【レビュー】canarino DC due デュアル電源化キット - オーディオ用PCにいよいよスイッチング電源を使う

前置き:昨今のオーディオ用PC、もといCPUの電力事情

 オーディオ用PC「canarino Fils」を導入してから既に5年以上。

【更新】canarino Fils - ついにデジタル・ファイル再生の原器を手に入れたぞ ケースその他の変更に伴い、2016/11/14初出の記事を更新。 PCが本当の意味で「オーディオ機器」になる日 理想のオー...

 私のcanarino Filsが搭載しているCPUは「i7-6700T」であり、CPUの世代的にWindows 11に対応しないということが明らかになって以来、更新に向けてアレコレと検討をしてきた。

 実際のところ、i7-6700Tの時点で、私がオーディオ用PCに求める「Roon Serverを含む様々なソフトの複数同時運用」を行ううえで能力的にまったく支障はない。RoonでDSD512へのアプコンをするのも余裕。とはいえ、ソフトの進化に応じてハードにも刷新が求められるのは世の常だし、時代についていくためにはCPUの更新も当然だ。

 更新の際は必然的にCPUから何から、ケースとUSBカードLANカード以外は総とっかえに近いことになると思われるが、大きな問題が浮上した。

 電源である。

canarino Fils × EL SOUND アナログ電源 DC12V5A Improvedついにデジタル・ファイル再生の原器を手に入れたぞ  canarino Filsはまだ何度か変身を残していると書いたが、その中で...

 私がcanarino Filsの外部電源として使っているのは、EL SOUNDの12V/5A仕様のアナログ(リニア)電源。とりあえずTDP35WのCPUに対して電源容量は足りていたようで、導入してからの5年間、特に問題もなく使ってきた。

 しかし聞くところによれば、最近のCPUは消費電力の変動が極めて激しく、瞬間的に大きなピークが生じるとのことで、12V/5Aのリニア電源でTDP35WのCPUを使ったのではおそらくOSすら起動しないという現実を知った。また、以前iFi audioの「iPower Elite」(12V/4A)をcanarino Filsの電源に使うというテストをレビューの一環として行ったが、これは古い世代のCPUであるi7-6700Tだから使えただけであって、今時のCPUではまず無理だろうとのことだった。

 現在、TDP35WのCPUを搭載するcanarino Filsに標準で付属する電源アダプターは窒化ガリウム搭載の150W仕様となっている。150Wという容量を見るに、いかに最新CPUの電力要求がシビアかが見て取れる。もちろん常時これほどの電力が必要なわけではないにせよ、瞬間的かつ突発的な負荷とそれに伴う電力要求に万全に対応するために、これだけの数値が必要になるということだ。

 
 こうしてオーディオ用PCのCPUの更新は電源の更新とセットで考える必要が出てきたわけだが、ここで取り得る選択肢は二つある。

 
 ひとつめは、より大容量のリニア電源を導入すること。音質を第一に考えるなら、ある意味で確実な選択である。

 しかし、相手は「普通のオーディオ機器」ではない。最新のCPUを搭載するPCなのだ。オーディオ用PCとしてじゅうぶんな性能を得るためにTDP35W(相当)のCPUを使うことを前提に、リニア電源で上述したような最新CPUのシビアな電力要求にも余裕をもって対応しようと思った時、どの程度の数値が必要になるのかは正直わからない。この条件を満たせそうな、かつ汎用的に使用可能なリニア電源といえば、HDPLEXの300W/500Wモデルくらいしかぱっと思い付かない。

 どれだけでかく重くなろうが、意地でもオーディオ用PCにリニア電源を使うぜ! という、突き詰めれば例の太鼓に到る姿勢は実に尊いと思う一方で、それって現実的にどうなのよという思いもある。

 そしてふたつめの選択肢は、「オーディオ用の電源=リニア電源」という呪縛めいた思考に一定の折り合いをつけ、素直にスイッチング電源を使うことだ。
 

 さて、QNAPのTS-119にリニア電源を使って音質向上の実感を得て以来、私は外部電源仕様のPC/ネットワーク周辺機器に対して愚直にリニア電源をあてがってきた。結果として箱が増えまくった。最近になって、「このままではどこまでも箱が増え続ける」という危機感を抱き、数か月前から一念発起してその手の機器の電源を全部iFi audioのiPower/iPower2に交換することにした。今ではDELA S100SONORE opticalModule DeluxeDiretta Aperitivo USB-SFPJCAT USBカードFEMTOも、オーディオ用PCやネットワーク周りの機器は全部iPower/iPower2、つまるところスイッチング電源となっている。

 実際に今まで使っていたリニア電源からiPower/iPower2に交換して、確かに「音の傾向」は変われども「音が悪くなった」とは感じていないので、「箱が少ない」「楽」という点でこの路線変更は個人的に正解だったと思う。質が伴うならば楽は正義

 その意味では、いよいよオーディオ用PCの電源にリニア電源ではなくスイッチング電源を使うことになっても、それがオーディオ用にきちんと考慮されたものであるなら、いまさらその方式をもって拒絶する気はない。現にiPower Eliteでcanarino Filsを動かした時も結果は良好だったし。

 
 こんな感じでなんやかんやあって、「この際Windows 11に向けてCPUを更新する時は素直にスイッチング電源を使うか~」との考えに到った時に、オリオスペックから興味深い製品が登場した。それが「canarino DC due」である。

「canarino DC due」、先日発売を開始しましたオリオスペックオーディオ向PCの専用モジュールでして、canarinoFilsシリーズへの電源入力のデュアル化(2系統入力)を実現するPC電源分野の新たなソリューションです。PC分野でも高い知見を有するDirettaとの共同開発で実現しました。

このモジュールを用いることによって、canarinoに対し必要な電源を安定的に供給できるよう、消費電力の変動が極めて大きいCPUへの電源供給を他のセクションから完全に分離させました。特にCPUに対しては単独の電源ユニットからDC12Vのダイレクト供給を可能にします。2電源化の実現によって、canarinoにおいても昨今益々高速化する新世代のPCプラットホームへの対応に万全を期しました。

消費電力が激しく変動するCPUへの電源を分離した結果、その影響を間接的に受けつづけていたその他のデバイスへの電力供給が高いレベルで安定する効果ももたらしています。特にOSブート用SSDや音源保存用SSDへの恩恵的波及と、伴うサウンドのクオリティアップがここに望めるわけです。

https://www.oliospec.com/blog/?p=3284

 なるほど。

 というわけでオーディオ用PCのCPUの更新に先立ち(12世代Coreのラインナップが広がるまで待機)、canarino DC dueを含めて電源の更新に踏み切ったのである。

canarino DC due デュアル電源化キット

 canarino DC dueはStreacomの筐体FC9/FC5を使ったcanarinoFilsシリーズに対応するデュアル電源化モジュール。Direttaとの共同開発ということで「Diretta Contorno」のブランディングもされている。

 デュアル電源を実現するキットとして、窒化ガリウム150WファンレスACアダプターのAdapter Technology「ATS160TS-P120」(これも音質的に素性が良いものだそうだ)が2台付属するセットもある。オーディオ用PCにいよいよスイッチング電源を使うぞという気合いも込めて、今回はそちらを導入した。

 付属するガイドの通りに換装して、

 私のcanarino Filsはデュアル電源化された。

 見ての通り、canarino DC dueの入力端子は標準仕様だとあまり見かけない4pin Din端子となっている。キット付属の電源アダプターと組み合わせで使う場合は問題ないが、他の電源でも使用可能なように、4pin Dinオス-5.5-2.5φメス変換ケーブルも用意されている。

 今まで使っていたリニア電源に比べれば小さいものの、付属するATS160TS-P120はそれなりに大きく、DCケーブルは長いし硬いし、しかも2台あるし、使い勝手的にはあまり「楽になった」感じはない。……というよりむしろ設置や配線はめんどくさくなった。

 ちなみに、canarino DC dueの入力は下がメイン・上がサブとなっており、メインにだけ電源を繋いで使うことも可能(電源が一台でもPCは起動する)。

聴いてみる

 canarino Fils(Roon Core)からSFORZATO DST-LepusにDiretta接続で聴く。

 まずは今まで使っていたリニア電源――EL SOUND 12V/5Aと、キットに付属のスイッチング電源――ATS160TS-P120の比較ということで、デュアルではなくメインにだけ電源を繋いだ状態で比較してみた(リニア電源は変換ケーブルを使用)。

 EL SOUNDに比べると、ATS160TS-P120は明らかに低域の量感が減る。ただし音が痩せるという感覚はなく、むしろ中域に関しては押し出しが強まり、音楽全体のエネルギー感も増す印象だ。こうした変化はDELA S100の電源をEL SOUNDのリニア電源からiPower2に替えた時と一致する。

 リニア電源からスイッチング電源への交換で最も懸念していたS/Nや透明感といった要素は特段の変化はなく、強いて言えばわずかにEL SOUNDに軍配が上がるが、トータルでみれば「傾向は変われど絶対値の悪化はない」という、私にしてみれば安堵できる結果となった。最も恐れていたのは「やっぱりスイッチング電源のアダプターなんて使い物にならん」という結果だったからだ。

 ここでサブにもATS160TS-P120を繋ぎ、canarino DC due本来の使い方であるデュアル電源の状態で聴く。

 基本的な傾向は1台繋いだ状態と同じだが、その時に感じた中域の押し出しは幾分おとなしくなり、全体的によりすっきりとした、穏やかな印象となった。中高域にかけての透明感にも幾分改善が感じられ、EL SOUNDと比べて遜色ないものとなった。これらの変化は端的に「粗さ」が取れたとも表現できる。正直1台だけ繋いだ状態から大きな違いを感じるものではなかったにせよ、少なくとも悪い方向の変化ではない。

 繰り返すが、素性は悪くないにせよ「オーディオ用」ではない付属の電源アダプターの時点で、リニア電源と比べて「傾向は変われど絶対値の悪化はない」という結果はおおいに価値あるものだ。今後然るべき電源に新調するなりすれば、さらなる向上も見込めるだろう。
 

 今回のcanarino DC dueの導入をもって、「オーディオ用PCにスイッチング電源を使う」ことは、私の中で有効な選択肢として確立した。あとは、昨今のCPUの電力事情に対応し得る大容量で汎用的に使用可能、かつオーディオ用の高品質なスイッチング電源が続々と登場することを願うばかりである。
 
 

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