Scansonic HDはデンマークのスピーカーブランドであり、同じくハイエンド・スピーカーブランドとして名高いRaidho Acousticsとともに、Dantax社の傘下にある。現在のScansonic HDはRaidho Acousticsの姉妹ブランド的な立ち位置で、Raidho Acousticsの技術を活用しながら、より手の届きやすい価格帯の製品を手掛けているようだ。
Scansonic HDは一時日本市場に紹介されてそれが途絶えた後、現在はTAT Audioが輸入代理店となっている。
今回はScansonic HDの「MB-B」シリーズのブックシェルフ「MB1 B」を使用する機会を得たので、簡易的ではあるがレビューをお届けする。
製品概要・外観・仕様
「MB-B」シリーズはScansonic HDの上から2番目のシリーズであり、MB1 Bはペア税込み550,000円(ブラック・ホワイト仕上げ)・682,000円(ウォールナット仕上げ)というハイクラスのブックシェルフである。
MB1 Bのサイズは幅178x高さ312x奥行286mmと比較的コンパクト。ハイクラスになるとウーファーサイズも大きくなり、当たり前に幅20cm・奥行30cmを余裕で越えるブックシェルフが多いなかで、コンパクトサイズゆえの設置性の高さはそれ自体でひとつの魅力といえよう。そういう「でかいブックシェルフ」を念頭に自作したスピーカースタンドに置くと、MB1 Bのコンパクトさが際立つ。
試聴機はウォールナット仕上げのため少々伝統的なイメージも受けるが、
天板にはカーボンシートを追加してキャビネットの剛性と静粛性を高め、
超薄膜&軽量のカプトン・アルミ・サンドイッチのリボントゥイーター、
トランジェントに優れたリボントゥイーターに追従すべく開発された5.25インチカーボン・コーンウーファーという具合に、
トータルではかなり先進的かつハイテク素材を駆使したスピーカーとなっている。
工夫された形状のバスレフポートはフロント側にあり、セッティングの自由度は相対的に高い。スピーカー端子はシングル仕様。
音質
価格を考えるとリビングシステムではなくメインシステムで扱うべきとも思ったのだが、MB1 Bのコンパクトさは専用室よりもむしろ一般的な生活空間でこそ活きると考えたため、あえてリビングシステムで試聴した。なお、MB1 Bには純正スタンドも用意されているが、今回は上記の自作スタンドを使用した。
「上質なリビングオーディオ」を意識して、ソースにBluesound「NODE (2021)」、アンプにはNmode「X-PM9」を組み合わせた。
前述の通り、MB1 Bはハイテク素材を積極的に盛り込んだスピーカーであり、ならば当然、目の覚めるような高性能志向の音を聴かせるのだろう、と思っていた。
思っていたのだが、その予想は良くも悪くも覆された。
MB1 Bを一聴した印象はむしろ「穏やか」というものだった。低域はウーファーサイズゆえの限界があるだろうと思っていたのでともかく、高域についてはリボントゥイーターらしい高解像かつ鮮烈な表現を想定していたら、ある意味で肩透かしと思うくらい、穏やかな再生音が流れてきた。1bitアンプならではの鮮烈さを持ち味とするX-PM9と組み合わせてなおそう感じたのだから、これは驚きですらあった。
しかし、「穏やか」と言っても、それは高域がどん詰まりであることや、細部の描写が甘いということを意味しない。一聴した際のインパクトがないだけで、きちんと聴けば気持ちよく高域は伸びているし、細部の克明な描写、滲みのない音像、解像感の高さは価格を納得させて余りあるレベルである。
このように「高度な再生能力を持つものの、一聴して“オーディオ的高性能感”を強く意識させない音」にはひとつ覚えがある。ずばりParadigm Persona Bだ。無論クラスの違いもあり、Persona Bの隔絶した無色透明ぶりと比べれば固有の性格を感じるものの、MB1 Bの再生音には、同じく「技術・性能志向を追求した果ての“なんてことなさ”」が見出せる。
低域の量感は当初の想像を越える豊かさで、一般的な居室で常識的な音量で再生する限り不足は感じられず、むしろサイズを考えれば大健闘といえる充実ぶり。それでいて小さなウーファーを酷使して低域をひねり出した結果の窮屈さや野放図さはなく、ドライバーユニットの優秀さが感じられた。リボントゥイーターに対してウーファーが不釣り合い・力不足という印象を抱くことはなく、トータルで明るく歯切れのよい再生音が実現されている。
音楽を再生した際、意識されるのはスピーカーの存在ではなく、ひたすらに心地よい音楽である。インパクトのある音だけを求めるオーディオマニアにはもしかしたらつまらない音かもしれないが、それはそれとして、私はスピーカー作りに対するセンスに感心した。
コンパクトサイズ&フロントバスレフという仕様は当然ながらデスクトップオーディオ用途にもプラスに作用する。デスクトップオーディオでは必然的に近い位置で聴くことになるが、それでも再生音が耳に厳しいと感じさせることはなかった。
まとめ
ハイクラスのブックシェルフはでかい製品が多いなかにあって、MB1 Bはでかすぎないサイズながら瞠目に値する再生能力を有し、それでいてリスナーに厳格な……オーディオマニア的な姿勢を要求しない、なかなかに稀有と思われる性格を有している。
心地よい高性能、妥協なきコンパクト。こうした単語に魅力を感じるなら、一聴の価値がある。