ネットワークオーディオを理解・説明するための普遍的な方法として私が考え出した、「ネットワークオーディオの三要素」という概念。
その中の「再生機能」を長らく【プレーヤー】と呼んできたが、昨今色々と思うところがあり、【レンダラー】に呼び方を変えることにした。
なお、変更するのはあくまでも呼び方だけであって、それが意味するところの役割や機能はまったく変わっていない。
なぜ今まで【プレーヤー】と呼んできたのか
以前から書いてきた内容を整理&統合する形で「ネットワークオーディオの三要素」という概念を対外的に発表したのは2015年、その時点で「音源の再生」という役割/機能を【プレーヤー】と呼んだが、これはそれまでに【プレーヤー】と【レンダラー】のどちらで呼ぶべきか猛烈に悩んだ結果である。【サーバー】と【コントロール】という呼称は悩む間もなく一瞬で決まったけど。
結果的に「レンダラー」を選ばなかったのは、オーディオの世界において馴染みのない言葉を使いたくなかったから。これに尽きる。
一応「レンダラー」という言葉自体は、DLNAのデバイスクラスである「DMR: Digital Media Renderer」といった形で、オーディオの文脈に登場してはいた。が、DLNAのデバイスクラスをきちんと把握している人間がオーディオ業界にいったい何人いるんだ、という話にもなる。なお、私が呼称の候補として考えた【レンダラー】とはあくまでも「再生機能」の呼び方であって、DLNAにおけるDMRそのものを指す言葉ではない。
というわけで、アナログ出力を持つ再生機器という「製品ジャンル」としての「プレーヤー」と呼び方が被ることを承知のうえで、それでもまるで馴染みのない言葉を使ってオーディオファンを混乱させるよりはマシだろうとの思いから、あえて【プレーヤー】と呼ぶことにした。
そしてもちろん、このような方針を決めたからには、製品ジャンル/オーディオ機器としての「プレーヤー」と、機能としての【プレーヤー】は別物ですよ、という話はあらゆる場面でし続けてきたつもりである。
なぜ今になって【レンダラー】と呼ぶことにしたのか
まず、2010年代後半から「製品ジャンル」として「ネットワークトランスポート」が急激に盛り上がったこと。その結果、「この製品はネットワークトランスポートです。ただし、機能としては【プレーヤー】です」という説明をする機会が増えた。これが問題になる。
(DACを搭載して)アナログ出力を持つ再生機器は伝統的に「プレーヤー」と呼ばれる一方、(DACを搭載せず)デジタル出力に特化した再生機器は伝統的に「トランスポート」と呼ばれる。
つまり、アナログ出力を持たない「ネットワークトランスポート」を説明する際にプレーヤーという言葉が登場すると、経験豊富なオーディオファンほど真っ先に「アナログ出力を持つ再生機器」を思い浮かべてしまい、「トランスポートなのにプレーヤー???」と混乱が生じてしまう。そして、名称に対する既存のイメージが強固なために「製品ジャンルと機能は別物ですよ」と説明してもなかなか理解に繋がらない。
こうなる可能性も当然2015年時点で把握していたものの、当時はネットワークトランスポートという製品ジャンルがまだまだ希薄だった時期であり、正直そこまで問題になるかな? という認識でしかなかった。とにかく、既に織り込み済みだった言葉の重複とはまた別に、「プレーヤー」という呼び方に起因するわかりにくさが出てきてしまったのはよろしくない。
次に、RoonやDirettaの登場により「システムの中で再生機能を担っているものは何か」を理解することの重要性が今まで以上に高まったにもかかわらず、相変わらず業界全体の理解がちっとも深まっていないという厳しい現実がある。そのせいで、ファイル再生/ネットワークオーディオを取り巻く状況は以前にも増して混沌としている。さすがに何か手を打たないとまずい。説明する側の実感としては、【プレーヤー】という呼び方を使っていたのでは、既存のイメージに引きずられてRoonやDirettaの「LAN DAC/DDC」という概念まで理解が届かないのではないか、という懸念もある。
あと、これは自分で言うと少々悲しいのだが、現実的に呼び方を変えたところで特に誰も困らないレベルで、【プレーヤー】という呼び方(そして考え方)自体が浸透していない、ということ。つまり、幸いにして呼び方の変更で生じるであろう混乱は最小限で済み、私自身が申し訳なく思う以外の障壁がほとんどない。
ちなみに言の葉の穴やAudio Renaissanceを通じてネットワークオーディオのなんたるかをばっちり掴み、【プレーヤー】が意味するところの役割や機能をきちんと理解できている人は、呼び方を変えたくらいで混乱するようなレベルではないので大丈夫である。大切なのは呼称それ自体ではなく、それが示す役割/機能であることは常に伝えてきた。
こうなるともはや、単に馴染み深いというだけでは色々と問題の出てきた【プレーヤー】という呼び方にこだわり続ける意味はない。現にうまくいっていないのだから。
となれば、馴染みのなさゆえに生じる多少の混乱を引き受けながら、【レンダラー】という新たな呼び方をもって、あらためて【それが意味する役割や機能】の理解を促進した方がずっと前向きだろう、との結論に到った。
というわけで、私は今後ネットワークオーディオの三要素における「再生機能」の呼び方を【プレーヤー】から【レンダラー】に変更する。
今まで色々と書いてきた蓄積については、時間はかかると思うが徐々に【レンダラー】表記に改めていく。なんなら、これを機にノウハウ記事を全面的にリニューアルしてもいい。
なお、Audio Renaissanceにおいて【レンダラー】という呼び方はあくまでも役割/機能に限定し、製品ジャンルやオーディオ機器の呼称として使うことはない。
具体例
Q. これは何ですか
A. ネットワークトランスポートです ←つまり「製品ジャンル」
Q. これがシステムで果たす役割は何ですか
A. 【レンダラー】です ←つまり「機能」
Q. これは何ですか
A. ネットワークプレーヤーです(とりあえず)
Q. これがシステムで果たす役割は何ですか
A. 【レンダラー】です
Q. NODEはデジタル出力でも使えますが、その時にシステムで果たす役割は何ですか
A. 【レンダラー】です ←【レンダラー】は音声出力のアナログ・デジタルを問わない
Q. これは何ですか
A. パソコンです
Q. これがシステムで果たす役割は何ですか
A. 【レンダラー】です ←厳密にはPCで動かしている再生ソフトが【レンダラー】を担う