【レビュー】iFi audio Pro iDSD Signature

 iFi audioはiFi audioは以前から小型・高機能かつ「手頃な」価格の製品に強みを持つメーカーという印象があるが、決して安価な製品ばかりというわけではなく、据え置き機ではミドルレンジ相当の「NEO」シリーズ、フラグシップ「Pro」シリーズがあり、ユーザーの幅広い要求に応えられるラインナップが用意されている。

 そんなiFi audioのフラグシップ「Pro」シリーズのDACが、先代機からブラッシュアップされた「Pro iDSD Signature」となっている。本機の価格は税込550,000円で、価格的にもフラグシップの貫禄じゅうぶん。

 今回は「デスクトップオーディオに使う本気のDAC」としてPro iDSD Signatureをお借りしたので、その観点を中心にレビューしたい。

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外観・仕様

 サイズは213mm(縦)×220mm(横)×63.3mm(高さ)と、ある意味でフラグシップモデルにあるまじきコンパクトさ。小型・高機能な製品を特徴とするiFi audioらしく、フラグシップのPro iDSD Signatureもまた、でかくて重い、いかにも物量投入型オーディオ機器然とした雰囲気とは無縁の姿をしている。

 さすがフラグシップだけあり、細部にいたるまで仕上げの質感は高い。先代機から本機になり、デザイン上の変更点として、「Signature」のオーナメントとともにリング部にゴールドの仕上げが施された。

 Pro iDSD Signatureは内部に真空管を搭載しており、その関係で放熱孔も兼ねているのか、天板から側面にかけて渦巻的な掘り込みがあり、デザイン上の特徴となっている。

 底面にはゴム系のシートが貼られており、設置の際はベタリと置く形になる。それ自体は安定した設置なのだが、下の写真のようにシートは底面全体を覆っているわけではないので、ベタ置きが気になる際はなにかしらインシュレーターを使う余地もある。

 背面。ネットワーク(有線&Wi-Fi)やクロック・シンク(プロのスタジオ用途を想定しているらしい)まで含めて入出力は豊富で、USB入力はリニアPCM768kHz/32bit・DSD512まで対応と万全。すべての入力にガルバニック・アイソレーションが施されている辺りはいかにもiFi audioらしく、現代のDACとして仕様面の不安はない。

 ちなみに、ネットワーク入力の対応はリニアPCM192kHz/32bit・DSD64に限られ、【機能】でも後述するように、ネットワークプレーヤーとしての側面はおまけに過ぎないと言える。

 
 アナログ出力はFixed(固定)とVariable(可変)の切り替えが可能。Variableの場合、音量の調整はフロントのボリュームノブあるいはリモコンから行う。なお、説明書を見るにここでの「Pro」と「HiFi」はあくまで出力レベルの違いのようだ。

 Pro iDSD Signatureは外部電源仕様で、iFi audioのこれまたフラグシップ電源であるiPower Eliteが付属する。iPower Eliteはそれ自体5万円弱するので、これだけでなかなかにお得感がある。

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 ボリューム調整や入力切替が可能なリモコンも付属する。

機能・運用

 Pro iDSD Signatureの大きな特徴として、出力に関する多様なオプションがある。

 まずはデジタルフィルターが色々と用意されている。「Direct - Bit-Perfect」ではいわゆるNOSの状態となり、PCM・DSDともに処理されずに出力される。「PCM - Upsampling」では705.6/768kHzにアップサンプリングされ、さらに5種類のフィルター・タップ数の組み合わせを選べる。「DSD - Remastering」はPro iDSD Signatureの目玉ともいえる処理で、デジタル信号をDSD512もしくはDSD1024に変換する。そしてDSD変換は44.1系統と48系統でそれぞれきちんと整数倍する仕様になっており、心配りが行き届いている。

 ファイル再生のソフト/ハードの仕様としてDSD512対応が当たり前になって久しいが、DSD1024は未だ一般化とは程遠い数値であり、その意味でPro iDSD Signatureはまさにカッティングエッジである。

 また、出力モードとして「Solid-State」「Tube」「Tube+」の3種類を選択可能。回路構成が異なる2つの真空管モードを備えるあたり、iFi audioのこだわりが見える。切り替えは真空管にダメージを与えないように配慮した仕組みとなっている。なお、フロントパネル左上のiFiロゴはインジケーターとなっており、動作状態やこの出力モードに応じて色が変わる。

 そのほか、フロントパネルにはヘッドホン出力(3.5mm/6.3mm/4.4mmバランス)、ヘッドホン用ゲインセレクターもあり、ヘッドホンアンプとしても充実している。

 横幅220mmとハーフサイズ仕様、かつ奥行きも小さいおかげで、机の空きスペースにもじゅうぶんに収め得るサイズ感となっている。スピーカーとモニターの隙間にそのまま置けるし、モニター台を使うのもいい。

 
 ネットワーク機能はAirPlayにくわえてUPnP/DLNAに対応する。fidata Music Appなど、UPnP畑で汎用的に使えるアプリであれば操作が可能。

 しかし、いかんせんUSB入力に対してネットワーク入力は対応スペックで差がありすぎ、一応コレ使ってと言われているLINKPLAY社のアプリからはTIDAL等のストリーミングサービスを使えるが肝心のアプリの出来がアレ、サードパーティー製アプリから操作するにしてもそもそもレスポンスがいまいち。

 という具合で、最先端の仕様を備える「純粋なDAC」としての在り方に、ネットワークプレーヤーとしての完成度はまるで及んでおらず、わざわざ本機をネットワークプレーヤーとして選ぶ/使う機会はないものと思われる。「たまに使える素敵なオマケ」くらいに捉えた方がよい。

 もっとも、さすがにiFi audio自身、自分たちの今までのネットワークオーディオへの取り組みに思うところがあったのか、約1年前に同社初となる、気合いの入ったネットワークトランスポート「ZEN Stream」が登場した。つい最近にはミドルクラスの「NEO Stream」も登場した。

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 ZEN Streamの登場はまさにPro iDSD Signatureがモデルチェンジを経て登場したのと同じタイミングであり、無責任な外野としてはZEN Streamのネットワーク機能をPro iDSD Signatureに搭載することはできなかったのかと思わなくもないが、まぁこれを言うのは野暮というものだろう。

音質

 音質評価はデスクトップシステムにて、常用しているNEO iDSDと聴き比べる形で行った。

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かつて「機材単体10万円までを目安に」ということで導入したのに、
デスクトップオーディオのリミッターを外されたばかりに無差別級試合に駆り出されるNEO iDSD……

 このように、デスク以外にラックを使えるデスクトップオーディオのセットアップの場合でも、Pro iDSD Signatureはコンパクトなので導入はいたって楽に行える。

 「HiFi/Variable」に設定し、Pro iDSD SignatureからTEACのパワーアンプ「AP-505」×2台にバランス接続、Persona Bをバイアンプするシステムである。

 私自身はあんまりアップサンプリングとかそういうものに魅力を感じない性質なので、基本的に「Direct - Bit-Perfect」の状態で聴いている。

 まず、Pro iDSD SignatureはNEO iDSDに比べて音のリアリティがまるで違う。絶対的な情報量の差がこの印象を生んでいる。

 おなじみMarvin Gayeの「What's Going On」(192kHz/24bit)では、冒頭のガヤからして別物のように生々しい。ボーカルはエネルギーを維持しつつギュッと音像が引き締まり、より明確に演奏からして分離して定浮かび上がる。

 そして同様に驚きだったのが、空間表現の改善である。左右への広がりはもちろん、前後の奥行きが顕著に深まった。デスクトップオーディオはほとんど必然的にニアフィールドリスニングとなり、さらに目の前に「机」という反射しまくりの巨大な障害物があるというのに、それでもなおこれほど空間表現に違いが出るというのは新鮮な感動だった。

 iFi audioのDACも製品によって再生音に感じるものは微妙に異なるものだが、Pro iDSD Signatureは「Pro」の名のとおり、全体的にあまり脚色的なものを意識させず、生真面目に誠実にDACとしての仕事を全うする、という印象が強い。

 で、こういう生真面目に情報量を叩きつけてくるという印象は、聴く人によってはキツいとか味気ないとか、その手の感想にも繋がるものだが、そういう時こそスイッチひとつで切替可能な本機の様々な出力オプションが活きる。DSDリマスターにせよ真空管出力モードにせよ、「素」の状態からすれば音が滑らかになる傾向で耳当たりも良くなるため、特にスピーカーと耳が近い≒相対的に音がキツく聴こえやすいデスクトップオーディオにおいては有効なオプションと言える。

まとめ

 例えばメインシステムからSFORZATOのセットを試験的に持ってくるようなこともなく(箱多すぎだし)、デスクトップシステムのDACはNEO iDSDしか使ってこなかったこともあるが、あらためて「本気のデスクトップオーディオ」を志向し、その一環としてPro iDSD Signatureを試してみて、正直素直に感動した。机を中心にするコンパクトな空間とシステムで、このレベルの音が出てくるのかと。あらためて、ファイル再生のシステムにおけるDACの重要性を痛感した次第である。

 デスクトップオーディオのシステムにおいても、DACは極めて重要である。そして本気のデスクトップオーディオは、DACのグレード差、クオリティの違いをしっかりと反映させ得る。

 そしてPro iDSD Signatureは当分陳腐化することはないであろう機能性と確かな性能を持ち、同時に「小型である」という、同クラスのDACにはないアドバンテージを持つ。コンパクトなサイズは「普通のオーディオ」のシステムに導入する際にも間違いなく有効に作用するし、使える空間に制約があるデスクトップオーディオならば、親和性の高さはなおさらだ。

 システムの規模や様相にかかわらず、純粋に高性能なDACが欲しい。たとえ空間的に狭小なシステムであろうと、DACのクオリティには妥協したくない。どんな場合でも、Pro iDSD Signatureは輝く。
 
 

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