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構造・仕様
「MZX-3/4」はTiGLONのハイブリッドインシュレーターで、「MZX-3」が3個セット、「MZX-4」が4個セットになる。価格は3個セットで24,750円/4個セットで33,000円。 中に収まるインシュレーターを既に持っている場合のために、木製カップも「TZC-3/4」のモデル名で単品販売されている。
ちなみに私は「安定した設置ができるなら三点支持でOK」派で、実際に使っているのもMZX-3なので、以降の表記はMZX-3で統一する。
MZX-3は純マグネシウムスパイク&スパイク受け、「D-REN Tuning Ring」、バーチ材のカップの四層構造から成る。スパイク&スパイク受け&リングがカップにすっぽり収まる(嵌り具合はかなりぴったり)ことで、ひとつのインシュレーターとして機能する。「D-REN Tuning Ring」は前モデルから新たに追加された要素で、制振&チューニング効果を発揮して性能向上に少なからず寄与しているのだそうだ。
つまり、MZX-3は「これひとつで機器のスパイク設置を可能にし、カップが実質的なオーディオボードとしての役割も果たす」という、「一粒で何度も美味しい」製品となっている。
ねじ込み式のスパイクならともかく、直置きのスパイク&スパイク受けを使う際は不安定感/何かの拍子にスパイクがずれて落ちる懸念が少なからずつきまとうが、MZX-3は「カップに収める」ことでその不安の大部分を払拭している。素晴らしい構造のアイデアだと素直に感心する。
また、スパイク&スパイク受けも新しい「MZ」シリーズとなり、マグネシウムの純度が上がるとともに塗装や加工法が変わり、さらに設置面で生じる微小なガタや振動対策が目的の「D-REN Tuning Film」が施されている。
私が学生時代から使っているTiGLONのスパイク受け「M1」と比べてみると、パッと見ではほとんど違いがわからないが、
設置面に「D-REN Tuning Film」が貼られていることで判別できる。
MZX-3の中身を入れた状態のサイズは高さ33mm・直径48mmで、これくらいの高さがあれば、機器を「浮かす」効果もある程度期待できる。
運用
実際に使ううえで、カップのおかげでスパイクがずれるおそれはまずないとしても、仕上げがなめらかなためにカップそのものが滑りやすいという、それはそれで無視できない問題がある。
そこで、滑り止めとさらなる振動対策を兼ねて、同社のチューニングスペーサー「D-REN Pro」と組み合わせることをおすすめする。机に置いたスピーカーにMZX-3を使う際は、他の置き場所に比べて意図せず手が当たってしまう可能性が高いので、特に安定性を高めることは重要になる。
なお、設置面に貼られた「D-REN Tuning Film」はそのままだとすべすべした感触だが、荷重がかかると非常に強い吸着力を発揮し、機器底面と強固に一体化する。テストのためにParadigm Persona Bと組み合わせた際、くっついたスパイクを剥がすのに少々苦労したほどだ。
これならさぞかし設置面に生じる微小なガタや振動に効果を発揮してくれているだろう、と思う一方で、機器の位置決めは慎重に行う必要も出てくる。
上の写真からわかるとおり、Persona Bの底面はありがた迷惑なくぼみがあるせいで、底面をめいっぱい活かしてインシュレーターを使うのが難しい形になっている。それでも、D-REN Tuning Filmの強い吸着力と組み合わせたD-REN Proのおかげで、MZX-3を使った設置の安定感は申し分なかった。位置を調整することで、どのようなスピーカーでも安定した設置が可能になるだろう。
音質
MZX-3はオーディオラックでもスピーカースタンドでも、どこでも使用可能なインシュレーターだが、「デスクトップオーディオで使えるインシュレーターの決定版になるのではないか」という興味関心をもってレビューしているので、やはり音質の評価もデスクトップシステムで行った。
MZX-3とD-REN Proを組み合わせると、左右合計で定価ベースで6万円を越える金額になる。ここまでくると完全に一線を越えたこだわりの領域であり、デスクトップオーディオで最初に導入するインシュレーターがこの組み合わせ、なんてことはあまり考えられない。
というわけで、手頃な価格で手に入る極めて優秀な卓上スタンドであるISO Acoustics Aperta Aluminumと比べてどうなのか、という視点で評価を行った。使用したスピーカーはもちろんPersona Bである。
結論から言って、MZX-3とD-REN Proの組み合わせはMZX-3とAperta Aluminumをほとんどすべての点で凌駕する。
真っ先に感じるのが高域の改善で、私のゴールデンリファレンス曲であるCorrinne Mayの「Angel in Disguise」では、冒頭のピアノからして輝きや抜けの良さが一味違う。また、まさにスパイク設置の恩恵と言うべきか、中低域の解像感も向上し、曲の途中から参加するベースやドラムがよくほぐれる。それが躍動感や実在感に繋がる。
そして、Aperta Aluminumの美点であったストレスのない音の広がり、良い意味での「軽やかさ」も、MZX-3とD-REN Proの組み合わせが上回っている。
Aperta Aluminumが「悪影響を可能な限り取り除く」とするなら、MZX-3とD-REN Proの組み合わせはいよいよ「スピーカーの実力を発揮させる」領域に突入したという実感がある。
なお、MZX-3はAperta Aluminumに比べると背が低いが、Persona Bくらい背の高い(ツイーターの位置が高い)スピーカーであれば、ツイーターを耳の高さに云々という部分で大きな差は生じないようだ。
まとめ
MZX-3は考え抜かれた構造の、使いやすさと性能を高度に両立したインシュレーターであり、直置きタイプでもあるため、Aperta Aluminumと同じように様々なスピーカー(もちろんそれ以外の機器も)と自在に組み合わせられる汎用性も持つ。しかも、D-REN Tuning Filmが安定した設置に寄与するという素敵な仕掛けまである。
音質的には、以前に紹介した「soundcare SuperSpike SS6/SS8」とAperta Aluminum双方の完全な上位互換と言える。
正直に言えば、私自身、「スピーカーを机に置く」ということに対して、前々からある種の限界を感じていた。しかし、MZX-3とD-REN Proの組み合わせにしたPersona Bから、Persona Bをメインシステムに設置した際に出てくるのと同質の凄味、「そうそう、この音」という感覚――少なくともその一端――を得たことで、「デスクトップオーディオの可能性はもっともっと広い」との想いを強くした。
本気でデスクトップオーディオに取り組んでおり、机にスピーカーを置いている人で、いよいよ一線を越えてセッティングにこだわる人は、ぜひMZX-3とD-REN Proの組み合わせを候補のひとつとしてほしい。