【レビュー】ESOTERIC N-05XD





 ESOTERICのネットワークプレーヤーについては書きたいことがいっぱいある。

ネットワークオーディオの浸透と世界的な複合機の潮流

 近年のファイル再生機器は、単純な多機能化を越えて「複合機化」が進んでいるように思う。

 音楽ストリーミングサービスが世の中に完全に浸透した現在、それらサービスへの対応、つまりネットワークオーディオの機能が強くオーディオ機器に求められるようになった。

 USB DACを中心に据えていたメーカー(中華系も含む)も続々と製品にネットワークオーディオ機能を盛り込むようになったし、今までネットワークオーディオどころかファイル再生全般と縁の無かった著名な海外ハイエンドブランドでも急激にネットワーク対応が進んでいる。音楽ソースの劇的な変化がいかにオーディオに対しても影響を及ぼしているか、よくわかるというものだ。

2021→2022 ネットワークオーディオはもはや「オーディオの未来」ではない ネットワークオーディオが今に到るまでどのような経緯を辿ってきたのか、という大まかな流れに関しては以下の対談動画でユーザー視点から語って...

 それと同時に、多機能性と省スペース性が物を言う時代の要請か、ファイル再生機器がアンプと統合される世界的な流れもあり、「アナログ/デジタル入力を備え、一台でネットワーク再生も可能なアンプ」が目に見えて製品数を増やしている。こうなるとまさに「複合機」である。これらの製品群はテレビとの組み合わせも考慮され、ARC対応のHDMIを搭載する場合もそれなりに多い。立ち位置的にはAVアンプからサラウンド関連を省いたものと言えなくもないが、一部の例外を除きあくまで本格的な2chオーディオを志向しており、価格帯もバリエーションも幅広い。

 この手の複合機で日本で手に入る製品としてはMarantz NR1200やBluesound POWERNODE、Primare I15 PRISMA MK2などがある。パワーアンプを搭載せずプリアンプまでの製品では、TEAC UD-701NやSIMAUDIO MOON 390などがある。

 元々多機能が重視される傾向にある安価な製品ばかりでなく、従来では音質追求のため単機能が喜ばれてきたハイエンドの価格帯でも、海外ブランドを中心に様々な複合機が登場している。例えばLUMIN P1、T+A SDV 3100 HV、LINN KLIMAX DSMといった製品は「アナログ/デジタル入力を備え、一台でネットワーク再生も可能なプリアンプ」であり、まさに「ハイエンド複合機」といえる。しかもこれらの3製品はいずれもHDMI入出力を搭載しており、たとえハイエンドクラスの製品であってもテレビとの連携が重要視されていることは注目に値する。

 「テレビと繋ぐオーディオなんて邪道、ピュアじゃない!」などという(ある意味で伝統的な)思考は、もはや2022年現在、広く共感を得られるものではない。

 もちろんすべてのオーディオメーカーがネットワークオーディオに対応する製品を作る必要はないし、すべての製品が複合機である必要もない。また、クオリティを突き詰めればオーディオ機器は自ずと単機能/セパレートになっていくという流れも依然として健在だ。

 それでも、高品質な複合機を一台導入して、あとはお気に入りのスピーカー(パッシブでもアクティブでも構わない)があれば、素敵なオーディオシステムが完成する――このようなスタイル、ないしスタンスは、世界中のオーディオのシーンで、確実に価格帯を問わず広がっている。

 
 ESOTERIC N-05XDは、まさにこうした流れのなかで登場した。

 「ネットワークDAC/プリ」という公式の呼称からはどこか煮え切らない印象を受けるかもしれないが、その実態は時代が求める最新の機能とオーディオ機器としての本気の内容を備えた、国内メーカーでほぼ唯一ともいえる「ハイエンド複合機」である。

ESOTERICのネットワークプレーヤーについて

 N-05XDの機能的なハイライトは「ネットワークプレーヤー」としての優れた素性である。いい機会なので、その点についても振り返り&深掘りしてみたい。

 
 ESOTERICのネットワークプレーヤー初号機「N-05」は2016年春に登場した。日本の歴史あるブランドから初めて登場したハイエンドクラスのネットワークプレーヤーということで、おおいに話題になったことを覚えている。冷静に仕様を見ればUSB入力に比べてネットワークで再生可能な音源スペックが低かったりと、煮詰めきれていない点もあるにはあったが、それはそれ。

 黎明期からネットワークオーディオの可能性を追求してきたSFORZATOと、昨年末にネットワークトランスポートをリリースしたSOULNOTEは例外として、ESOTERICを除く日本のオーディオブランドから現在にいたるまでハイエンドクラスのネットワークプレーヤーが登場していない現実を考えれば、「ネットワークオーディオもやるぞ!」という当時のESOTERICの決断がいかに重大だったかがわかる。

 初号機のN-05、フラグシップレベルの内容を詰め込んだN-01、国産ハイエンド・ネットワークトランスポートの道を拓いたN-03T、自社開発のディスクリートDACを搭載して大きな進化を遂げたN-01XD、そして時代の求めるハイエンド複合機たるN-05XDというように、ESOTERICのネットワークオーディオ製品は順調に世代と進化を重ねてきた。あれこれと理由を付けてネットワークオーディオの世界に足を踏み入れなかったメーカーに対し、いろんな意味で大きな優位性が生じていることは想像に難くない。

 ネットワークオーディオにオーディオの未来を見出し、ネットワークオーディオ・エバンジェリストなんて名乗っている私からすれば、近年のESOTERICの頑張りには心からの賛辞を贈りたい。しかも、完全にネットワークオーディオに鞍替えするわけではなく、同社の長年にわたる強みであるディスク再生へも常に全力を注いでいるあたりがまた素晴らしい。

 
 さて、ESOTERICのネットワークプレーヤーを語るうえで避けて通れないのが、採用するプラットフォームについてである。

 製品を見ればわかるとおり、ESOTERIC(あとTEACも)のネットワークプレーヤーは、N-05から一貫してLUMINのプラットフォームを採用している。この場合のプラットフォームとは、ネットワークプレーヤーの機能を実現するための、コントロール関係も含めたトータルのソリューションという意味である。ちなみに、この意味ではBluOSもまたプラットフォームである。

 こう言うと、当然のように「他社の技術を使っているのか、それってどうなんだ」という反応が出てくるだろう。オーディオメーカーたるもの1から100まで自社開発で云々とかそういうアレ。

 しかし、私に言わせれば、「LUMINのプラットフォームの採用を決めた時点でESOTERICのネットワークプレーヤーは勝ったも同然」である。ネットワークプレーヤーの完成度として世界最高峰の一角を占めるLUMINのプラットフォームを使う以上、おかしな製品になるわけがない。

 だいたい、オーディオメーカーたるもの1から100まで自社開発してナンボとか言い出したところで、ネットワークオーディオ製品でそれを実現できるメーカー/ブランドは現実的に極めて数が限られる。それに、上述した「ファイル再生全般と縁の無かった著名な海外ハイエンドブランド」が次々とネットワークオーディオに対応できているのも、蓋を開けてみれば外部のソリューションを使っているから、という理由が大きい。

 餅は餅屋。互いの強みを生かす。自社開発信仰に伴う妙な拒否反応はこの際捨ててしまおう。

 そして、ESOTERICはLUMINのプラットフォームを使っているが、「そのまま使っている」わけではない。ハードとして設計に落とし込む際にオーディオメーカーとしてのノウハウが投じられているのは当然として、コントロールアプリ「ESOTERIC Sound Stream」もLUMIN Appの単なるクローンではなく、使い勝手の向上のために(僅かではあるが)手が加えられている。

 使えるものを上手に使いつつメーカーの意思を込め、製品としてさらなるクオリティを目指す。これはオーディオ機器を作り上げるうえで至極真っ当な姿勢ではないのか。後ろ向きになる必要がどこにある。

 というわけで、ESOTERICは胸を張って「ネットワークプレーヤーを作るうえで優れたプラットフォームを採用しました」と言えばいい。完全な自社開発にこだわった挙句まるで使い物にならないシステムが出来上がり、しかもそれに縛られ続けるような事態になるより遥かに良いのだから。

製品仕様

 
 なぜ「LUMINのプラットフォームの採用を決めた時点でESOTERICのネットワークプレーヤーは勝ったも同然」と言ったのか、これを見ればよくわかるだろう。こんにち期待されるAmazon Musicに対応しないのが残念という一点を除けば、ネットワークプレーヤーとしての仕様は完璧と言っていい。

 あとは、ホームシアターバイパス(AVスルーとかスルーアウト出力とか呼び方は色々)が可能なこともポイントが高い。オーディオとホームシアターの両方に真剣に取り組む人もにっこりだ。ESOTERICの製品企画は実によくわかっていらっしゃる。

外観・筐体

 オーディオ機器としての作り込みはさすがESOTERICといったところで、筐体の剛性感、モノとしての存在感、ボリュームを含む操作のフィーリングなど、いずれも素晴らしく高いレベルでまとまっている。インシュレーターとしてこだわって作られた脚部は前2・後1の三点支持で、設置でガタが生じないのも良い。


 付属するリモコンすらごつい。リモコンは裏表にボタンがついた、ひとつで様々な機器に対応するタイプである。

 フロントディスプレイはくっきりとして見やすく、おそらく誰もが気になるであろう「きちんと音源を再生できているのだろうか?」という懸念にもしっかりと応えられる。

運用

 繰り返しになるが、N-05XDは複合機である。優秀なネットワークプレーヤーであり、ディスクリートDACを搭載する単体D/Aコンバーターであり、本格的なアナログプリアンプですらある。

製品ページより引用

 とはいえ、さすがに本機を純粋なアナログプリアンプとして使うケースは少ないと思うので、もっぱら「ネットワークプレーヤー or USB DAC + プリアンプ」という使い方になるだろう。

 
 ネットワークプレーヤーとしての完成度は純正アプリ「ESOTERIC Sound Stream」と合わせて盤石である。動作も超安定している。

 アプリからボリューム調整も行える。スライド操作で一気に上げることも可能なので、爆音事故が起きないようにだけ注意しよう。

 アプリから設定できる項目は少なめで、これ以外の設定(アップサンプリングやらアナログ出力の固定・可変やら)は本体操作で行う。

 Roon Readyにもしっかりと対応。

 本機はまごうことなき高級機ながら、Spotify Connectにも対応する。現状Spotifyはロッシーで某アーティストにクソ呼ばわりされる有様だが、Spotify HiFiが始まればSpotify Connectの意味も変わるはず。

 
 最近ではずいぶん影が薄くなってしまった感のあるBulk Petにも対応しており、USB DACとしても最大限の実力を発揮できるように仕上げられている。

音質

 N-05XDの価格は税込825,000円。メインシステムでの無差別級評価の対象である。

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 N-05XDが担える範囲を、私のシステムと重ねてみる。

 うむ。わかってはいたがこれはなかなか。

 まずはN-05XDで最も使用機会が多いと思われる、純粋なネットワークプレーヤーとして使って聴いた。私が使っている【DST-Lepus + DSC-Dorado(ZERO LINK接続) + PMC-Pyxis】というSFORZATOセットとの比較である。

 N-05XDは全体的に厚みがあり、エネルギー感を伴ってしっかりと前に出てくる音。これは中域楽器やボーカルで顕著に感じられる。昨年公開のめちゃ面白映画『コンティニュー』のオープニングで印象的な使われ方をしたBoston「Foreplay / Long Time」では、上下にレンジが伸びた清々しいインストゥルメンタルパートが聴けるし、中盤のギターの爽快感、ボーカルが入ってからのテンションの高さも素晴らしい。映画の愉快な光景を思い出して小躍りしたくなる。翻ってヒラリー・ハーンの「バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番ホ長調」では、バイオリンの繊細な切れ味と透明感を存分に聴かせ、ダイナミックレンジの広さも申し分ない。「オーディオ的・音楽的な聴き応え」という点で、N-05XDは実に満足度が高い。

 それに対してSFORZATOセットは、端的に言えば「すっきりしなやか高解像度」。空間の広さ、透明感、奥行きの深さ、ディテール描写といった要素ではSFORZATOセットが強さを見せつける。もちろんN-05XDがこれらの要素に欠けているわけでは決してなく、あくまで比較すれば、の話である。

 諸々の要素を細かく比べていけば当然ながら差は出てくるものの、N-05XDも情報量の豊かさや音の立ち方という点で劣らず、「SFORZATOセットから音が落ちてしまった……」という落胆の感情に襲われることはない。趣味の世界、しかもハイエンドの領域でこういう表現を使うのは相応しくないと承知のうえであえて使うが、N-05XDの「価格に対する音質」は傑出している。純粋なネットワークプレーヤーとして素晴らしいパフォーマンスである。

 実は、2020年の年始に登場して間もないN-01XDを自宅で聴いたことがある。

 その際は、ESOTERICのフラグシップ・ネットワークプレーヤーゆえに投じられた物量の為せる業か、分厚い中低域と情報量がぎっしりと詰まって深々とした空間表現に圧倒された記憶がある。当時からメインシステムも色々と変わっているので単純な比較はできないが、その時の印象と比べると、N-05XDの音はずっと新鮮、筋肉質で、若々しく感じる。Master Sound Discrete DACの扱いがだいぶ熟れた結果か、それともこれがESOTERICの提示する新世代の音なのか、とにかく私はN-05XDの音の方が好きだ。

 canarino FilsのUSB出力を使い、SFORZATOセットを「DST-LepusにUSBで入力/ZERO LINK接続のUSB DAC」として使った状態と、N-05XDのUSB入力(Bulk Pet 1設定)でも比較を行ったが、ここでもN-05XDは大健闘だった。ネットワークプレーヤー使用時に感じたN-05XDの音質的な美点は、USB DAC使用時も損なわれることはなかった。

 「ネットワークプレーヤーとUSB DAC、どっちで使えばいいんだ、どっちで使うのが高音質なんだ」と悩む必要はない。「素晴らしいネットワークプレーヤーであり、USB DACとしても存分に実力を発揮する」、それがN-05XDである。

 ここでさらに、N-05XDのプリアンプも有効にし、MOON 860A v2に直結した。SFORZATOセットにくわえて、MOON 740Pの役割まで担ってしまおうという構成である。トータルの価格差は実に約4倍となる。

 確かに、クオリティの差はある。特にディテール描写と空間表現、さらに「音の浸透力」という点で、740Pの実力も再確認した。しかし、やはりここでもN-05XDのプリアンプ込みの音は大きく劣るわけではなく、音楽をエネルギッシュに聴かせるという美点がよりストレートに伝わるといった魅力もある。音楽再生の操作からボリューム調整がすべてアプリから行えるというのも、ユーザビリティの面で立派な魅力といえる。

 
 価格差的に極めてシビアな比較を経て、結果的にN-05XDはネットワークプレーヤーとしても、USB DACとしても、プリアンプとしても高い実力を証明することになった。

 少なくともN-05XDを実際に使ってみて、「やっぱり複合機だから個々の要素でみるとクオリティは落ちるなぁ」といったマイナスの感情を抱くことはなかった。複合機としての利便性は言うまでもなく、純粋な音質にも感心した。

 正直に言うと、箱をいっぱい使っている身としては少々面食らってしまった。この価格で、複合機で、これほどのクオリティを出せるのかと……

 
 なお、間違いなくN-05XDの魅力のひとつでもあるヘッドホン出力に関しては、この価格帯のヘッドホンアンプについて説得力のある物言いができるほど私にはヘッドホンに関する経験も情熱も機材もないので、触れないでおく。ご了承願いたい。

まとめ

 N-05XDはESOTERICがネットワークオーディオへの真摯な取り組みを続けてきた証であり、同社の技術の結晶たるディスクリートDACを搭載する最新鋭の単体D/Aコンバーターであり、時代の要請に機能と体験と純然たるクオリティでもって真に応えるハイエンド複合機である。

 複合機はクオリティを追求する、特にハイエンドのオーディオ機器として相応しいものなのか、という議論もあるだろう。しかし、無限の資金力を持ち合わせているわけではない現実のオーディオファンにしてみれば、資金の分配を考えるうえで、複合機は確かな意味を持つ。特にスピーカーが再生音に占める割合を踏まえれば、「パワーアンプより上流」を上質な複合機に任せて、パワーアンプとスピーカーに全力で資金を投じる、という選択肢だって当然あるはずである。

 そんな時こそ、N-05XDはますます輝く。

 
 私のシステムはいまやファイル再生からプリアンプにいたるまで、著しくセパレート化が進んでしまった。

 これはあくまで出来る範囲でクオリティを追求した結果であり、後悔はしていない。

 しかし、もしも。

 システムが上の状態だったタイミングでN-05XDが登場していたら、私は次の一手として間違いなくN-05XDを買っていただろう
 
 

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