去る4月19日、Volumio製品の新規取り扱いに関する、トップウイングサイバーサウンドグループの発表会が行われた。
この発表会に先立ち、VolumioのFounder/CEOであるMichelangelo Guarise氏にインタビューを行う機会を得た。私なりの視点から、わりと突っ込んだ話も含めてアレコレと聞いてきたので紹介したい。
――最初に自己紹介をお願いします。
Volumioのミケランジェロです。私は音楽とテクノロジーの両方を愛し、楽しんでおり、それがVolumioを始める原点となりました。
――私もRaspberry Pi 4でVolumioを使っているユーザーですが、日本ではVolumioについて、あまりよく知られていないと思っています。
というわけで、「Volumioって何?」と聞かれた時、ずばりどう紹介しますか?
Volumioは「あなたの持つすべての音楽ソースをひとつにまとめ、シンプルかつ最良のクオリティで楽しむ方法」です。
――「Volumio」という名前の由来を教えてください。
最初は、Volumioという名前ではありませんでした。そして、「音楽の楽しみ方」を示す何かよい名前がないか考えていた時、ひらめきがありました。
「Volumio」は「Volume」と「Mio」を合わせた言葉で、「Volume」は音楽やオーディオ機器のいわゆる「ボリューム」、「Mio」はイタリア語で「私の」を意味します。この二つが合わさった「Volumio」は「私の音楽」のような意味になります。音楽とはとても個人的なものなので、ぴったりの名前だと考えました。Volumioのロゴの「O」の部分を見ると、ボリュームノブのデザインになっているんですよ。
――とっても素敵なお話なので、ぜひ発表会でもその話をしてください!
――Volumioの歴史と、現在について教えてください。
Volumioの最初のアイデアが生まれたのは、私が大学生の時でした。
当時からオーディオに興味があり、パイオニアやトーレンスなどの古いターンテーブルの修理をしていました。アナログの音も好きでした。それと同時に、ハイレゾ音源の大きなライブラリも持っていました。
一方、友人の多くはターンテーブルを持っていなかったこともあり、ファイル音源も、ターンテーブルと同じレベルで楽しみたいと考えました。そこで、ファイル音源からどうやったら高いクオリティを引き出せるのか、趣味で調べ始めました。最初は古い業務用のコンピューターを使って再生するところから始め、当時から何人かのコミュニティもありました。
10年ほど前、Raspberry Piがリリースされました。安価で手に入りやすく、作り自体がシンプルで良い結果を得やすく、ユーザーも多い。「自分のやっていることに完璧なハードだ!」と思いました。
しかし、肝心のRaspberry Pi用の音楽再生ソフトがありませんでした。そこで、ある日の午後、大学で勉強する代わりに、Raspberry Pi用のシンプルな音楽再生ソフトを開発し始めました。
Webサイトを作ってソフトを公開したところ、予想をしていなかった量の好意的なフィードバックが寄せられ、同時に様々な改善提案もありました。この時から、自分や自分のチームだけで作るのではなく、ユーザーからのフィードバックを得て「一緒に作り上げる」というやり方が、Volumioのベースとなりました。
当初は「情熱を向ける趣味」というものでしたが、始めてから約1年後、とある会社から、「自分たちのオーディオ機器にVolumioを搭載したい」というオファーが来ました。もちろん返事は「イエス」でした。「この趣味はビジネスになる」と確信した瞬間でもあります。
当然ながら目標を達成するためには資金もチームも必要になりますが、その後も複数の会社からオファーがあったおかげで、私一人でやっていたところから、デザイン・開発・カスタマーサポートといったチームを作り上げることができました。
様々なオーディオ機器にVolumioが採用されるのはとても誇らしいことでした。しかし一方で、「Volumioの考えるユーザー・エクスペリエンスや哲学をフルで提供したい」と感じるようにもなりました。Volumio OS自体は完璧なオーディオ再生のために作られていますが、「Volumioのためのハード」も作りたかったのです。「これが私たちの考えるベストなVolumioの組み合わせです」と言える製品を意図しました。
こうして登場したのが「Primo」です。Primoは私たちにとって大きな一歩でした。Volumioの哲学の「目に見える形」であり、Raspberry Piと縁の無い、「ただ音楽を聴きたい」と思っている人たちにもリーチできるようになりました。Volumioには「製品を箱から出して、5分以内に音楽を聴けるようにする」という考え方があります。Primoによって、それが達成できました。
ソフトウェアについては、当初ここまで成功するとは思っていませんでした。Primoについては、リリースから48時間以内でファーストロットが完売しました。当時、あまりにも大量の連絡が来るので、電話が燃えるんじゃないかと思ったことを覚えています。自分たちの方向性は間違っていない、とも確信できました。
こうした展開を経て、私たちもまた「Volumioとはどのようなものか」を理解しました。単に「ソフトを作る」のでも「ハードを作る」のでもなく、「音楽を聴く体験を提供する」のがVolumioなのだと。
――公式サイトによれば、Volumioのユーザーはなんと50万人以上。凄い。
ありがとうございます。私たち自身、とても誇りに思います。
ただ、満足しているわけではありません。まだまだ先があります。
Volumioならではの「体験」を提供するために、第二世代の製品を3モデル用意しています。シンプルな製品を求める人のための「Primo」(DAC搭載のネットワークプレーヤー)、既にDACを持っている人のための「Rivo」(ネットワークトランスポート)、現代的なライフスタイルを志向する人のための「Integro」(アンプ一体型)です。
「Volumioを音楽再生システムの中心に置いてほしい」という想いがあり、そのためにRoonやSonosなど、他のプラットフォームと連携できるようにしています。また、将来的な話ですが、「どこで音楽を聴くかにかかわらず」Volumioを使ってもらえるようにしたいと考えています。
いずれにせよ、「すべての音楽を扱える」「簡単に使える」「高い再生クオリティ」というVolumioの三本柱は堅持していきます。
――Volumioは「オープンソース」とのことですが、それは具体的に何を意味しているのでしょうか。また、オープンソースであることで、どのようなメリットが生じるのでしょうか。
オープンソースであることは我々の技術にとって極めて重要な部分で、「コミュニティのメンバー全員が見ることができ、コードを書くこともできる」を意味します。もちろん、ストリーミングサービスとの統合など、他社のAPIを使うためにオープンソースではない部分もありますが。
Volumioが可能な限りオープンであるためのひとつの方法として、「プラグインによる拡張」があります。現在では高度なDSPやラジオなど、世界中のユーザーが手掛けたプラグインが40以上もあります。
――少々聞きづらい話で恐縮ですが、「オープンソース=無料」というイメージも根強くあると思われます。この辺りについてはどのようにお考えでしょうか。
このような混乱/誤解は日本だけでなく、世界中であります。
「オープンソース」という言葉は多くの場合で「フリー」という言葉と共に使われますが、ここでの「フリー」とは「Freedom」(自由)であって「Free of Charge」(無料)を意味するのではない、という点に注意が必要です。仮に無料のソフトがあったとしても、どこかで誰かがコストを負担しなければ、開発が進まないことに変わりはありません。
Volumioにはベーシックな機能を無料で使える「Volumio Free」プランもありますが、フル機能を使用可能な有料サブスクリプションの「Volumio Premium」プランもあります。その料金を基に、私たちも新たな開発を継続できます。
――他のプラットフォームや再生ソフトに対し、Volumioにはどのようなアドバンテージがありますか?
主なアドバンテージは、「音楽ソースが何であれ扱える」ということです。この「ソースの網羅性」という点に関して、明らかに他のシステムよりも優れていると考えています。
他のシステムだと、例えば、ファイル再生に優れていてもCD再生ができなかったり、Spotifyが良くてもファイル再生がイマイチだったりします。
それに対し、VolumioはCD、Spotify、ラジオ、DSDを含むハイレゾ音源ファイルに到るまで、あらゆる音楽ソースを一手に扱うことができます。興味深い事実として、Volumioユーザーの実に8割以上が、複数のソースを使って音楽を聴いています。
ここでクイズですが、Volumioで最も再生されている音楽ソースは何だと思いますか?
――今が2023年ということを考えると……ストリーミングサービスですか?
私もそう思いましたが……答えは「Webラジオ」です。
これはいいことだと考えています。なぜなら、Volumioが「クリティカルな」音楽再生だけでなく、日常的な、カジュアルな場面で使われていることの証拠だからです。
――Volumioは基本的に「ソフトウェア」だと思っていましたが、お話のなかで、現在ではそういうスタンスではないということがわかりました。それでは、OEM(Integration for other audio brands)はVolumioにとってどのような位置を占めていますか?
初期のVolumioにとって、OEMのビジネスがビジネス的にはメインでした。そこで得た資金が、さらなる開発にも繋がりました。
OEMは依然としてVolumioにとって重要ですが、現在では、自社製品の売上が占める割合が最も大きくなっています。
――あらためて、Volumio自身がオーディオ機器をリリースする狙いを教えてください。
まず、「完全な体験を提供したい」ということがあります。そして、私たちの考える「Best Combination of Volumio」を示すことです。
――最後に、日本のオーディオファンにメッセージをお願いします。
まずお伝えしたいのは、素晴らしいパートナーを得て日本にVolumio製品を紹介できるのは、まさに「夢が叶った」ということです。
Volumioはユーザーが音楽を聴く方法に敬意を払っています。どのような形であれ、大切なのは音楽への愛情です。そしてVolumioは、CDなどのフィジカルメディアを含む伝統的なスタイルと、先進的なスタイルの橋渡しになれると信じています。
私たちのデザイン、哲学、そしてイタリアのエッセンスに対して日本のコミュニティからどのようなフィードバックが寄せられるのか、今からとても楽しみにしています。
ファイル再生/ネットワークオーディオの世界で、Raspberry Piの世界的な浸透と歩調を合わせるように、早くから大きな存在感を放ってきたVolumio。
私自身のVolumioとの関わりは、Raspberry Pi 4がリリースされた段階で(ようやく)どのようなものか実際に把握するべく密かにVolumioを使い始めた程度で、初代「Primo」がリリースされた時も、「Volumioはあくまでラズパイ用のソフトである」という認識だったので、正直なところあまり印象に残らなかった。
そんな状態だったこともあり、今回のインタビューを通じて、私のVolumioに対する認識のかなりの部分が更新されることになった。既にVolumioは単なる「ラズパイ用ソフト」という自認から脱却していること、あくまでもサイドビジネス的なものだと思っていたOEMがVolumioの発展にとって非常に大きな役割を果たしたこと、現在ではハードウェア製品の重要性が高まっていること、実はミケランジェロ氏が私と同い年であることなど、様々な情報に接することができた。
特に「オープンソース」に関する話は、以前iFi audioのCEOへインタビューした際も語られており、あらためて読み直して見るとなるほどと思う部分もある。
ソフトの形ではなく、ハード込みで完成された「製品」として導入されるVolumioが現在の日本でどのように受容されるのか、私としてもとても興味深いところだ。