【レビュー】fidata HFAD10-UBX - ファイル再生時代の「本気のオーディオディスクドライブ」

 私は常々、ファイル再生における「音源」の重要性について述べてきた。別個のものとして捉えられがちな「PCオーディオ」と「ネットワークオーディオ」は「デジタル・ファイル音源を扱う」という点では同じであり、両者の差は本質的に微々たるものに過ぎない。

【ファイル再生の基礎知識】まとめ 音源管理からネットワークオーディオの実践まで いわゆるPCオーディオでも、いわゆるネットワークオーディオでも、両者の根幹には共通して、『デジタル・ファイル音源』が存在する。 ...

 では、ファイル再生における「音源」とは、実際どのような経路で入手するのか。基本的に次の三つに分類できる。

・CDのリッピング
・ダウンロード販売
・ストリーミングサービス

 
 まずはCDのリッピング。

 手持ちのCDからデータを読み込み、ファイルにすることである。本格的なオーディオの世界でファイル再生が盛り上がるずっと以前から行われてきた取り組みであり、今までに蓄積された膨大なCD資産を考えれば、後述するハイレゾ音源の販売が始まって久しい現在においても、「長らく音楽鑑賞を趣味にしてきた」個々のユーザーのライブラリの大部分は現実的にCDが占めているものと思われる。それゆえに、ファイル再生にとっても「音源の出処」たるCDの存在は、「CDをどのようにリッピングし、ライブラリを構築するか」ということとあわせて極めて重要である。

 続いてダウンロード販売。

 各種音源配信サイトから音源を購入し、ファイルをダウンロードする。物理メディアの仕様に囚われることなく多種多様なスペックの音源を扱えるため、ハイレゾ音源の入手経路はもっぱらこのダウンロード販売になる。逆に言えば、そもそもCDが手に入らない/CD化されていない音源を除けば、CD以下、つまり44.1kHz/16bit以下のスペックの音源をダウンロードで買う意味は総体的に小さくなる。どうしてもリッピングの手間をかけたくないというのでなければ、私としても44.1kHz/16bitの音源をダウンロードで買うくらいならCDを買った方がよいと思う。

 そしてストリーミングサービス。「入手」と言いつつ、実際にユーザーの手元に音源が残るわけではないという点で、上記の二つとは決定的に異なる。

 言わずもがなこの数年で世界的に浸透した音楽を聴くスタイルであり、ユーザーは手持ちの音源ではなく、サービス側からストリーミング配信されるデータでもって音楽再生を行う。長らく音楽ストリーミングサービスは一部を除きロッシーでの配信が行われてきたが、近年ではAmazon MusicやApple Musicといったメジャーなサービスがロスレス/ハイレゾ配信を開始したことで、いよいよ本格的にオーディオ・ソースとしての存在感を増している。

 
 近年ではストリーミングサービスの急速な普及に伴い、音楽再生においてCDの存在感がますます低下していることは否定できない。

 しかし、そんな現代にあっても、前述のようにCDは「音源の出処」としての地位を失っておらず、音楽メディアとしてCDを直接再生して聴きたいという需要も根強くある。ネットワークオーディオの申し子ともいえるfidataが外付けディスクライブとの組み合わせでCDのリッピングや直接再生機能を備えているのも、そうしたCDの価値を認めているからだ。

 なればこそ、「CDを大切にしたい」というオーディオファンの想いに真っ向から応え、満足させ得る外付けディスクドライブが求められることも、また道理といえる。

 かくして、ファイル再生/ネットワークオーディオ時代を象徴するfidataブランドから、本気のオーディオディスクドライブ「HFAD10-UBX」(以下AD10)は誕生した。

外観・仕様

 AD10のサイズは350 × 350 × 53mm(足及び突起部を除く)で、fidataの各モデルと同じサイズ感となっている。実際にやるかどうかはさておき、fidataと重ね置きしてもサイズ上の違和感はない。

 さすがに筐体はfidataのサーバーほど凝った作りではないものの、フロントパネルをはじめ、天板・側面ともに厚みのある削り出しのアルミパネルが奢られ、剛性感は十二分にある。オーディオ機器としての存在感は、fidataの名を冠するに相応しい仕上がり。

 背面。本機は電源内蔵型であり、fidataのサーバーまたはPCと接続するためのUSBポートのほか、USB出力も2系統備える。fidataのサーバーはUSBを1系統しか搭載せず、AD10を繋ぐとUSB DACと接続できなくなるため、そうした場合はAD10がUSBハブとしての役割を担うことになる。

 AD10のUSBハブは1系統が「for Audio」となり、USB DACへの接続はこちらが推奨される。

 フロントには動作状態を示すランプ(fidataと接続した場合、オフの設定も可能)と、ディスクトレイの右側に開閉を行うタッチセンサーがあるのみ。削ぎ落されたデザインの美学もまたfidataと共通。fidataと同様に、AD10の存在はオーディオ機器としてラックに収めても見劣りしない。

 
 AD10のハードウェアについてはAudio Renaissance Online 2021 Springで詳しく紹介されているので、こちらも参照。





運用

fidata Music App





 fidataのサーバー製品は外付けディスクドライブを接続することで、純正アプリのfidata Music AppからCDの再生とリッピングが行える。

 私が所有するHFAS1-XS20とAD10を接続し、CDを読み込ませる。

 すると、fidata Music Appのサーバーのツリーに「CD」という項目が表示され、

 あとはサーバー内のファイル音源と同様にプレイリストに曲を追加すれば、CDを再生できる。

 アルバムアートを含めて各種情報も表示される(当然ながらfidataの利用するデータベースでヒットするものに限られる)ほか、スキップ・シークなど、操作についてもファイル再生時と同様。「CDをネットワークオーディオの作法で再生する」という、なんとも不思議な体験である。

 fidata Music Appから直接CDのリッピングも可能だ。

 リッピングの結果出来上がったファイルはこの通り。

 fidataのCDリッピングはAccurateRipを含めた本格的なものであり、本体設定から様々なオプションを有効にできる。

 また、fidataの最新ファームでは「PureRead」に対応したドライブで機能をオンオフする設定が追加されている(AD10もPureReadに対応する)。CDの直接再生時に「RealTime PureRead」も使用可能であり、特に古いCDを多く所有しているユーザーにとって有効な機能となるだろう。

PCでの再生・リッピング

 AD10自体は汎用的に使用可能なUSB接続の外付けディスクドライブであり、fidataだけでなくPCとの接続も行える。

 普通に外付けディスクドライブとして、PCのリッピングソフトと組み合わせて高精度なリッピングが行えることはもちろんだが、然るべき再生ソフトと設定の組み合わせにより、PCをマウスもキーボードも不要な「CDトランスポート」として使うことも可能になる

 ここではあまり意識されていない使い方ということで、後者について紹介したい。組み合わせる再生ソフトには、後述するアプリの存在からJRiver Media Centerを使う。

 
 まずはコントロールパネルから自動再生の設定を行う。

 「オーディオCD」の自動再生でJRiver(Media Centerと表示)を選択する。

 この状態でCDを挿入すれば、自動的にJRiverでCDの再生が始まる。

 ここでJRiverのコントロールアプリ「JRemote」を使えば、PCのJRiverの再生キューがアプリと共有されるため、そのままアプリからCDの再生操作が可能になる。

 こうすることでPCを使いつつ、CDの直接再生においてもAD10を活かせるようになる。AD10をリッピング用途だけで使うのはさすがにもったいないので、特にオーディオ用として専用のPCを使っている人に知っておいてほしいテクニックだ。

音質

 AD10の音質を評価するうえで、3つのテストを行った。

一般的なディスクドライブとの比較

 まずは純粋にAD10のディスクドライブとしての実力を確かめるべく、「オーディオ用ではないごく一般的な製品」である、私が所有するBRD-UT16LXとCDの直接再生で聴き比べてみた。

BRD-UT16LX

 CDの直接再生は、fidata HFAS1-XS20とディスクドライブの組み合わせ→SFORZATO DST-LepusにDirettaで伝送、というシステムで行っている。「CDの再生でDirettaを使う」なんて新旧技術の融合ができるのも、fidataの面白いところである。

 リファレンス音源/CDにはCorrinne Mayのアルバム「Beautiful Seed」から15曲目「Little Superhero Girl - Acoustic Edition」を用いた。

 BRD-UT16LXでの再生では、一音一音が硬く、強調感がつきまとい、空間も平面的。後段の再生機器の能力もあり、決して悪い音ではないのだが、あえてCDの直接再生で聴こうとも思えない。

 AD10での再生では、音にしなやかさが感じられるようになり、透明感や奥行きの表現力も向上する。fidataのCD再生機能とあわせて、いわば良質なCDトランスポートで聴いている感覚であり、「ネットワークオーディオの作法でCDを再生する」という他にない体験も含めて面白い。

 ここではAD10が流石の実力を見せたわけだが、「CDトランスポートとしての比較」と考えれば極めて順当な結果と言える。CDトランスポートがどれだけ再生音に影響を及ぼすか、オーディオファンならば先刻承知だろう。

 というわけで、多くの人が気になるのはおそらく次の比較ではなかろうか。

CDの直接再生とリッピング後の再生

 つまり、AD10を使ってCDを直接再生する場合と、AD10を使ってCDをリッピングしたうえで再生する場合の比較である。

 直接再生では、リッピング後の再生に比べて中低域の押し出し感で上回るほか、ボーカルが際立ち、全体的に元気の良い再生音という印象になる。

 リッピング後のファイル再生では、空間表現や繊細さ、高域の伸びやかさなど、「オーディオ的な素性の良さ」でCD直接再生に対して優位性を感じる。

 という具合で比べれば差はあるものの、両者の違いは大きなものではない。むしろ、本来ファイル再生のために作られたHFAS1-XS20を使いながら、CDの直接再生で「遜色ない」レベルまで持ってきたAD10を讃えるべきなのだろう。fidataとAD10の組み合わせによってファイルでもCDでも十全に再生を楽しむことができる、それこそが重要だ。

fidataのUSB出力とAD10のUSB出力

 前述したように、AD10は2系統のUSB出力を備え、うち1系統は「for Audio」となっている。これはfidata本体のUSB出力と比べても相当こだわっているとのことなので、実際にUSB接続(DST-LepusのUSB入力)で比較してみた。音源には羊文学「光るとき」(48kHz/24bit)を用いた。

 fidata本体のUSB出力からAD10の「for Audio」USB出力に替えると、ボーカルを含めて音像が引き締まり、空間の見通しが一気に改善する。どろどろとしていたバックの演奏が、俄然意味のある音の連なりとして認識できるようになったのは予想外の変化だ。

 AD10にとって、USBハブとしての機能はあくまでおまけ機能だと言える。それでもなお「for Audio」USB出力がもたらした音質改善効果は忘れがたく、特にfidataとUSB DACを組み合わせているユーザーにとって喜ぶべき恩恵となるだろう。

まとめ

「そもそもディスクが不要なファイル再生をやっているのに、再生システムにディスクドライブを組み込む必要があるのか?」

 この問いに対し、私は「少なくとも現時点において、それを望む人は少なからずいるようだ」と答えるしかない。事実、海外のミュージックサーバーではリッピングだけでなく直接再生も見据えたCDドライブを搭載する製品は数多く存在するし、AURALiCのように先進的なブランドでさえ、外付けディスクドライブによるCDの直接再生・リッピング機能を提供している。

 オーディオファンからの需要、「CDを大切にしたい」という想いがあるからこそ、それに応えるための機能があり、その機能を高いレベルで実現するための製品がある。

 そしてAD10はモノとしての存在感や高精度なリッピングを実現するための諸性能はもちろん、特にファイル再生に劣らないCDのリアルタイム再生能力によって、自らが「CDを大切にしたい」という想いに真っ向から応え得ることを証明している。

 
 「ファイル再生/ネットワークオーディオに移行すればCDはもう要らない」ではなく「ファイル再生/ネットワークオーディオへの移行に際しても、最大限CDを大切にする」

 これこそがアイ・オー・データの姿勢であり、「本気のオーディオディスクドライブ」HFAD10-UBXが存在する理由である。
 
 

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