Roonでフォルダビュー(フォルダツリー)が使えるようになった

 アーリーアクセス版での実装を経て、Roonのbuild 1401でフォルダビュー(フォルダツリー)が使えるようになった。ちなみにRoonでは「フォルダ・ブラウジング」と呼称されている。まぁ意味するところは同じである。

Hell freezes over: How folder browsing came to Roon - Roon Labs

 公式記事では今回の機能実装に関する過去からの展開や、実際の機能がどんなものかの紹介がされている。

And today, we’re doing something we said we’d never do – adding folder browsing to Roon.

 「Roonへのフォルダ・ブラウジングの追加という、絶対にやらないと言ったことをやる」。

 公式のさらりとした物言いではいまいち伝わってこないが、これは大変なことだ。

Roonがフォルダビューに対応するとはどういうことか 

 Roonはその始まりから、ある強固な信念を持っていた。

Roonは音楽鑑賞の未来たり得るか Roon。  日本じゃまるで話題に上らないが、みんな興味ないのだろうか。  唯一、今年の独HIGH ENDでPS Audi...

With Context & Meaning

Music isn’t files and streams. It’s the work of passionate people who compose, collaborate, and perform live. Stop looking at lists and start experiencing a multi-dimensional world of music.


 最初期から繰り返し表明されてきたように、「フォルダビューとの決別」こそ、ソフトとしてのRoonの根幹を成す。

 「音楽を単なるファイル/リストとして扱うことを良しとしない」「音楽の多面的な情報に価値を見出す」という信念こそ、Roonの強力無比なライブラリ機能の根底にあり、「音楽の海」というかつてない音楽体験を生み出すことになった。

Roonの「音楽の海」がもたらすもの いわゆるPCオーディオにせよ、いわゆるネットワークオーディオにせよ、両者の根幹には共通して、デジタル・ファイルとしての『音源』が存在す...

 この辺りは創業者のDanny Dulaiへのインタビューでも語られている。

“総合音楽鑑賞ソフト”Roonの「いま」と「これから」を、創業者とのやりとりから紐解く - Phile-web

 
 Roonのユーザーが増えるにつれて「なぜRoonにはフォルダビューがないんだ!」と文句を言うユーザーもまた増えてきた、というのはわかる。

 それに対する私の意見は一貫している。

Roonにフォルダビュー(フォルダツリー)は必要か? 「フォルダビュー」あるいは「フォルダツリー」とは、サーバーや再生ソフトのナビゲーションツリーのなかで、「フォルダ構造とファイル名をその...

 そば屋に来ておいて、なぜうどんが無いなどと文句を言うのか。私はそばもうどんも好きだが、うどんが食いたければうどん屋に行く。

 
 しかし、Roonはとうとう、「そば屋でもうどんが食いたい」と言う客、そして「うどんも出せばもっと客が来て儲かるよ」などと嘯く外野の声を受けて、フォルダビューを実装した。

 Roon Labsがハーマンに買収されたことを含め、スタートからそろそろ10年近くが経過するRoonを取り巻く状況が、スタート当初から大きく変わっていることは想像に難くない。Roonはあくまでもビジネスであり、ユーザーの希望(※)や市場競争力、新たなユーザーの獲得といった観点から、新機能としてフォルダビューを実装すること自体は理解できる。

※フォルダ掘りをしたいなら、なぜRoonを使っているんだ?

 ついでに言えば、結局のところフォルダビューが欲しい人は「Roonの流儀ではなく自分の流儀で音源掘りをしたい」わけで、とすればフォルダビューを実装するなら「タグ・ブラウジング」も同時に実装しないと片手落ちもいいところである。フォルダビューなんぞより、(自分自身で管理した)タグを使った方が遥かに柔軟に自分の流儀で音源掘りが出来るのだから。

 
 とりあえず、Roonでフォルダビューが使えるようになったところで、直接的に損をするユーザーがいるわけではない

 私はフォルダビューが追加されたところで“Roonでは”それを使うことはないし、Roonの従来のライブラリ機能がフォルダビューによって毀損するといったこともない。Roonの恩恵を存分に受けてきたユーザーは、少なくとも表面上は今までと何も変わりなく、音楽の海を巡ることができる。

 
 ただ、Roonの根幹に存在し、Roonが大切にしてきたアイデア、信念、哲学に、何らかの決定的な変化が生じたことは確かである。もしかしたら、今回の件は「タガが外れた」と言い換えていいのかもしれない。

 そしてその変化は、今後思いもよらない形で表面化することになるかもしれない。

 
 「聴くだけにとどまらない多面的な音楽の楽しみ」をもたらす「総合音楽鑑賞ソフト」として、私はRoonを心から評価し、その最初期から紹介を行ってきた。Roon Readyという仕組みを生み出したことを含め、Roonがファイル再生の分野で巨大な(巨大すぎる)存在感を発揮するまでに成長したことは、Roonに大きな価値を見出した私としても実に喜ばしいことだ。

 いまでも、私はRoonをまさに新しい世界を切り開いたソフトであると評価しているし、いちユーザーとして愛用し、日々その恩恵に浴している。

 それでも、これからは、今までよりもう少し冷静な姿勢で臨む必要がありそうだ。

実際のフォルダ・ブラウジングの様子

 まんまフォルダビューである。







 最上層からワンタッチでアクセスできるお気に入りを設定できたり、最下層のトラック・ビューでアルバムやアーティストへのリンクが提供されたり、プレイリスト(キュー)への追加/登録は今まで通りの感覚で同様に行えたりと、Roon的な要素が皆無というわけではないが、結局はかつてRoon自身が「あっそふーん」と唾棄した「音楽を単なるファイル/リストとして扱うこと」の範疇を越えるものではない。

 いくらRoonでも、フォルダビューは所詮フォルダビューである。
 
 
  
 それにしても、そば屋にうどんを出させることに成功し、味をしめた人々が次に何を要求するのかが気になる。

 今度はカレーを出せとかとんかつも食わせろとか言うのだろうか?

 そしてRoonは際限なくそういった声……「ユーザーの要望」とやらに、初めからありのままの自分を愛してくれた人々をそっちのけで応えていくのだろうか?
 
 

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