【4K/HDR環境の導入に伴い、2017/03/23初出の記事を更新・追記】
UHD BD付属バージョンはパッケージが二つに分かれている。
さて。
画質:7 (HD環境・BDと同じ土俵での暫定評価:12)
音質:13
(評価の詳細についてはこの記事を参照)
映像:HEVC 5K/4K/3.4K/2.8K撮影・2Kマスター
音声:DTS-HD Master Audio 3.1ch 24bit
○画質
順当な高画質。
私は実写の邦画をほとんど見ないので、日本映画界の画質事情にはとんと疎い。よって、「邦画にしては」的なことは言えないし言わないが、UHD BDに期待される水準の画質をクリアした見事な仕上がりである。HD環境で見ても、並み居る超高画質なBD群と並べて遜色はない。
全編通じて現実的かつ落ち着いたトーンの画で、原色的な鮮やかさはゴジラの放射線流とそれによる焔を除いてほとんどお目にかからない。ただし色そのものはしっかりと乗っており、白けたイメージとは異なる。明暗のダイナミックレンジも広く、停電した東京の闇の中にビル群の姿が浮かび上がる様はその象徴といえる。
解像感はおおむね良好。キレの良さと滑らかさを高いレベルで両立しており、全編を通じての安定感も高い。昨今の高画質の潮流と同じく、粒状感は非常に少ない。
特に俳優陣の表情の描写が素晴らしく、感情から皺から克明に写し撮る迫真の画が拝める。現実的な色味もあいまって、淡々としているからこその凄みが感じられる。撮影に複数のカメラを使っているためか、シーンによっては明らかに使用したカメラの問題とおぼしき解像感の低下が顕著に見られるが、これはあくまでも演出と考えるべきだろう。
一方の主役でもあるゴジラは、第二形態ははっきり言って情報量不足が目につき、「あぁ、CGだな……」との印象を露骨に受ける。しかし、情報量不足がある種の人形/着ぐるみ感というか、「特撮らしさ」も醸し出しており、一概に悪いとも言い切れない。進化を遂げるに連れて映像的な情報量も激増し、第四形態に至ってはもはや視覚の御馳走である。放射線流を撒き散らすシーンになると途端に嘘臭くなるが、それはそれで光線や火焔が美しいので何の問題もない。
邦画実写の高画質なタイトルとしては、最近『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』を見た。それと比べると、ピークでは劣るが安定感とアベレージで勝るといったところか。もっとも、この辺は純粋なマスターレベルでの画質差ではなく、HD環境とはいえ確実に表出するBDとUHD BDの差なのかもしれないが。
【4K/HDR環境での追記】
たいして変わらん。
強いて言えば、ゴジラの背鰭の発光とか、高輝度での色乗りが若干良くなったかな、という程度の印象。
元から良かったのだから、これで良いのだ。
○見どころ
ゴジラ第四形態
停電した夜の東京
俳優陣の貌
○音質
サラウンドチャンネルを含まない、フロントとセンター(とサブウーファー)のみで勝負する3.1ch音響。
【BDレビュー】で幾度となく述べてきたように、「突き詰めたステレオ音響は下手なマルチチャンネル・サラウンド音響よりも圧倒的に勝る」。シン・ゴジラの音はセンターチャンネルが含まれているが、「前方主体の音」という意味では同じである。(※そもそもステレオ自体マルチチャンネル音響と言えるのだが、ここではあくまで前方以外にスピーカーを置いていることをサラウンドの条件とし、ステレオとマルチチャンネル・サラウンドは別物として扱っている)
ただ、現実的にステレオ音響でマルチチャンネル・サラウンド音響の臨場感/ケレン味/満足度を上回るのは難しい。私自身、それを実現したタイトルとなると『紅の豚』など、ごく少数しか思い当たらない。音楽だけならばいざ知らず、こと映像に関していえば「音響」というのが非常に大きな要素となるからだ。ステレオとサラウンドでは、表現できる幅も、実際に観る側が体験できる幅も、大きく異なっている。
前置きはこの辺にして、それでは本作がどうだったかというと、そりゃもう「素晴らしい」の一言に尽きる。
音響面で『シン・ゴジラ』の直接的な比較対象に設定したのは2014年の『GODZILLA ゴジラ』だった。そして『シン・ゴジラ』の3.1ch音響は『GODZILLA ゴジラ』のハリウッド産7.1ch音響に包囲感・移動感・定位感・ゴジラの咆哮の威力のいずれも敵わないが、トータルの満足度では決して劣っていなかった。
まず、ダイアローグが素晴らしい。ほんのり強調気味にも聴こえるにせよ、力強く鮮明、唇や舌や喉の存在を瞭然と意識させる見事なもので、本作の会話劇を大いに大いに大いに盛り上げている。
火砲の威力も素晴らしい。『ガールズ&パンツァー 劇場版』のように狂気的なまでの威力ではなく、ステレオ音響ということを加味しても音の移動感は控えめで、3.1chの限界から『フューリー』のように火線が後ろへ/後ろから飛ぶこともない。それでも、ドンパチ映画として一切の食い足りなさを感じさせない壮烈な轟爆快音絵巻が繰り広げられる、容赦のない拍手喝采ものの音響設計である。サブウーファーも大活躍する。
ゴジラ自身に関連する音は相対的に少々控えめ。第四形態の足音などはさすがの激震をもたらすが、咆哮の威力は『GODZILLA』と比べると随分おとなしい(さすがに相手が悪い気もするが)。放射線流や火焔も「迫力のある音」というよりは「異様な音」を意識しているという印象で、威力面で感じ入るものはなかった。一方、ゴジラが建物をぶち壊したり放射線流がミサイルを爆砕したりすると派手に音が吹き上がるため、リアルさとメリハリの両立を追求したとも取れる。
最後に、『シン・ゴジラ』の音を決定付けているのはずばり音楽の数々である。高度なステレオ・ミックスが施された劇伴は、あらゆるシーンで決して単なる垂れ流しに終わらない燦然たる存在感を放ち、本作の音に得難い魅力を与えている。劇伴を朗々と響かせつつ、砲火を雨霰と撃ち鳴らしても、音場が飽和して破綻しないバランスも実に素晴らしい。「ステレオ再生にこだわったホームシアター」が最高に輝く瞬間だ。
総じて本作の音は極めて高品質であり、傑出したマルチチャンネル・サラウンド音響と比べても満足度において劣るものではなかった。
とはいえ、本作は「あえて」3.1chで作られたことは承知のうえで、5.1ch以上の仕様で作られたらどんな風になっていたのかな、とも思ってしまう。背鰭から放出される放射線流や多方向からの飽和爆撃など、マルチチャンネル・サラウンドにとって夢のような展開が目白押しなだけに、興味は尽きない。それに、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のヤシマ作戦で表現された「全方位からの高密度音声爆撃」は、やはり3.1chでは実現不可能だということが、「SS_103_GZM (Famously) - 報道2」のシーンで明らかになった。
とにかく、『シン・ゴジラ』の音は素晴らしい。
見ていて汗をかくレベルで、素晴らしい。
○聴きどころ
Persecution of the masses (1172) - 上陸
Fob_01 - タバ作戦
「宇宙大戦争」 - ヤシオリ作戦
○総評
善い画、善い音は映像鑑賞の楽しみを最大化する。
画質と音質にこだわることで、ただでさえ大好きな作品がもっと面白くなり、愛してやまない作品からより深い感動を引き出せる。
やはりオーディオビジュアルという趣味は素晴らしい。
○再生環境(詳細はコチラ)
・ソース
Panasonic DMP-UB90
・映像
Victor DLA-X30
KIKUCHI SE-100HDC
→LG OLED55BP6
・音響(センターレス6.1.4ch)
Pioneer SC-LX59
Nmode X-PM7
Nmode X-PW1 ×3(サラウンドにモノラル×2、サラウンドバックにステレオ×1)
Dynaudio Sapphire
Dynaudio Audience122(サラウンド)
Dynaudio Audience52(サラウンドバック)
ECLIPSE TD307MK2A ×4(トップフロント・トップリア)
ECLIPSE TD316SWMK2