【GSFレビュー】『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』(PS4版)

 【GSFレビュー】における「RPG」第一弾は『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』(以下ドラクエ11)。
 PVで勇者が手にした王者の剣を見た瞬間から、期待度はうなぎ上りになる一方だった。

 本作はPS4と3DSという性格の異なるプラットフォームで発売されているが、Game Sounds Funの性格上、【GSFレビュー】で扱うのはPS4版となる。

タイトル情報

・ゲームタイトル
ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて

・対応プラットフォーム(日本国内、現時点)
PS4・3DS

・音声仕様
サラウンド対応(※) (参考:世界一やさしい「音声仕様」の見方

※公式情報なし。
管理人のレビュー環境において、少なくとも5chの音声を確認した。

 

ドラクエ11をプレイする前に、ドラクエ3をクリアしよう。

音楽

 なぜシンセ音源なんだとか、過去作からの使いまわしが多すぎやしないかとか、いろいろと言いたいことはある。

 それでも、ある段階でフィールドに出た時、あるボスのバリアを破った時、ファンならば感涙必死の演出が待っている。

 この感動はファンにしか伝わるまい。
 それでも、ひとりのドラクエファンとして、この音楽と演出がもたらす感動を評価せずして何を評価するというのか。

 そしてクライマックスにおいて、ドラクエ11は伝説となる。

効果音

 呪文を唱えた時の音、ルーラの音、メッセージウィンドウで文字が流れる時の音など、「ドラクエをドラクエたらしめる音」の数々は健在。

 個々の効果音はしっかりと作り込まれている。特に戦闘時の敵味方の行動、呪文、特技、凍てつく波動にいたるまでじゅうぶんな存在感と迫力のある音が付けられており、戦闘の高揚感の一翼を担っている。

 ただ、本作における音の主役は完全に音楽が担っており、朗々と鳴り響く音楽の中で、効果音はあくまでも脇役といった印象を受ける。この印象は特にフィールドやイベントシーンで顕著になる。フィールド上の各種オブジェクトに対する音の割り振りもごくごく基本的なレベルにとどまっている。

 ランダムエンカウントではなくシンボルエンカウントなのでフィールドには様々なモンスターが闊歩しているのだが、彼らもほとんど音を出さない。スライムがぴょこぴょこ跳ねているのが耳に残る程度である。

 さらに、愚直にシリーズの伝統を守った結果、まったくキャラクターの声を演出に使っていないため、フルボイスが当たり前な昨今の作品に比べれば音の情報量は必然的かつ明らかに少なめとなる。

 決して手抜き感はないものの、効果音それ自体がゲーム体験を深化させるような機会はない。
 「音の演出」という意味では、良くも悪くも昔ながらのRPGそのものと言える。

サラウンド

 ドラクエ11の音は一応サラウンドに対応している。
 しかし、サラウンドである意味をまるで感じない

 とは言いつつ、世界の「広がり」を音で感じ取ることは残念ながらできない。

 音楽再生にまったくサラウンドチャンネルが使われないのはまだいい。ほとんどの音楽は2chステレオで聴くように作られているからだ。

 フィールドに関して言えば、風の音や水の音といった環境音はサラウンドチャンネルからきちんと再生される一方、それ以外の効果音に乏しいので、「世界の濃密さ」への恩恵は非常に限定的。確かにサラウンド環境がないよりはあったほうが音に包囲されるイメージは得られるが、それにこだわるほどの価値は感じられない。

 モンスターの足音/移動音も視点に応じてきちんとサラウンドするのだが、距離感を把握したり、カメラ外のモンスターの存在を察知して移動するといった、ゲームプレイに豊かさをもたらすようなものではない。

 結局、ドラクエ11において「世界」「雰囲気」「感情」といったものを表現する役目を担うのはどこまでもすぎやまこういち氏による音楽の数々なのであって、サラウンドという技術/再生環境が用意されたところで、効果音は主役にはなれないのだろう。

 さて、フィールド以上に問題なのは戦闘である。
 「リアルタイム性のないターン制コマンドバトルにサラウンド音響は必要なのか」という疑問はある。それでもなお、音による迫力の向上が期待されてしかるべき戦闘においてすら、サラウンドはまったくと言っていいほど活きない。

 そもそも、「サラウンドチャンネルから意味のある音が出てくることすら稀」なのだ。イオグランデを唱えても灼熱の炎を吐いてもギガスラッシュを放っても、サラウンドチャンネルは黙して語らない。ラスボス戦ですらそうだ。

 戦闘時のカメラ演出を「オートカメラバトル」に設定していると、視点によってはリアルタイム音声出力がうまい具合に割り振られるのか、サラウンドチャンネルから各種効果音が明瞭に鳴ることもある。しかし、視点自体が目まぐるしく切り替わるため、「鳴る」と言っても一瞬で終わり、ぶつ切りの印象だけが残る。

 さらに、「あらかじめ作り込まれた映像」であるイベントシーンにおいてすら、サラウンドチャンネルはまったくと言っていいほど活かされない。視界を覆いつくす爆発が起きようが何が起きようが、サラウンドチャンネルは申し訳程度のアンビエント成分(ゴォーとかブゥーンとかそういうアレ)を垂れ流すばかりである。なんだこれは。

 「ドラクエ11の音はサラウンド非対応です」と言われるなら、なるほどそうかとそれで納得できる。
 しかし、実際にサラウンド音声が出力されている以上、音声仕様的には、間違いなくドラクエ11の音はサラウンドに対応しているのである。

 対応しているのにこのありさまとは、いったいどうしたことか。

総合評価

 ドラクエ11において、サラウンドに対応していることは本作の音の魅力になにひとつ寄与していない。

 映像面では大幅な進化を遂げただけに、良く言えばドラクエらしい、悪く言えば変わり映えのないサウンドデザインは美しく情報量豊かな映像と齟齬をきたしており、特にイベントシーンにおいて強い肩透かし感を生じている。「プレイヤーに与える情報を限定的なものとすることで、プレイヤー自身の想像力によって世界のイメージを豊かにする」という、初代から受け継がれてきたドラクエシリーズならではのゲームデザインは、少なくとも音の魅力を増す方向には機能していない。

 しかし、単純にサウンドデザインを見直せばいいというわけでもない。フィールド移動から戦闘からイベントシーンに到るまで饒舌に音で物語るようになったら、ただでさえ11の時点で薄氷の上にバランスを取っていた「ドラクエらしさ」が、今度こそ永遠に失われてしまう気もする。自由に視点を動かして見渡せる豪華なグラフィックと、それに負けない情報量を浴びせるマルチチャンネル・サラウンド。「ここまでやっといて、なんで声を付けないの?」と。現に、海外版のドラクエ11は声付きになるそうだ。 →Switch版にも声が付いた。

 だからきっと、ドラクエ11の音はこれでいいのだろう。
 最初からサラウンド対応だなどと思わなければ、ドラクエ11の音はドラクエの音として完璧なのだから。

 『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』にマルチチャンネル・サラウンド環境は不要。それでも、純粋に音質を追求したゲームシアターでこそ、伝説のはじまりは忘れがたき記憶となる。