ネットワークオーディオとOpenHomeとRoon Ready

Roon Ready、ネットワークオーディオ第五の矢

 「プレーヤー」に関して言えば、今日においてある程度の製品層の広がりとユーザビリティ的な意義を持つネットワークオーディオのプラットフォームはOpenHomeだと言える。OpenHomeはUPnP/DLNAが抱える様々な問題点を克服すべく誕生したようなもので、プレーヤーがOpenHomeに対応することは、まともな音楽再生機器であることの担保にもなり得る。
 繰り返しになるが、こと「プレーヤー」に関して言えば、UPnP/DLNAはいよいよプラットフォームとしての役目を終えつつある。むしろそろそろ終わってくれ。
 

 厳格なルールに基づく音源管理の果てに構築される自分にとって理想的なライブラリを、様々な形で配信するサーバー。
 OpenHomeに対応、あるいはその言葉がきちんと成立する以前からUPnPに手を加えてまともな音楽再生機器であることを実現したネットワークオーディオプレーヤー。
 サーバーソフトの提示するナビゲーションツリーに基づいて音源をブラウズし、ファイル再生ならではの自由な音楽鑑賞を可能にするコントロールアプリ。

 サーバー、プレーヤー、コントロール。
 いつもの三要素により、OpenHome(一応UPnP/DLNAも)のシステムは、「居ながらにしてすべてを見、すべてを操ることで得られる、音楽再生における筆舌に尽くしがたい快適さ」というネットワークオーディオの真のメリットを文句なしに実現し得る。特に、「自分にとって理想的なライブラリの中から聴きたい曲にあっという間に辿り着く」という点では、長い時間をかけて磨き抜かれた優秀なコントロールアプリが多々あり、これ以上の快適さはないのではないかと思えるほどだ。なんてったってLUMIN AppにBubbleUPnPにLinn Kazoo(※追記参照)である。そりゃもう強い。
 UPnP/DLNA/OpenHomeではなくLinuxベースの単体プレーヤーであっても、サーバーとプレーヤー機能が同居するミュージックサーバーであっても、行き着く場所は同じである。
 

【2017/02/01追記】

OpenHomeに対応したプレーヤーでも、Kazooでは操作できない場合がある模様。

【追記おわり】
 

 ただ、残念ながら、「単体ネットワークオーディオプレーヤー」という製品ジャンルはあまり盛り上がらなかった。LINN DSはもちろん例外として、黎明期から数多登場したまともじゃないプレーヤーと要領を得ないアプリによって、製品ジャンルそのものの信頼が崩壊してしまった感すらある。一部の例外を除いて、標榜する「快適な音楽再生」がどれもこれも絵に描いた餅で終わってしまうのならそれでも致し方ない。そして、そんな悲惨な状況に対する忿怒がどっかのブログを生み出すのだが、それはまた別の話。

 「製品ジャンルとしてのネットワークオーディオプレーヤー」、すなわち「LAN端子を持った単体プレーヤー」が廃れたとしても、「ネットワークオーディオ」そのものが廃れるわけではない。
 なぜならば、ネットワークオーディオとは音楽再生におけるコントロールの方法論であり、再生機器に何を使うかに依存しないからだ。

 優れた再生ソフトとアプリを組み合わせることで、PCを再生機器として使ってもネットワークオーディオは完璧に実践できるのである。それどころか、下手な単体プレーヤーのシステムを軽く薙ぎ払えるレベルのユーザビリティだって実現されている。そしてPCでも理想を目指せば、結局は同じ場所に行き着く
 少なくとも私の中では、「PCオーディオ対ネットワークオーディオ」という対立の構図は意味を成さない。

 ある意味では、製品ジャンルと紐付けられた狭義のネットワークオーディオが廃れたおかげで、ネットワークオーディオの本質を悟ることができたとも言える。苦し紛れの屁理屈と言われればそこまでだが。

 だから、まぁ、ネットワークオーディオプレーヤーが豊富に出てこなくても、それはそれで別に構わなかった
 私の中では「快適な音楽再生」こそがネットワークオーディオの本懐であり、音質を担保したうえでそれを実現するためには、極端な話PCとUSB DACがあれば事足りる。
 なんて言っても、単体ネットワークオーディオプレーヤーを使い続けてきた身として、ネットワークオーディオプレーヤーという製品ジャンルが結局メジャーになれなかったことには、寂しさと、ついでに一抹の悔しさも感じる。それでも、別にそれでよかったのである。決してネットワークオーディオが廃れるわけではないのだから。

 もちろん、LINN、LUMIN、AURALiCなどなど、気合いの入ったネットワークオーディオプレーヤーをリリースしているメーカーには今後も頑張ってほしいし、SFORZATOにDELAにfidata、国産だってまだまだ火は絶えていない。
 
 

 ところがどっこい、ここにきてRoon Readyという新たなネットワークオーディオのプラットフォームが登場し、流れが変わった。

Roon Ready network players
【Munich HIGH END 2016】記事まとめ

 確かに、Roonは面白い。
 極めて強力なライブラリ機能を持ち、音源管理とライブラリ構築をまるまる肩代わりしてくれるうえに、「音楽の海」という未曽有の音楽体験を提供してくれる。特にTIDALと連携させた暁にはもう最高だ。
 さらにネットワークオーディオのプラットフォームとして考えても、強力なライブラリ機能とUSBとLANの垣根すら越えたユーザビリティの完全統合という点で、Roon ReadyはOpenHomeの一歩先を行く。
 だからこそ、ネットワークオーディオの魅力を伝える身としてもRoonの価値を大いに認め、とにかく情報がなければなんともならんということで色々と紹介しているのである。

 ただ、あくまで凄いのはRoonであってRoon Readyではない。Roon ReadyとはRoonの真価を味わえるシステムの幅を広げるところに意味がある。
 Roon Readyのおかげで「USBケーブルで繋いでもLANケーブルで繋いでも等しくOutputとして機能し、ユーザビリティも完全に統合される」といっても、距離や設置上の制約でもない限り、そんなもん最初からUSBで繋げれば済む。わざわざLAN端子を搭載してRoon Readyなんか名乗らなくても、素直にUSB DACとして使うだけでRoonの恩恵を完全に受けられる。

 それなのに、今まで狭義のネットワークオーディオ=ネットワークオーディオプレーヤーに見向きもしなかった、あるいは完全にUSB DACに軸足を置いていた結構な数のメーカーが、Roon Ready対応を表明したのである。
 これはいったいどうしたことだ。
 「USB最高、ネットワークなんてクソ」じゃなかったのか。
 むしろ、単体Roon Serverの問題が解決されない限り、Roon Ready対応なんて言ったところで、やってることはまんま狭義のPCオーディオだぞ。たまたまLANケーブルで繋いでるってだけで。
 

 LUMINとかAURALiCとか、ネットワークオーディオプレーヤーをメインに据えて、かつ自前のアプリを磨き上げてきたメーカーであれば、Roon Readyに対応するといっても、「あー新しいユーザー・エクスペリエンスを積極的に取り込もうとしてるんだな、さすがだな」と、すんなり腑に落ちる。
 しかし、ずっとUSB DACを作ってきたメーカーがなぜいきなりLAN端子なんか搭載して、Roon Readyになる必要があったのか? 素直にUSB DACを作っていればそれで事足りるというのに。USB DACにだってきちんと「Roon Tested」っていうプログラムがあるのに。あと、いまさらついでにDLNAなんて対応したって誰も使わんだろ。
 

 ………
 

 ……
 

 …
 

 結局、みんな狭義のネットワークオーディオに憧れていたのだろうか。
 そこに「快適な音楽再生」という夢を抱いていたのだろうか。
 もしそうなら、なんだか微笑ましいな。

 
 音源管理? ユーザーの問題だろそんなもん知らん。
 サーバー? ウチじゃ作ってないしそんなもん知らん。
 コントロールアプリ? リモコン使うんじゃ駄目なの?
 OpenHome? 何ソレ? DLNAじゃ駄目なの?

 いざ「ネットワークオーディオプレーヤーを作るぞ!」となったところで、メーカーの認識がこんなザマでは、出来上がってくるものもたかが知れている。
 
 一方、USB DACであれば、これらの要素はまだ知らんぷりできる。精々有名どころの再生ソフトと組み合わせた際の設定を解説すれば、一応の格好はつく。

 
 でもって、RoonがRoon Readyで提供したのはまさにココなのだ。

 音源管理? やりますやります!
 サーバー? なりますなります!
 コントロールアプリ? ありますあります!
 だからあなたもRoon Readyになりましょう!
 UPnP/DLNA? そんなもん捨てろ!!

 こうして、RoonがRoon Readyで「ネットワークオーディオを実践するためのお膳立て」を非常に高いレベルで、至れり尽くせりでしてくれるとなった途端、みんなこぞって製品にLAN端子を付けてRoon Readyとなった。メーカーは「USB DAC」であることに思い入れはなかったのだろうか。ネットワークへの熱い手のひら返しというか、なんというか……
 USB DACはどんな再生ソフトとも組み合わせられるが、Roon ReadyプレーヤーはRoonを使うことが前提になる。とにかく、これ以上ないくらいRoonの思惑通りである。

 いや、でも、現実的に、自前で頑張った挙句に要領を得ないシステムやアプリを作られるくらいなら、素直にRoonと組んだ方が100億倍ユーザーのためになる。妙な打算を抜きにして、Roonのユーザー・エクスペリエンスは実際素晴らしい。そうでなければ、そもそも紹介なんてしていない。
 

 それにしても、狭義のネットワークオーディオにまだこんな神通力が残っていたとは。
 メーカーとしてUSB DACしか作ってこなかった今までだって、別にJRiverとJRemoteでネットワークオーディオできます! と堂々と言ったってよかったのに。
 まぁ、例えば「JRiverReady」なんてものは存在しないが、「Roon Ready」はプラットフォームとして華々しく立ち上がり、すぐ対応すれば今なら注目されることも確かだ。

 というわけで、ミュンヘンで雨後の筍のごとく現れたRoon Readyプレーヤーを見ていて、なんとも複雑な感情を抱いてしまったのである。Roonの「音楽の海」を様々なシステムで存分に味わうために、Roon Readyプレーヤーが増えることは間違いなく良いことなのだが。

 どんなケーブルで繋ごうが、ネットワークオーディオはいい。
 
 

 聴きたい曲にすぐにアクセス。
 音楽の海でまったり泳ぐ。
 どっちも素晴らしい。

 音源に自らの意思を反映させて自分にとって理想的なライブラリを構築する、という意識が完全に消滅でもしない限り、Roon/Roon ReadyがOpenHomeの価値を食い尽くすなんてことはない。
 音源管理の習慣ができている人、すなわち現行のUPnP/DLNA/OpenHomeでネットワークオーディオのメリットをきちんと享受している人なら、Roonの価値を大いに認めつつ、プラットフォームとして共存できることも理解してもらえると思う。
 

 ただ、世界はRoonを知ってしまった。
 今後のデジタル・ファイル再生、特にユーザビリティはRoonのレベルが基準になっていくことは間違いない。さすがにUPnP/DLNAに対応するだけじゃもう無理だ。
 「プレーヤー」を作るメーカーにとってはますます大変な、ユーザーにとってはますます素敵な時代になった。
 
 

続・ネットワークオーディオとOpenHomeとRoon Ready
 

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