なぜオーディオ/シアター環境を写真付きで公開するのか

 動画化に伴い、2019年11月18日初出の記事を更新。

 
 
 なぜ私はオーディオ/シアター環境を写真付きで公開しているのか。

Audio Renaissanceのレビュー環境/システムについて

 理由はふたつある。

 まず、私自身今までいろんな人のオーディオ/シアター環境を見ることでずいぶんと勉強になったし、公開された環境を通じておおいにオーディオの楽しさに触れてきたので、自分もそうすることでオーディオ趣味の広がりに寄与したい、という理由がある。

 学生時代、BDの情報を集める過程でBlu-ray.comというサイトを見つけた。そしてBlu-ray.comの中にはCommunityというページがあった。そこはアメリカのホームシアターファンが彼らのシアター環境を公開するスペースであり、プロジェクターを使ったシステム、テレビを使ったシステム、シアターの枠組みにとらわれない2chステレオのシステムといった種類ごとに、膨大な量の写真がアップされていた。

 オーナーによって千差万別の環境を見ることは、自分のオーディオ/シアターの方向性を考えるうえでおおいに参考になった。
 素晴らしいシステムを見るたびに憧れを抱き、「いつかは自分も」と夢を膨らませた。一方で言い方はちょっとアレだが、「こうはなりたくないな……」と思うことも正直あった。Blu-ray.comにおける数多の実例によって、当時から抱いていた「優れたオーディオ/シアター環境の核心は、単に高額な機材を使うことではなく、スピーカーレイアウトをはじめとした基礎基本に忠実なセットアップである」との考えにも自信が持てた。

 そしてなにより、写真から滲み出すオーナーの「こだわり」や「愛情」に触れること、それ自体が楽しかった。
 写真で示された環境を通じて、「あぁ、この人たちはオーディオやホームシアターを心から楽しんでいるんだなぁ」と感じること、それ自体が本当に楽しかった。

 使用機材のリストを淡々と書かれただけでは、その人のオーディオやホームシアターに対するこだわり・情念・魂を読み取るにしても限界がある。
 だからこそ、「写真」の存在は大きかった。Blu-ray.comにアップされた写真からは、「おれのオーディオやホームシアターを見てくれ! おれはこんなにも楽しんでるぜ!」というポジティブな感情がほとばしっていた。そこに機材の高いも安いもなかった。
 私も、こう在りたい、と思った。

 当時から様々な場所で目にしていた日本のユーザーの環境もまた、おおいに勉強になったし、楽しさも感じられた。それでもなお、「自分のオーディオ/シアター環境を写真付きで公開する」というモチベーションに与えた影響としては、やはりBlu-ray.comの方が大きかったと思う。

 しかしながら、Blu-ray.comに出会った当時の私は「可能な限り基本に忠実なスピーカーレイアウトを目指した7.0chシステム」にある程度の自信を持ち、Blu-ray.comに感じたポジティブさを愛しつつも、「自分のシステムは廉価である」ということに結構な引け目を感じてしまっており、全面的に環境を公開するには到らなかった。
 結局、私が真にオーディオ/シアター環境を写真付きで公開したのは、地元に帰り、Dynaudio Sapphireとプロジェクター&スクリーンを導入して現在に繋がるオーディオ/シアター環境を構築したタイミングだった。2012年の暮れのことである。

 今でこそ「しっかりとシステムをセットアップをしていると胸を張れるなら、オーディオやホームシアターを心から楽しんでいるのなら、使っている機材が安いだの部屋が狭いだの、そんなことに引け目を感じる必要はない!」と声を大にして言えるのだが、当時の私は……まぁ、若かった。

 そんなこんなで、今となっては、自分のオーディオ環境を公開することに迷いはない。

 オーディオは楽しい。
 ホームシアターは楽しい。
 その楽しさが、ほんのわずかでも写真を通じて伝われば本望だ。

 次に、発信する内容に説得力を持たせたい、という理由がある。

 画質と音質、特に後者の評価は、最終的には主観に拠らざるを得ない。どれだけ知性と経験と数字を総動員させたところで、最後の最後は画を見た/音を聴いた自分自身がどう感じたかが評価の決め手になる。とりあえず私の場合はそうだ。

 また、どれだけ滅私に努めても、好き嫌いの感情を完全に排せるとは思わない。「私の好みとは異なるが、絶対的な能力の高さに疑いはない」と歯を食いしばって述べることもあれば、「色々な欠点を踏まえてもなお大好き」と露骨に愛を語ることもあるだろう。

 主観的評価に完全な正解などあるまい。
 しかし、いや、だからこそ、私は「そのような評価に到った環境」を示すことで、内容に説得力を持たせたいのである。

 仮に私が「○○○は高音質」と言ったところで、どのような機材を使って、どのような環境で評価したのかわからないのでは、その内容が検討に値するものなのかどうか判断できない。逆に、まるで環境を示さずに「○○○はクソ」と言ったところで、判断材料がない以上、単なる戯言として片付けられるのがオチである。むしろ片付けられて然るべきである。

 せっかく発信をする以上、私は単なる戯言で終わらせたくはない。
 そしてそのためには、判断材料としてオーディオ/シアター環境を示すことが有効であることは言うまでもないだろう。どんな環境かを示すからこそ、そこで発信された内容について理解が深まる。議論も深まる。参考にするか否かの判断もできる。
 私が発信する内容それ自体は主観の発露に過ぎないとしても、少なくとも「この機材とこの環境ではこの結果になった」という情報にはなんらかの価値があるものと信じたい。

 ただ、オーディオは奥深い。ホームシアターは奥深い。
 いかに高額かつ高性能なオーディオ機器であろうと、使い方次第ではまるで実力を発揮できない可能性はある。スピーカーは特にその傾向が顕著だと言える。
 機材が廉価で、決して広くない部屋で使われていたとしても、基本に忠実なスピーカーレイアウトなど、機器の実力を発揮させるべく出来る限りの取り組みが為されているのなら、その環境で発信される内容は大きな説得力を持ち得る。大切なのはシステムの価格ではなく、熱意と実践のはずだ。自分なりのこだわりを投じて、心から楽しめる環境を作れたのなら、それこそがオーディオルームなのであり、ホームシアターなのだ。

 ゆえに、環境を公開するといっても使用機材のリストを淡々と書くだけでは、判断材料としては弱い。
 「どのような機材を使って、どのような環境で評価したのか」を端的に、かつ確実に示すためには、やはり写真が決め手となる。写真を補完する各種データもあるならあるに越したことはなかろう。設置状況の詳細とか。

 私が写真付きで公開しているオーディオ/シアター環境を見て、「この環境で評価したのならある程度の信憑性があるだろう」と考えるもよし、「は? こんなクソみたいな環境で何言ってんだ」と一笑に付すもよし。判断は読者に委ねられている。私はただ、判断材料を提供するだけだ。その結果、参考に値せずと判断されるとしても、完全なる反論を持たれるとしても、単なる戯言扱いよりはよほど発展的だ。

 そもそも評論家でもメディアでもないのに説得力だのなんだの気にしなくてもいい、という考え方もあるだろう。それまたもっともな話だ。
 しかし私はずっと、いちオーディオファンとして、立場に関係なく説得力のある発信を心がけることがオーディオに対する誠意だと考えてきた。それが今に繋がっている。

 「だったら言の葉の穴を立ち上げる前の【BDレビュー】はどうなんだ」という話については、上でも書いたように、ひとえに私の覚悟が足りなかった、ということに尽きる。

次世代ディスク関連の話題があまりにも少ないので、何か自分に出来ることはないかと考えた結果、BD視聴記なるものを書いてみようという結論に達しました。コミュニティの性格上、画質音質の評価も私なりにしてみます。
(略)
正直言って、私の再生環境は廉価です。間違ってもハイエンドと呼べるような代物ではありません。再生機はPS3、そこからHDMI出力をTA-DA3200ESを経由して某メーカーのWXGA安物液晶に繋いでいます。サラウンドスピーカーも総額で精々10万程度、サブウーファーも使っていません。重低音の0.1chが抜け落ちている上に、私の機器の組み合わせではDTS-HDマスターオーディオが聴けません。(というわけでDTS-HDマスターオーディオ収録のソフトについてはDTSコア部分のみでの評価になります)
ですが、BDで得られる感動はDVDのそれとは比べ物になりません。何が違うかと聞かれれば、全てと答えるほかありません。

「そんな貧相な環境で画質音質の評価をするとはけしからん!」と思われる方は、是非BDなりHD-DVDなり、次世代ディスクの再生機を導入してください。私が味わっているより遥かに大きな感動が得られるでしょう。
諸々のAV雑誌における画質音質評価はそれこそリファレンス的な機器によって行われていますので、ここは一つ、ある程度手頃な環境(例えば既存のシステムにPS3を追加するだけで済むような)で評価をしてみるというのも一興かと。
その点、PS3は映像と音声のコーデックとビットレートをリアルタイムで表示できるので大変便利です。

兎にも角にも、次世代ディスク――私が扱うのはBDですが――が実現する感動について、より多くの人にイメージだけでも知ってもらえればと思う次第です。

  2007/09/14 【BDレビュー】 序

 2007年当時から抱いていた熱意については今でも胸を張れるものの、やはり第三者から見て判断材料を欠いているとの批判は免れない。学生時代の部屋の写真なんて残ってないしなぁ……

 そんなこんなで、私はオーディオ/シアター環境を写真付きで公開している。言の葉の穴では、サイトの本格始動と同時期から【システムまとめ】を公開してきた。

 ちなみにこれが言の葉の穴発足当時の環境である。なつかしい!

 今まで言の葉の穴/Game Sounds Funを運営するなかで、判断材料としての価値を高められるよう、環境公開において出来るだけのことはしてきたつもりである。

 もちろん、オーディオ/シアター環境は専用室を含めて生活の現場であり、プライバシーの塊でもあるので、写真付きの公開のハードルの高さは重々承知している。公開しないことを批判する意図もない。

 それでも、オーディオ趣味の場にポジティブな感情を与え、より健全かつ発展的な交流を実現するために、オーディオ/シアター環境を写真付きで公開することは重要だと私は考えている。

 あるいは、オーディオファンが「私のオーディオやホームシアターを見てくれ! 楽しくて仕方がないぜ!」というポジティブな感情をもって自身の環境を写真付きで公開し、それを皆で歓迎し、「やりたい! やってみたい!」と呼応するような雰囲気がオーディオ趣味の世界で醸成されることを願っている。
 
 

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