【ネットワークオーディオTips】サーバーが本当の意味で「オーディオ機器」になる日

ネットワークオーディオの三要素――『サーバー』・『プレーヤー』・『コントロール』
ネットワークオーディオの三要素
 システムの中で音源の保存と配信を担うものとして、そもそも音源の在り処として、サーバーの存在は極めて重要である。
 しかし一昔前まで、サーバーには実質的にPCか、いかにもPCの周辺機器然としたNASを使うしかなかった。その限られた選択肢の中で、例えばQNAP TS-119が安定性・音質の点で高品質といった話がされていた。
 一方で、ネットワークオーディオ用途における使い勝手や、サーバーをサーバーたらしめるサーバーソフトに関する言及はほとんどされなかった。
 サーバーは長らく「必要ではあるが、なんだかよくわからない異質なもの」として扱われ続けた。つまるところ、ハードの面でもソフトの面でも、オーディオの領域に属するものとして真剣に扱われなかったのである。

 そんな状況を良くも悪くも一変させたのがBUFFALOのDELAだった。
 「PCの周辺機器」ではなく、真っ向から「オーディオ機器」として作られ、それでいてあくまでサーバー――周辺機器――「デジタル・ミュージック・ライブラリー」としての役割に徹しようというそのいじらしさ。
 発表当初こそどうなることかと思ったが、実際に出てきた製品は音楽愛とオーディオ愛に溢れた素晴らしいものだった。高価なのも事実だが。

 DELAの登場により、長らく水面下で醸成されていた「サーバーで音が変わる」という認識は一気に拡大・表面化した。ただそれと同時に、NAS(要は単体サーバー)を導入する際の意識が、「どのNASがいいのか」から、「どのNASが音がいいのか」に変わってしまった感がある。音質が俎上に載った途端、それ以外の要素が一切無視されてしまうのは、オーディオ業界ならではの困った傾向だ。アンプやスピーカーならまだしも、サーバーにまでその姿勢で臨むのはまずい。

 もちろん、DELAは決して音がいいだけのサーバーではない。
 むしろ、「中身はTwonky Serverですよ」と自ら表明したことで、多くのオーディオユーザーにサーバーソフトの存在を意識させたとも言える。NASを買おうにも「中身が何なのかわからない」という状況ばかりが続いていたなかで、これは大きな出来事だった。
 DELAはトンキー病の克服も含め、ストレスなく運用できるように、よく考えられている。「高音質サーバー」である前に、まず「音源の保存と配信」というサーバー本来の機能を磨き上げた「良いサーバー」なのである。さらに言えば、USB出力を持つおかげで「良いプレーヤー」でもあるのだが、それはまた別の話。

 真にオーディオ機器と呼び得るサーバーについて、その条件を整理しよう。

 1、まず「良いサーバー」であること。つまり、ユーザビリティにおいて洗練されていること。問題なく音源ファイルを保存することができ、安定して動作し、音楽を聴くために必要十分な機能を持つサーバーソフトが走っていること。コレが大前提である。

 2、モノとしての魅力。筐体的にも、回路的にも、(コストの範囲で)妥協なく設計され、オーディオ機器としての作り込みが十全になされていること。仮にどれだけ音が良いとしても、冷却のためにファンが回っていたり、PCの周辺機器そのまんまの佇まいでは興醒めもいいところだ。そして何より、モノとしての作り込みが確実に音に繋がるのがオーディオの世界である。

 3、音が良いこと。そりゃオーディオなんだし、当然だ。

 最も困難な条件は2だ。
 1と3だけなら、別にオーディオ用でも何でもないNASでも達成できていた。ただ、あくまでそれは「たまたま」Twonky Serverが走っていたり、音が良かったりという類のものであって、最初からオーディオ用途を意識した製品ではなかった。
 「オーディオ用途に使うサーバーを作る」という意志をこそ重要視したいのである。本当にその意志があるのなら、間違ってもふざけた筐体にはならない。

 少々扱いに困るのは「オーディオ用NAS」を謳った、構造的に従来品とほとんど変わらない製品だ。「オーディオ用」と名乗るだけあって従来以上に条件の1と3が意識され、特にユーザビリティの進歩が著しい。新たにネットワークオーディオのためのサーバーを導入する際のハードルを大きく下げるという意味で、その価値は非常に大きい。しかし、これらは何処まで行っても「オーディオ用NAS」であり、「オーディオ機器として」作られてはいない。よって、私としては安易に「オーディオ機器」と呼ぶことはできない。ただUSB DACと繋がるというだけでその辺のPCをオーディオ機器とは決して呼べないように。

 さて、現にオーディオ機器と呼び得る単体サーバーは存在する。
 しかし、その製品数はあまりにも少ない。
 そんな状況で、「良いサーバー=DELA」という認識が固定化しつつあることに危機感を覚えている。

 DELAは確かに素晴らしいサーバーだ。それは間違いない。
 私が恐れているのは、「良いサーバーが欲しければDELAを買うしかない」というイメージの固定化だ。
 N1ZはともかくN1Aであっても、「これからネットワークオーディオを始めよう」というユーザーがおいそれと手を出せる価格ではない。DELAが手に入らないことで、そもそもネットワークオーディオをやる気が失せる、なんてことも考えられる。
 かつてプレーヤーで、「ネットワークオーディオプレーヤー=LINN DS」というイメージが支配的だった。もしかすると今でもそうかもしれない。そしてそれはイメージだけでなく、ユーザビリティにおいても実態を伴っていた。
 LINN DSもまた、おいそれと手を出せる価格ではなかった。結果として本当の意味で選択肢は増えず、単体ネットワークオーディオプレーヤーという製品ジャンルは今でもパッとしないままだ。

 私はサーバーには同じ轍を踏んでほしくない。
 良い製品があっても、良い製品が「それしかない」としたら、製品ジャンルとしては盛り上がらないし、裾野も広がらない。「やってみよう」と思っても、価格的な問題から出鼻を挫かれてしまうことだってあるだろう。
 だからこそ私は「ネットワークオーディオの実践に必ずしも単体サーバーは必要ではない」と言っているわけだが、高音質を求める真剣なオーディオファンにはその声もなかなか届くまい。
 安価かつ高品質な製品が必要なのはもちろん、もっともっとオーディオ機器メーカーにもサーバーを製品化してほしいと思う。オーディオ機器メーカーが純然たるオーディオ機器としてサーバーを作る時、どんな製品になるのか非常に楽しみだ。製品ジャンルとしても俄然盛り上がるだろう。作る側としてもサーバーソフトの選択さえ間違わなければ、使い勝手は概ね保証できるはず。
 その点、テクニクスがリッピングサーバーを商品化するというのは喜ばしいニュースだった。

<IFA>テクニクスキーマンに訊く:アナログプレーヤーなど新製品詳細と今後の展開 - Phile-web

昨年色々なお店を見せていただいたところ、手持ちのCDをライブラリとして整理して、快適に良い音で楽しみたいというニーズは非常に多く、ディーラーさんがリッピングサービスを行っている例もあることが分かりました。そこでオーディオメーカーとして、本当に良いリッピングサーバーをリリースすることは我々の使命ではないかと考えて企画致しました。

 色々と気付くのが遅い気がしないでもないが、なんにせよ、オーディオメーカーがサーバーをきちんとオーディオ機器として認識するのはよいことだ。
 プレーヤーとLANで繋がるか、USB出力を持ってそれ自体がプレーヤーになるかはあまり問題ではなく、大切な音源の在り処としてのサーバーの価値を認めることに意味がある。
 出てくる製品自体は相当高くなりそうだが。

 個々のクオリティでも、製品ジャンルとしても、サーバーが本当の意味で「オーディオ機器」になる日を待ち望んでいる。
 安価な製品からハイエンド御用達まで、安心してオーディオ機器として使えるサーバーが登場することを願って止まない。
 
 

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