デスクトップオーディオにおいて真剣に検討すべき「机とスピーカーの配置/どこに置くか」、そしてその後にくる「スピーカーの設置/どう置くか」について考えてきた。
もうひとつ、忘れてはいけないことがある。スピーカーを置いただけでシステムが成立するとは限らないということだ。というより、多くの(むしろほとんどの)場合、スピーカー以外にDACやアンプといった機器も別途必要になると考えた方がいい。
「オーディオのために使える場所が机しかない」という現実的な理由でデスクトップオーディオのスタイルを選ぶ人が多いと思われる状況で、そこからさらに「スピーカー以外のオーディオ機器も置く必要がある」としたら、その置き場所をどうするかは上の二つに匹敵する大問題である。
この記事では実例を交えながら、「スピーカー以外の機器の置き場所」について考え、いくつかの方法を提示する。実践すればこそ、アイデアも生まれる。
目次
そもそもスピーカー以外に機器を置かない
スピーカーのスペースを作るだけで精一杯、もはや机のどこにもそれ以外のオーディオ機器が使えるスペースは存在しない。机を動かすのも家具の配置換えも無理。なんぼ工夫しても無理。無理なもんは無理。
現実的に、こういう状況だっておおいにあり得る。少なくとも「机にスピーカーを置く」という決断をしてくれたのだから、オーディオに取り組んでくれることに感謝することはあっても、「スピーカーしか置けない」ことを非難するつもりは毛頭ない。
ただしこうなってしまうと、取り得る選択肢があまりないことも事実。
最も単純で、同時に真剣なオーディオとしては最後の手段感もある、PCからのアナログ音声出力(多くの場合ステレオミニ)を、そのままアクティブスピーカーのアナログ音声入力に繋ぐという方法がある。特に語るべきことはないが、たとえこの選択をしても、しっかりとしたスピーカーをしっかりとセッティングすれば、ノートPCやモニターの内蔵スピーカーとは次元の違う音が確実に得られる。
次に、PCとUSB接続できるアクティブスピーカーを導入するという方法。この機能を持つ「本格的な」アクティブスピーカーは必ずしも豊富にあるわけではなく、パッシブスピーカーと比べて大幅に狭い選択肢の中から製品を選ぶことになる。幸いにして製品そのものは粒揃いといった状況なので、決め打ちで上質なシステムを完成させること自体は可能である。
ちなみに、いくら「机にスピーカー以外の機器を置かない」といっても、スピーカーの実力を発揮させたいのなら、ベタ置きはやめよう。
いずれにしても「現状から机の配置を変えない」「スピーカー以外の機器を置かない」選択をする以上、スピーカーを買い替える以外でシステムを本質的に発展させることは難しい。また、例えばPCとUSB接続できるアクティブスピーカーを導入したとして、将来的にスペースの問題が解決し、別途USB DACを導入するという展開になった場合、スピーカー側のDACは役割を失う。
「スピーカー以外に何も置けない」からといってデスクトップオーディオをやらないくらいならやる方が絶対にいいし、決してスピーカー側の多機能が「無駄になる」とまでは言わないにせよ、この辺りの事情は前もって認識しておくべきだ。
机に置く
まず、「デスクトップオーディオにおすすめ」とか「デスクトップにも置けます」とか、そういう言葉を使っている業界の方々は、本当に実感をもってそう言えるのか、よくよく考えてほしい。
机とは様々な作業を行う生活の場であって、オーディオ機器を置くためだけの台ではない。
オーディオ機器を単に「置ける」のと、「置いた机を使って生活する」のはまったく違う。
それ、本当に机に置くの? 本当に? 置いた状態の机で我慢せずに日々を過ごせるの?
ちょっとした機器を置く
ノートPC、あるいはモニターのスタンドとスピーカーの間には少なくとも何かしらの空間があるはずで、こうした空間を使えば、例えば小型のUSB DACならばじゅうぶんに置く余地がある。USB DACが使えるだけで、システムの柔軟性は著しく高まり、導入可能なアクティブスピーカーの選択肢も激増する。豊かな中低域を得るためにできるだけ大きなスピーカーを使いたいので、そのぶん他の機器を置くことが難しい、という場合にもこの方法が使える。
一方、驚くほど小型のアンプも製品として存在するので、たとえスピーカーを置く以外で自由になる机上のスペースが狭小でも、パッシブスピーカーを使うことをあきらめる必要はない。
……が、スピーカー以外の機器を置くための机上のスペースが厳しい場合、無理してパッシブスピーカーにこだわるよりは、素直にアクティブスピーカーを使った方が、容易に高いクオリティを得られると個人的には思う(USB DACは小型高性能な製品の選択肢が数多くあるのに対し、アンプになるとなかなか難しいという事情もある)。例えばADAM T7Vは、55000円という価格を考えるとぎょっとするほどの音を出してくる。
ノートPCをそのままではなくモニターを使っている場合、後述もするが「モニター台を使う」という方法もある。その状態でもモニターの高さを適切な範囲で維持できることが前提ではあるが、小型のオーディオ機器であれば余裕で収まるスペースが作れるので、検討する価値はある。
ハーフサイズくらいの機器を置く
ハーフサイズの機器は奥行きもだいたい20センチ程度で収まる場合が多いので、機器の背がじゅうぶんに低ければ(この記事で使用しているZEN DACやNEO iDSDはまさにそう)、なんとかモニターのスタンドとスピーカーの間に収まるサイズ感といえる。もちろんモニター台の下に収めるという方法も使える。机を作業スペースとして使う際の奥行きは極めて重要であり、オーディオ機器で無闇にそれを奪うのは可能な限り避けたいところだ。
また、このサイズになると、製品の選択肢が一気に増え、最先端の機能とスペックを有する小型高性能な製品も数多い。パッシブスピーカーとアンプの組み合わせも含め、慎重に製品を選べば、あまり作業スペースを侵食することなく、机の上だけでデスクトップオーディオを完結できる。
ちなみに例として写真で使っているNEO iDSDは縦置き設置も可能であり、これはデスクトップオーディオを実践するうえで非常に有用な特徴といえる。
もうちょい大きな機器を置く
「ハーフサイズよりは大きいがフルサイズよりは小さい」機器を置くとなると、現実的にはなかなか大変である。
一例として、私も使っているTEACのパワーアンプ「AP-505」のサイズは「290 (W) × 84.5 (H) × 271 (D) mm (突起部を含む)」とのことで、実際に置くとこんな感じになる。
上の写真のような置き方をすると、スピーカーも含めて机の右側30×80センチのスペースがほとんど使えなくなる。日々この机を使う身として、これはかなり辛いスペースの減少である。一応、NEO iDSDのように、横幅だけなら辛うじてモニターとスピーカーの隙間に入るのだが、AP-505はそれなりに高さと奥行きもあるため、モニターのスタンドやスピーカーとの兼ね合いを考えると難しい。
このサイズの機器であっても、机の大きさ次第では置けなくはない。確かに置けなくはないのだが、いよいよ机の作業スペースを本格的に犠牲にする覚悟が必要になる。
フルサイズの機器を置く
これでどうしろと。
こんな机で暮らせと言われても私は真平御免だ。
トンチキな例で使われているYAMAHA A-S801の名誉のために言っておくと、A-S801は価格帯的にずっと上のクラスのスピーカーであっても満足のいく音で鳴らせる能力があり、充実したUSB DAC機能も持つ素晴らしいアンプである。ただ、「こういう机にこういうフルサイズのオーディオ機器を置くのは明らかにおかしい」というだけなのだ。
仮に横幅がフルサイズでも、高さと奥行きの両方がじゅうぶんに小さい機器であれば、ここでもモニター台の下に収めるという方法を使えなくもない。この条件に該当する製品は極めて少数というのが現実だが。
もし、本当に机としての機能を損なうことなく机にフルサイズの機器を置きたい、なんてことになれば、オーディオ機器を置いた程度ではまったく気にならないくらい大きな机を使うしかない。具体的には、机の横幅が200センチ以上は必要になってくるものと思われる。そして、そんなに大きな机がある/使えるスペースがあるなら、こう思うのである。
「そこまでして机に置く必要はないのでは?」
モニター台を使う
机の上以外にオーディオ機器を置くスペースが取れない場合に心強い味方になるのが、いわゆるモニター台。
モニター台自体の大きさや現実的な机上のスペース、キーボードやマウスを使うことを考えると、さすがにフルサイズやそれに準じる機器を置くのはほぼ無理だが、ハーフサイズ程度の機器であればじゅうぶん設置が可能になる。
例として挙げた上のセットアップはZEN DACとBluesound POWERNODE (2021)の組み合わせで、「PCを使っている際はUSB DACを介してPCの音を再生し」、「PCの電源を落としてもPOWERNODE単体でストリーミングサービス等で音楽を聴ける」という環境を実現している。
そして当然ながら、使っている机が小さければ小さいほど、モニター台の併用によるスペース追加の恩恵は相対的に大きくなる。
机に置かない/机以外の場所に置く
「デスクトップオーディオ」とはいえ、スピーカーですら必ずしも机の上に置く必要はないのだから、スピーカー以外のオーディオ機器も、絶対に机の上に置かなければならない理由はない。
もし机の周辺に機器を置けそうな空間があるなら、可能な範囲で最大限活用したい。
一例として、私が最初にデスクトップシステム/ゲームシアターを構築する際、それ以前から椅子の後ろのメタルラックにPC(とミニマムなUSB DAC)が、サイドテーブルの一角にゲーム機があった。そして新たに導入したスピーカーは机に置き、AVアンプのNR1608はサイドテーブルの下の床、実用上そこに何かあっても邪魔にならないスペースに置くことにした。
システムを構築するうえで、できるだけ既存の生活空間を侵さないことを意図したわけである。当時サイドテーブルは重要な作業スペースで、そこをオーディオ機器で潰したくはなかった。
しかし、専用室でもない普通の部屋の床にオーディオ機器を置くというのは色々とどうなんだ、という思いは当然あった。くわえて新たな機器を導入するスペース的な余裕もなく、このシステムは完成と同時に機能的にもクオリティ的にもどん詰まりの状態だったといえる。
こんな感じで、「机以外の場所」として一番手っ取り早い場所は「床」だと思われるが、必ずしも良質な選択とは言い難い面がある。結局「机に置けないほど機器が多い/大きい」から机以外の場所に置くわけで、その行き先が床では自ずと限界がある。
また、既にある家具/棚の上にオーディオ機器を置くことも不可能ではないが、やはり床と同様、早々に限界が訪れる。一般的な家具ではオーディオ機器の重さに耐え得るか、という強度面の不安もある。
ラックを使う
そこで、いよいよラックの出番である。
「オーディオのために使える場所が机しかない」という理由でデスクトップオーディオをやっているのにラックなんてナンセンスだ、と思われるかもしれないが、そこは頭の使いどころである。意外とどうにかなるものだ。自分からデスクトップオーディオの可能性を狭める必要はない。
それでは、デスクトップオーディオにおける理想のラックとはどのようなものか。
この問いに対するとりあえずの答えは、「生活空間や作業スペースに悪影響を及ぼさない範囲で設置可能で、それでいて収納力もばっちりなラック」ということになるだろう。
一例として、私は自作のラックをサイドテーブルと融合させるというアイデアによって、スペースの有効活用とラックとしての収納力の両立を図っている。
机の周辺の空間にある程度の余裕があることが前提になるとはいえ、デスクトップオーディオにおいても、スピーカー以外の機器の置き場所としてラックを使うことは決してあり得ない選択ではない。システムを構築する過程で機器が増えてきた場合や、自分が望む製品がどうしても机に置けないという場合、机/家具の配置換えとあわせてラックの導入はおおいに検討に値する。
あとは、当然ながらラックの置き場所として「机の下」という選択肢もある。机の下には少なくとも高さ60センチの空間があるわけで、それを使えば、結構なサイズと結構な量の機器が置ける。
しかし世の中には、オットマンを置くなりして机の下で足をぐ~っと伸ばしたい人もいる。確実にいる。なぜなら私がそうだから。そしてそういう人にとって、机の下でオーディオラックがかなりのスペースを占拠しようものなら、快適な足伸ばしデスクライフは御破算だ。これでは「生活空間としての快適性を維持してこそのデスクトップオーディオ」は成立しない。
というわけで、なんとか個々の状況にあわせて工夫して、いい感じにラックをセットアップする可能性も検討してほしい。
参考:私の試行錯誤
私が最初に構築したデスクトップシステム/ゲームシアターから配置換えを行った際、部屋のデッドスペースに余っていた縦型ラックを置くことで、一気に「オーディオ機器の置き場所」を解決した。写真には写っていないが、キャスターで動かせるコンパクトなサイドテーブルも併用して、可能な限り作業スペースの維持も図った。
今の部屋にデスクトップシステムを引っ越した後は、椅子の右後方にラックを置いた。PCやモニターとはそれなりに距離が生じるが、その辺は例によってケーブルモールを活用して見苦しくない配線を目指した。
しばらくして、「ただでさえ貴重な机周辺の空間」の一角を「オーディオのためだけのラック」が専有していることが気になり始めた。
それを契機として、「デスクトップオーディオにおける理想のラック」とはどのようなものかをセットアップも含めて考え、その問いに対するひとつの答えとして、手元にあった材料を使い、自分でラック(のようなもの)を作った。
横幅51センチ×奥行き35センチ×厚さ1.5センチのハードメープル無垢材を棚板に、10センチのカバ集成材の角材+スペーサーを支柱に使ったラック(のようなもの)。これは元々メインシステムのラックの隙間に置くテーブル的な使い方を想定したもので、当初はこのように重ねてラックにするつもりはなかった。が、スパイクも使えるように支柱の両端に鬼目ナットを仕込んでいたことで、「これ使えば連結できるじゃん」と思い付き、スペーサーを追加して今の形に変貌した。
最下段の支柱にスパイクを付けて、スパイク受けを介してこれまた余っていたブビンガのボード(53×35センチ)に設置。これで「デスクトップシステムでマルチチャンネル・サラウンドを実現するために必要な」AVアンプ/NR1608、「Persona Bをはじめ対応スピーカーをバイアンプするための」AP-505を2台、「フルスペックのファイル再生を実現するスペックとプリ機能」を持つNEO iDSDという、今まで使っていた機器をすべて余裕をもって収納できる。
そこにサイドテーブルをすっぽりとかぶせて完成。これでラックの置き場所が、机/作業スペースの延長としても機能するようになる。サイドテーブルの奥行きが45センチに対してラックの奥行きが35センチというのがミソで、仮にサイドテーブルを壁にベタ付けする場合でも、結線のスペースが確保できる。ラックの位置が動いたおかげで、サラウンドスピーカーの設置も格段にやりやすくなった。
その後、最下段をブビンガからハードメープルに替え、中身の機材も替わって今に到る。
まとめ
デスクトップオーディオに限らずオーディオ全般に言えることだが、より良いオーディオ環境を構築するためには、基本となるセオリーを把握すると同時に、継続的な実践と思考に裏付けされた創意工夫が物を言う。
この記事で紹介していないTipsだって数多くあるし、ユーザー自身がデスクトップオーディオのセットアップについて深く考えるなかで、今まで思いもよらなかった斬新なアイデアが生まれることもあるだろう。
デスクトップオーディオは専用室やリビングルームを使う「普通の」オーディオに比べて、特に環境面で制約が多い。そしてそれをもって、「デスクトップオーディオではスピーカー/オーディオ機器の実力を発揮できない」などと訳知り顔で言うのは簡単だ。
しかし逆に言わせてもらえば、「そんなことは最初からわかっている」のである。
最初からそれをわかったうえで、「日々の暮らしと上質なオーディオの両立」という理想を求めるからこそ、本気でデスクトップオーディオするのである。