも搭載せず、ファン以外の駆動部はなし。その辺のPCに比べればよっぽどオーディオ的なハードウェアだと言える。グラボを積んで終始ファンが唸るデスクトップに比べれば100倍マシだ。
使用したUSB DACは幸運にも同時期にお借りしていたLUXMAN DA-06。
もはや「再生できたよー」を調べるためだけの機械と化している感のあるiFI nano iDSDとは最初から立ち位置が違う、本格的なUSB DACである。これならば、PC=USBトランスポートの実力差を明確に出してくれるはず。いや、決してnano iDSDを軽んじるわけではないが……
両方に同じ音源を入れ、再生には手っ取り早くJRiver Media Centerを使う。
「サーバー」と「プレーヤー」の両方を担当する「ミュージックサーバー」としての使い方である。
D'Angelo 『Brown Sugar』よりタイトル曲。
輪郭が明確なのにうねうねする謎のベースラインとか恍惚感とか。
サラ・オレイン 『f』より「エンジェル」。
歌。とにかく歌。
Tingvall Trio 『BEAT』より「Pa Andra Sidan」。
楽器の音、解像度、千変万化するドラムの質感表現。
Reference Recordings 『Tutti! Orchestral Sampler』より「火の鳥 終章」。
ファンタジア2000で体験したあの感覚。ちなみにHDCDから吸った24bitの音源。
DAC以降の機器はNmode X-PM7とDynaudio Sapphire。
聴く。
……
…
比べるのもおこがましいなコレ。
アナログ電源を使わずに普通のアダプタを使った状態でもEVOの音質的優位性はあまりにも歴然としており、Inspiron 13zはしめやかに爆裂四散した。
私は「こんなPCそのまま使ったんじゃ厳密な音質評価なんて出来るわけないだろ!」と自らの基準に照らして考え、再生ソフトやらUSB DACやら、ぎりぎりまで狭義のPCオーディオの音質評価とは関わらずにきた。もちろん、必要に駆られてやったことはあるけれども。
そして、その考えはあながち間違いではなかったようだ。
アナログ電源に変えると、そりゃもう効く。
粗さが取れ、雑味が薄まり、それでいてエネルギー感は増す。とにかく、一つ一つの音に力がある。うちの環境で常々感じていた、PCを再生システムに組み込むことによって生じる音の曇りが感じられない。
さらにUSBハブ用の外部電源を使うと、駄目押しで効く。
エネルギー感はそのままでS/Nが向上し、背景が静まったおかげで空気感がふんわりと出てくる。ここまでくると、俄然オーディオ的な凄みが現れる。
ただ、iFI nano iDSDはハブ用の外部電源を使うと認識してくれなかった。USB DACによってはSOtM tX-USBhubInとの相性か何かがあるのかもしれない。
様々な使い方でそれぞれどんな音がするのか、そもそもLUMIN A1と比べてどうなのかはまた後で書くとして、今はこれだけ。
「ま、どうせPCと繋ぐんじゃこんなもんか……」、そんな思いを抱かずに済む。
これなら、EVOでなら、USB DACでも再生ソフトでも、胸を張って評価できそうだ。
EVOは紛れもないPCでありつつ、紛れもないオーディオ機器としての資質を示した。
この実感に勝るものはない。
……fidataをミュージックサーバーとして、きちんと音質を評価してやれなかったことが悔やまれる。
さすがにnano iDSDとの組み合わせだけじゃ、ちょっとなあ。
【理想のオーディオ用PCを求めて】canarino fils ― デジタル・ファイル再生の原器