Paradigmの「Founder」シリーズは、最上位である「Persona」シリーズと、「Premier」シリーズの間に位置し、「Prestige」シリーズの後継に当たる。PersonaシリーズとPremierシリーズの価格ギャップを埋めるのはもちろん、新開発のユニットの全面的な搭載など、「これからのParadigm」を強く意識させる意欲的なシリーズとなっている。
ちなみにFounderシリーズはパラダイムの創業者であるスコット・バグビー氏が2年前に同社を再買収してから初めて導入されるシリーズとのことで、「創業者」の名を冠する当たり、気合いの入り方も格別だろう。
今回はシリーズのブックシェルフ「40B」を聴く機会を得たので、他のスピーカーとの比較も含めてレビューする。
外観・仕様
日本に導入されるカラー/仕上げはミッドナイト・チェリーとピアノ・ブラックの2色。今回の試聴機は前者で、光の具合と見る位置によって、黒に近いところから濃厚な赤まで印象が変わる。上の写真はかなり色が強く出た状態である。複雑な多面構造と光沢仕上げによって、外観からはカットされた宝石めいた印象を受ける。
背面。Paradigmのラインナップの中でも上位機だからか、Persona Bと同じくバイワイヤリング仕様になっている(PremierシリーズのブックシェルフとMonitor SE Atomはシングル仕様)。
底面には専用スタンドと固定するためのネジ穴が二つ切られているが、基本は平坦である。なお、スペック上の奥行き32cmとなっているが、これはフロントバッフルのでっぱりとスピーカー端子を含めたもので、実際の設置面の奥行きは27.5cmほど。サイズに対して重量は11.3kgとかなり重く、相当な物量が投じられていることが伺える。
コストの関係から上位のPersona Bのように純ベリリウム振動板のユニットを使うわけにはいかないものの、Founder 40Bは新開発のアルミニウム・マグネシウム・セラミックから成る「AL-MAC」ツイーター、アルミニウム・マグネシウムから成る「AL-MAG」ウーファーを搭載。そこにParadigmではおなじみの「PPA音響レンズ」、ツイーターにはリスニングエリアに音を集中させる「扁球ウェーブガイド (OSW――Oblate Spherical Waveguide)」が搭載され、技術的には新要素が目白押しとなっている。これらは今後のParadigm製品でも生かされていくものと思われる。
音質
空気録音① 女性ボーカル
空気録音② インストゥルメンタル(アコースティックギター)
Founder 40Bの価格はペアで税込385,000円と、Audio Renaissanceのレビュー環境のレギュレーションの境界線上にある製品なので、実際の音質評価はメインシステムにくわえてリビングシステムでも行った。
※おおむね単体で30万円前後の製品(システムトータルでは100万円を越えない範囲)のレビューは基本的にリビングシステムで行い、それを越える価格の製品やマニアックな製品はメインシステムで行う。40Bは製品の立ち位置的に、ぎりぎりリビングシステムの範疇にも入ると判断した。
40Bの第一印象はずばり、「色彩感豊か・鮮やか」。音楽に真摯に向き合うというよりは、純粋に聴いていて楽しいスピーカーだ。
上位機であるPersona Bの悟りを開いたかのごとき「透徹」とも、その血を継いだPremierシリーズやMonitor SE Atomの「穏やかさ」「透明感」とは一味違い、40Bで聴く音楽は「濃い」。
40Bの帯域バランスは上下にスムーズに伸びつつも中域に心地よい厚みがある。ボリューム感と弾力感のある中域と、空間を緻密に埋める情報量があいまって、「濃い」という印象に結びついているのだと考えられる。
もちろん、濃いといっても「濁っている」というわけではなく、空間は広くしっかりと透明感、立体感もあり、ボーカルでは深い奥行きを伴った表現を聴くことができる。
私自身Persona Bを持っているので、Persona Bとの比較をしてしまうのだが、やはり40BとPersona Bは方向性がけっこう違う。Persona Bは卓越した音離れの良さと立体的な空間描写によって「スピーカーが消える」だけでなく、「Persona Bで音楽を聴いている」という感覚が限りなく薄く、「音楽しか存在しない」という意味でも「スピーカーが消える」。つまり二重の意味でスピーカーが消える。それに対し40Bは、前者については余裕でクリアしているが、後者については良くも悪くもスピーカーの存在、「40Bで音楽を聴いている」という感覚がある。
もっとも、Persona BはPersonaシリーズの中でも特異な立ち位置で、Personaシリーズのトールボーイからは「音楽の聴き応え」を充実させたエンタメ的な雰囲気も感じられるので、Founderシリーズ……少なくとも40Bはその方向性を推し進めたともいえる。
一方で、音離れの良さ(Paradigmのスピーカーは基本的に能率が高く、それが寄与していると思われる)にくわえて、高域から低域にいたる繋がりの良さ、「うるさくない」耳当たりの良さといった、Paradigmのスピーカーが持つ数々の美点は40Bも同様に備えている。
価格帯的に近く、40Bと直接的な競合になると思われるB&W 706S2との比較では(本当なら705S2と比べるべきなのだろうが)、精緻な描写によってHi-Fiを追求する706S2と、音楽を聴いた際の充実感に溢れる40Bという印象。ぱっと聴けば空間の見通しの良さという点では706S2に軍配が上がるが、情報量の豊かさ、良い意味で「空間に音がいっぱい詰まっている」という点では40Bが優れている。
ところかわってリビングシステムでの試聴では、40Bはあらゆる要素でレベルの高い素晴らしいパフォーマンスを発揮し、繋いでいる機材のグレードがまったく違うにもかかわらず、ある意味ではメインシステム以上の満足感が得られた。音楽のディテールを曖昧にしない解像力、空間の広がりとそれを埋める豊かな情報量、周波数レンジとダイナミックレンジの広さもじゅうぶん。そしてなにより、「音楽を鮮やかに、楽しく聴かせる」という美点がさらに際立つ。
12畳程度のメインシステムでパワーを入れるより、六畳程度のリビングシステムで常識的な音量で鳴らす方が、40Bにとって適していたのかもしれない。とにかく音楽を聴いていてまったく不満を感じない。繰り返すが、素晴らしいパフォーマンスである。
映像用途では
毎度おなじみ、映画『Fury』の、主人公チームとティーガーがやり合うシーンをステレオ(2.0ch)で見る。
強い音を強いまま繰り出す音の瞬発力、鋭利な音を鋭利なまま繰り出す切れ味、明瞭なダイアローグ、微小な音も取りこぼさない描写力など、映像音響の再生においても、40Bの能力の高さはいかんなく発揮される。それでいてParadigmのスピーカーの「うるさくない」という美点は映像音響の再生においても健在であり、激しいシーンにおいても耳に対して不快感がない。
しかし、メインシステムの広さで満足し得る音量での再生では、152mmというウーファーサイズの限界か、中高音の充実に比べると低音は量・沈み込みともに今一歩物足りなさがあり、輪郭描写も危うくなる。ある程度の部屋で40Bをフロントに使い、ガチの映像音響再生に取り組もうと思えば、その時はサブウーファーが必要になるだろう。
ただしこの低音に関する問題も、場所をリビングシステムに移すとほとんど気にならなくなり、じゅうぶんに満足のいく再生音が得られた。
いずれにせよ40Bに関していえば、少なくとも単独で使うぶんには、映像ではなくあくまで音楽を楽しむことが主眼になっているという印象だ。
まとめ
Paradigmのスピーカーは奇を衒わない誠実かつ真摯な再生音によって、ともすれば「薄味」と捉えられることもあるだろうな、と思ってきたが、40Bの鮮やかな再生音はそうしたイメージを覆す。今までのParadigmのスピーカーは合わなかった、という人にも聴いてもらいたいし、スピーカーとしての絶対的な能力はさておき、「Persona BよりもFounder 40Bの方が好き」という人もきっといるだろう。
Founder 40BはParadigmが到達した新たな地平を提示する、「目に美しく、耳に楽しいスピーカー」である。特に音楽を楽しむスピーカーとして六畳程度の部屋であってもその実力をいかんなく発揮するということは、多くのオーディオファンにとって素晴らしい魅力となる。
Founderシリーズのトールボーイはこれまた新開発のカーボン製ウーファーを搭載するので、こちらも機会があれば聴いてみたいところだ。