Roonを紹介するにあたり、その機能について、当時Roon LabsのHPにあった上の画像をもとに「魔法」という表現をした最初の段階から、ずっと言っている。
何度も何度も言っている。
完全ではない、と。
とはいえ私自身、Roonのかつてない魅力を伝えようとするあまり、「完全ではない」とは言いながらも、「魔法の限界」の明示がおろそかになってしまったことは否定できない。
このことについては少なからぬ反省がある。
最近にわかに、「Roonに任せておけばそれだけで万事解決、他には何もいらない」という風潮が醸成されつつあるように思える。
しかし、最初のレビューの時点で言ってるように、「そんなことはない」のである。
そのことをはっきりさせるためにも、さらにはRoonの魅力を再確認するためにも、あらためてRoonの「魔法」の正体と、その限界について書きたい。
それではあらためて、Roonの「魔法」とは何か。
フォーマットや元々のタグの有無にかかわらず、Roonにインポートした音源に自動でメタデータが付加される(=自動で音源管理が行われる)こと……ではない。
そんなに単純な話ではない。
もちろん、それだけでも大きな魅力なのは間違いないが。
ローカル・クラウドの音源を問わず、Roonのデータベースから付加した膨大な情報をライブラリの中で結び付けて音楽の繋がりを可視化し、高度なアクセス性を伴うめくるめく「音楽の海」として提示すること。
これが私が言うところのRoonの「魔法」である。
強力無比なライブラリ機能、「音楽の海」がもたらす「聴くだけに留まらない音楽体験」こそがRoonの真価であり、私がRoonを単なる「再生ソフト」ではなく「総合音楽鑑賞ソフト」と呼ぶ理由である。
Roonの高度なアクセス性、そして「音楽の海」を泳ぐ様は以下の記事が詳しい。
Roonの「音楽の海」がもたらすもの
Roonでクラシックの大洋に漕ぎ出す
私が端的に「音楽の海」と表現するところのRoonのライブラリ機能は、いわゆるキュレーションサービスと捉えることもできる。
となれば、その手のサービスは他にもある。
Apple MusicやTIDALがまさにそれに該当する。
それぞれのサービスのアルバムとアーティストの画面を見てみる。
お題はMayer Hawthorneと、彼のアルバム『Man About Town』である。
(この記事の画像は縮小していないのでクリック推奨)
どちらも素晴らしい充実ぶりである。
パッと見では一切の不満を覚えない。
それでは、Roonはどうか。
なお、CDからリッピングした音源をインポートしてある。
Roon・アルバムクレジット
(濃い水色はすべてアーティストページへのリンクとなっている)
Mayer Hawthorneの他のアルバム4枚をTIDALからライブラリに追加したことを除けば、インポートしただけで、これだけの質と量でRoon色のライブラリが出来上がる。
単純な情報量でも大きな差があるのに加えて、豊富な繋がり、高度なアクセス性、そしてローカルとクラウドの区別なく音源がライブラリに統合されているという点で、Roonに優位性がある。
……とりあえず私にはそう思えるのだが、どうだろう。
ついでにRoonはオーディオの領域に軸足を置いているので、DXDとかDSD256とか再生できたりするし、再生品質も良好。一応この辺も、近似したサービスに対する強みには違いない。
音楽の多面性を楽しむための様々な要素が極めて高いレベルでまとまっていることが、Roonにかつてない魅力を与えているのである。
なお、RoonはTIDALの音源をライブラリに統合できる一方、TIDALの公式アプリそのまんまのスタートページも用意されている。
と、ここまでがRoonの「魔法」の再確認である。
で、問題はこれからだ。
何度も何度も何度も何度も言っているように、Roonの魔法は完全ではない。
限界がある。
Roonの魔法の限界は、そのまま「Roonの(利用している)データベースの限界」に起因する。AMGとか。
Roon自身が情報を持たない音源に関しては、当たり前の話ではあるが、自動的な情報の付加はもちろん、「結び付ける」こともできない。
これではRoonの魅力も半減……いや、激減だ。
洋楽はいい。
Roonはそもそも英語圏のソフト/サービスだし、メジャーなアルバムであれば、膨大な情報と繋がりがあって当然である。
無論、洋楽でもアルバムタイトルと曲名を引っ張ってくるのが精いっぱいというアルバムもしくはアーティストは存在する。
それでも、基本的には「よくこんだけの情報があるな!」という感想、もとい感動の方が強い。
で、邦楽は?
……
…
『シン・ゴジラ 音楽集』を入手したのでリッピングする。
流石はdBpoweramp CD Ripper、発売間もないシン・ゴジラのサントラもこの通り。
そしてRoonにインポートする。
ん……?
Unidentified
こんなんじゃ困るのであらためて見つけに行かせる。
No Results Found.
一応アルバムクレジットも見てみたが、この通り。
Mayer Hawthorneの『Man About Town』とは比べるべくもない。
それなのになぜアルバムタイトルも曲名もアルバムアーティストもアルバムアートもビシッと表示されているのかって、そりゃ私自身でタグを付加しているからだ。
Roonは基本的に自身のデータベースの情報を優先するが、該当する音源の情報を見つけられなかった場合、音源に付加されたタグを利用する。アルバムページにある「MOVIE」のタグも音源自体に付加されたものである。
ユーザー自身による音源管理は決して無駄にならない。
なら、Roonのデータベースに該当なし、さらに音源のタグもからっぽの場合はどうなるか……は後のお楽しみとして、鷺巣詩郎のアーティストページを見てみる。
これまたMayer Hawthorneとは比べるべくもないが、情報がないのだからどうしようもない。一応公式HPとwiki(英語版)へのリンクに加え、なぜか生年月日の情報がある。
それでも、アーティストページから携わったアルバムに一元的にアクセスできることは素直に嬉しい。Roonのデザインの底力と、ユーザー自身で付加したタグがあればこそである。
Roonのデータベースに該当なし、さらにタグもからっぽ。
そんな音源の場合。
こないだ買ったAKIRAのハイレゾ。
DSDIFFで、タグはからっぽ。
しかも、従来のアルバムからは曲順が変わっている。
そんな音源をインポートしたのでは、そりゃRoonだってお手上げである。
アルバムタイトルにはフォルダ名、曲名にはファイル名をそのまんま使うという悲惨な状況になっている。トラックナンバーすらありゃしない。
フォルダ名とファイル名がしっかりしていればもう少しマシな状態にはなったろうが、コレはe-onkyoからダウンロードしたまんまで突っ込んだのでこの有様である。
それでもRoonのデータベースを信じて再度探しに行かせる。
必死に似たようなアルバムを見つけてくるが、的中はない。
そこで、検索で悪さをしていそうな文字列を消してみると……あった。普通にAKIRAのサントラ(CD)はあるので、当然と言えば当然だが。
しかし、AKIRAのハイレゾは従来のCDとは曲順が異なる。
Roonもそのことを指摘する。
至れり尽くせりなことに、ユーザー側で適用する曲情報の並べ替えもできる。
……
要するに、「最後は自分でやれ!」である。
ここでひとつの疑問が浮かび上がる。
Roonはインポートした音源を全自動でRoon色に染め上げてくれるからいいのであって、なんでこんな風に抜け漏れ不明瞭な音源をいちいちユーザー側で整備しなけりゃならんのだ、と。
どうせどこかでやる羽目になるのなら、Roonにインポートする前の段階で、確実に自分の意思を反映させる方がずっといい。
結局のところ、たとえRoonを使おうと、ユーザー自身で音源を管理し、ライブラリを構築することの重要性と必要性が消えることはない。
Roonに興味がある、あるいはRoonに音源の管理とライブラリの構築を丸投げしたい人にとっておそらく重要なのは、洋楽はさておいて、「Roonがどこまで邦楽のデータを見つけられるか」ということだろう。
これについては、非常に申し訳ないが、私としては「完全ではない」としか言いようがない。こればっかりは実際に試してみるしかない。
「洋楽ほどではないがかなり見つけてくる」とか「7割程度なら見つかる」とか「3割も見つからなくてクソ」とか、もう少し具体的な話をできればいいのだが、ユーザーのライブラリがどのような音源で構成されているかは千差万別である以上、なんとも言いようがないのである。
あくまで私個人の感想としては、邦楽であっても、アルバムタイトルと曲名だけなら「よくこれだけ見つけてきたなあ……」と思えるレベルではある。でもアルバムアートになるとかなり辛い。
アーティストページの情報はほとんど見つからないが、KOKIAとピロウズはバイオグラフィも含めて見つかった。やったぜ。
いわゆるオタク色の強い音源に関しては…………やっぱりなんとも言えない。
例えば『俺の屍を越えてゆけ』のサントラは見つからないけど『魔界戦記ディスガイア』のサントラなら見つかるとか、『聖剣伝説2』のサントラは日本版が見つかるけれども『聖剣伝説3』は海外版しか見つからないとか、そんなんばっかりで、なんとも言いようがないのである。
残念ながら邦楽は多くの場合情報量で洋楽に遠く及ばず、ライブラリにおける「繋がり」も薄いため、Roonの「音楽の海」を存分に楽しめるとは言い難い。TIDALにおける邦楽の影の薄さも、その傾向に拍車をかけている。
音源そのものの情報についてはユーザー自身のタグ付け、もしくはRoon上での整備でどうにでもなるが、「繋がり」に関してはRoon側にデータがないとどうしようもない。単に音源の情報がないという場合に加えて、これも魔法の「限界」である。
一応、ダウンロードしたまま(つまり私の意思を反映させていない)のハイレゾ音源を保管したフォルダをRoonにインポートした時、どうなるのかを示す。
(AKIRAのハイレゾのみ、Roon内の編集履歴が適用されてアルバムアートが表示されているが、素の状態では表示されない)
この状態をどのように捉えるかは、人それぞれ。
ここまで、あらためてRoonの「魔法」の正体と、その限界について書いてきた。
Roonの「魔法」は完全ではない。
データベースから情報が得られず、Roon色に染まることのできなかった音源では、Roonの恩恵を最大限に得ることはできない。
しかし、それでもなお、Roonがかつてない魅力を持ったソフト/サービスだと言うことに逡巡はない。
ずっと、ずーっと重要性と必要性を言い続けてきたからこそ現実的な難しさも理解できる、音源の管理とライブラリの構築という命題。
決して完全ではないにせよ、とうとうRoonは「これなら任せてもいいかな」というレベルでそれを担い得る性能を実現した。特に洋楽をメインで聴く人であれば、相当満足のいくライブラリに仕上がると思われる。(タグがからっぽの状態でRoonにインポートして、その後に「Export」すれば、なんと……)
そして、Roonがもたらす「音楽の海」という体験は、私がネットワークオーディオの真のメリットだと信じて疑わない「居ながらにしてすべてを見、すべてを操ることで得られる、音楽再生における筆舌に尽くしがたい快適さ」と非常に近しいものだ。
繰り返す。
何度だって繰り返す。
たとえRoonを使おうと、ユーザー自身で音源を管理し、ライブラリを構築することの重要性と必要性が消えることはない。
それどころか、音源に反映させたユーザーの意思こそ、Roonが最後に頼るものに他ならないのである。
Roonがあれば他には何もいらない?
そんなことはない。