いちオーディオファンとしてのハイレゾ考。
笑って見てもらえると嬉しい。
ちなみにこの記事におけるハイレゾとは、あくまでデジタル音源のスペックという意味で使っている。
ハイレゾ対応スピーカーとかハイレゾ対応電源ケーブルとかハイレゾ対応耳とかハイレゾ対応オーディオマインドとか、そういったものは想定していない。
ハイレゾはCDと比べると情報量が○倍、という文言をよく目にする。
CDの44.1kHz/16bitを1とすると、例えば192kHz/24bitは6.53となる。
確かに6.5倍だ。
ファイルの容量が。
情報量=ファイルの容量であるとするなら、「192kHz/24bitはCD(44.1kHz/16bit)と比べると情報量が6.5倍」というのは正しい。
私が持っている最高スペックの音源は352.8kHz/24bitなので、CDの12.2倍の情報量があるということになる。最近のDACのフルスペックとなっている384kHz/32bitにいたっては、実に17.4倍にもなる。
しかし、CDから○倍になってほしいのはファイルの容量などではなく、あくまで音質である。
では、例えば192kHz/24bitの音源は、CDに比べると6.5倍音が良いのか。
あるいは、96kHz/24bitの音源は、192kHz/24bitの音源の半分の音質しかないのか。
あえて随分と馬鹿なことを書いているが、もちろん、そんなことはあり得ない。
そもそも音質は○倍良くなったなどと定量的に表せるものではない。
「とてつもない音質向上!」と興奮することはあっても、「音質が3倍になった!」などと口走ることはまずない。ある?
何度も何度も言っていることだが、ハイレゾというのはあくまで器に過ぎない。
サンプリング周波数と量子化bit数が増えれば、理屈の上では確かに音質的な恩恵は受けられよう。
大事なのはハイレゾか否かではなく、ハイレゾという器を活かせるだけの音源か否かなのだ。
最初から44.1kHz/16bitを越えるスペックで録音・製作した音源ならば、ハイレゾでリリースすることでユーザーは最大限の恩恵が受けられる。そしてマスターがアナログの音源でも、適切な工程と情熱により、見違えるような音で蘇る可能性は大いにある。
結局のところ、まさしくBDと同じく、最後は製作者側の情熱次第と言える。
ん? アプコン? うちのLUMIN A1でも176.4kHz/24bit・192kHz/24bitあるいはDSDにハード側でアプコンできますけど……
ここでハイレゾが厄介なのは、BDとDVDのような、誰が見ても分かる歴然たる違いが存在しないということだ。1920×1080と640×480のように、実際に物理的に数えられるピクセルの違いがあるわけではない。もし本当に、例えば192kHz/24bitの音源がCDより6.5倍も音が良いのなら、もはや大騒ぎや革命どころの話ではない。
さらに厄介なのが、ハイレゾとの比較で散々こき下ろされているCDの44.1kHz/16bitという器が、現在進行形でまったく陳腐化していないということだ。
これらのことは、スペックだけを見れば間違いなくハイレゾでもほとんどCDとの違いを見いだせない音源や、下手なハイレゾ音源など軽く吹き飛ばすほど高音質なCDの存在で確かめられる。
そろそろこの辺りで整理しよう。
ハイレゾ音源は容量だけは間違いなくでかいが、必ずしも高音質ではない。
その一方で、
「音の良いハイレゾ音源」は間違いなく存在する。
「ハイレゾだから高音質」という発想は幻想に過ぎない。
あるのはひとえに「高音質なハイレゾ音源」だけだ。
ハイレゾなんて言葉に踊らされる暇があったら、というより踊れるだけの金銭的な用意と音質への興味があるなら、まずは電気屋でも何でもいい、オーディオコーナーに足を運んでほしい。最終的な出力は勿論ヘッドホンでもスピーカーでも構わない。
最終的な音質を左右するものとして、“良いスピーカー/ヘッドホンか否か”は、“聴く音源がハイレゾか否か”よりも遥かに遥かに遥かに重要である。
まずは聴いて、そして仰天してほしい。音がいいとこんなにも楽しいものなのかという感動を味わってほしい。
ハイレゾ云々を気にするのはそれからでも遅くない。
ハイレゾを聴くから感動するのではない。そして、ハイレゾというだけで高音質が保証されるわけでは決してない。
好きな音楽を良い音で聴くから感動するのだ。楽しいのだ。ハイレゾはそれを実現するためのひとつの可能性に過ぎない。