【レビュー・空気録音あり】iFi audio iPower Elite

iPower Elite - iFi audio

 
 私が外部電源の重要性――特にPC/ネットワーク関連機器の――に遅ればせながら実感を持ったのは、QNAP TS-119の電源としてリニア電源(アナログ電源)を導入した時だった。

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 「機器に付属するスイッチング電源をリニア電源に換える」ことによる明らかな音質改善。この成功体験に基づいて、「メインシステムの外部電源仕様の機器にはなるべくリニア電源を使う」という方針を続けてきた。必ずしも「リニア電源はスイッチング電源より高音質」と思っているわけではないのだが、なにかしら「オーディオ用の」外部電源を使おうと思った時、リニア電源の方が選択肢が多い状況だったのも事実。

 そんな状況に「iPower」で気を吐いてきたiFi audioから登場した、上位グレードのオーディオ用ACアダプターが「iPower Elite」である。

外観・仕様


 iPower Eliteは同社のiPowerの上位機種にあたる。筐体は大型化かつ強化され、電源ケーブルが使用可能になり、そしてより大電流に対応した。

iPower EliteとiPowerのサイズ比較

 iPowerよりは大型化したといってもiPower Eliteのサイズは148×55×50mmとじゅうぶんに小さく、大概の外部リニア電源を使ったACアダプターよりも小型軽量である。筐体は航空機グレードのアルミニウムで、剛性感も相当にある。

 出力プラグは5.5mm/2.1mm(センタープラス)で、EIAJ4変換プラグが付属する。というわけで5.5mm/2.5mmの機器と繋ぐには変換プラグが必要。

 電源ケーブルが使用可能になったことで、今まで使ってきたリニア電源と本機をそのまま入れ替えられるという意味でも、電源ケーブルそのものに凝るという意味でもメリットがある。ただし重量は550gと軽いので、使うケーブルや結線状況によっては動く/浮く場合があり得る。強いて言えば、電源インレットとケーブルは同じ面にあった方が使い勝手がよかった。

 
 iPower Eliteには対応電圧によって5V/12V/15V/24Vの4モデルがあり、それぞれの出力電圧/電流は以下のようになっている。

■iPower Elite
5V/5A
12V/4A
15V/3.5A
24V/2.5A

 参考として、iPowerの仕様は以下の通り。

■iPower
5V/2.5A
9V/2.0A
12V/1.8A
15V/1.2A

 iPower EliteはiPowerの倍以上の電流に対応したことで使用可能な機器の幅は一気に広がった。物は試しとcanarino Fils(電源は12V、CPUはTDP35WのCore i7-6700T)にも繋いでみたところ、問題なく起動し、CPUにかなりの負荷がかかるRoonでのDSD512変換再生も可能だった。実際のところ消費電力的にはけっこうギリギリだと思うのだが、「ある程度のスペックのオーディオ用PCの電源としても使用可能」というのは、iPower Eliteの可能性を大きく広げる。

音質

 iPower Eliteの音質の検証は次の二通りで行った。

①デスクトップシステムにおいて、iFi Audio NEO iDSDの外部電源としてiPowerとiPower Eliteを比較

②メインシステムにおいて、canarino Filsの外部電源としてリニア電源(EL SOUND 12V5A)とiPower Elite 12V/4Aを比較

 ①は同社製品の比較ということで、iPowerからどの程度のグレードアップがあるかを検証する。ちなみにNEO iDSDには電源としてiPower 5Vが付属する。

 ②はiPower Eliteがcanarino Filsでも使えたことを受けて、周辺機器ではなく再生機器を使ったリニア電源とスイッチング電源のガチ対決を意図した。再生ソフトにはRoonを使い、DirettaでDST-Lepusに出力している。なお、電源ケーブルは同じものを使用している。

 「そもそもオーディオ用に作られていないスイッチング電源」とiPower Eliteを比較するというのも考えたが、そういう次元の比較をしても「そりゃよくなるだろ」的な展開になるだけでいまひとつ面白くないのでやめた。

比較① iPowerとiPower Eliteの比較

比較② EL SOUNDのリニア電源とiPower Eliteの比較

 
 まず①。

 NEO iDSDの電源をiPowerからiPower Eliteに換えると、端的に言ってあらゆる点で良くなる。

 空間は広がり、奥行きは深まり、背景は静けさを増し、音楽全体のエネルギー感も高まる。高域の伸び・低域の沈み込みはともに改善が感じられるが、帯域バランスそのものは変わらず、S/Nも向上しているため、変に高域がきつくなったり低域が強調されたりすることはない。やはり同メーカーの電源だからか、純粋かつ順当に音のグレードを上げてくれるという印象を受ける。

 今回は最近『GUNSLINGER GIRL』を全巻一気読みした勢いでKOKIA「たった1つの想い」をリファレンスとして聴いている。エネルギー感の高まりと静寂の深化はボーカルの存在感を際立たせる方向で作用しており、実に好ましい。音の解れ方も良くなっている。

 もっと低域の量感を増やしたいとか音を前に出したいとか、そういった特定の要求に応える方向とは異なるものの、現状のバランスを崩すことなく音質改善が得られるという意味では、NEO iDSDへのiPower Eliteの導入はある種理想的なアップグレードだと言える。環境の制約が大きいデスクトップシステムであっても、iPower Eliteの導入による音質的な恩恵は確かに感じられる。

 リビングシステムとデスクトップシステムでは意図して各種アクセサリーの導入をなるべく避けているのだが、iPower EliteについてはNEO iDSDの恒久的な音質改善策として入れたくなった。さすがにiPowerよりはかさばるとはいえ、そこまで設置スペースを圧迫するほどでもないし……はてさて。
 

 続いて②。

 これについては、EL SOUNDのリニア電源とiPower Eliteのどちらが上かを明確に述べることは難しい。

 EL SOUNDのリニア電源は、iPower Eliteに対してエネルギー感と音の押し出しや中低域の量感で勝る。全体的に元気の良い音で、前にぐいぐいと出てくる音が心地よい。元気が良いだけで「雑」かと言われればそんなこともなく、空間の透明感や輪郭の滑らかさといった要素にも不満はない。伊達にcanarino Filsとの組み合わせで4年以上にわたってfidata HFAS1-XS20とともに「プレーヤー」を担ってきたわけではない。

 iPower EliteはEL SOUNDのリニア電源と比べると、わずかに音が引っ込む代わりに奥行きが深く、空間の広がりや響きの繊細さで勝る。相対的に中低域の量感が減り、音像がスリムであることで空間の見通しが良く、解像感でもこちらが上。また、輪郭描写や空間の透明性を突き詰めて聴けばより高いS/Nが感じられ、これは「スイッチング電源はリニア電源に比べてノイジー」というオーディオ界に流布するイメージ――私自身、このイメージと無縁ではないことは自覚している――とは正反対の結果である。

 canarino Filsに付属してきた電源アダプターに比べれば、EL SOUNDのリニア電源とて圧倒的に高S/Nだった。しかし、S/Nの良さや透明感とった要素でiPower Eliteはその上を行く。総じて、元気良く音楽を聴かせるEL SOUNDのリニア電源と、よりニュートラルな方向で性能の高さを感じさせるiPower Elite、という印象を持った。

 繰り返しになるが、「どちらが上か」を述べることは難しい。それぞれに美点があり、音質的な絶対値は拮抗している。結局は「好きな方をどうぞ」ということになる。再生音にキャラクター的なものを求めないのなら、iPower Eliteの方が相応しい。

まとめ

 まず、iPower Eliteは機器に付属する電源アダプターや同社のiPowerを使っている場合は間違いのないアップグレードパスとなる。

 リニア電源との比較でも、私が使っているリニア電源に対して音質的に明らかに劣る部分はなく、オーディオ用として優れた電源であることに疑いはない。また、音質以外の部分、省スペース性や低発熱ということまで含めれば、iPower Eliteのトータルでの魅力はますます高まる。電源容量の関係でiPowerが使えなかった機器でも、iPower Eliteならば使えるものは多いはずで、優れた選択肢が増えたことは素直に喜ばしい。

 もし私がcanarino Filsを導入した時にiPower Eliteがあれば間違いなく選択肢のひとつとして検討しただろうし、メインシステムの電源事情は今とだいぶ違ったものになっていたかもしれない。
 
 

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