【レビュー・空気録音あり】Paradigm Monitor SE 3000F

 
 Monitor SEシリーズはParadigmのエントリークラスのシリーズであり、日本にはブックシェルフの「Monitor SE Atom」が先行して導入されていた。

 このMonitor SE Atomはとてつもなく良くできたモデルで、「5万円で手に入るスピーカー」としては、私が今まで出会ったなかで最高のスピーカーだと思っている。

【動画レビュー】Paradigm Monitor SE Atomhttps://youtu.be/_UlDOWbshtw  ペア5万円のスピーカー。  これはオーディオの趣味をやってい...

 とにかく末弟のAtomのパフォーマンスが素晴らしいので、シリーズ全体の日本導入もおおいに期待していたところ、めでたくそれが叶った。

 今回レビューするMonitor SE 3000Fはシリーズのトールボーイとしては最も小型のモデルで、価格は11万円(税込)。Monitor SE Atomが私の手元にあるため、3000FとAtomの比較を重点的にしていきたい。

外観・仕様


 Monitor SE 3000Fのサイズは23×28×100.4cm、重量は15.8kg。Atomのサイズは18×27cmなので、ほぼAtomをそのまま縦に引き伸ばしたサイズ感となっている。脚部を除くスピーカー部分の横幅は両機とも同じ。背の高さもそれなりにあり、比較的リーズナブルなトールボーイとしてはなかなかに存在感のあるたたずまいである。

 仕上げはグロスホワイト・マットブラックの二色。製品の価格帯的にどちらも凝った仕上げではないが、それが気になるほどでもない。個人的には廉価な家具めいた質感のマットブラックよりは、グロスホワイトの方に高級感を感じる。

 脚部にはM6サイズのネジ穴が用意されている。スパイクと、スパイクを使わない場合用のゴムパッドが付属する。可能であればスパイクとスパイク受けを使って設置しよう。

 ちなみに私は純粋に「楽」という理由でsoundcareの一体型スパイク「SS6」を使用している。

 リアバスレフで、スピーカー端子はシングルワイヤリング仕様。

 3ウェイ・4ユニット構成で、ツイーターには同社ならではのPPAレンズ込みの25mmアルミドームを搭載。ミッドレンジ/ウーファーには140mmミネラル充填ポリプロピレンコーンを搭載。

 全体的にはブックシェルフであるMonitor SE Atomのユニット構成に、ウーファーを2個追加したイメージ。スペック的には順当に低域が伸びているほか、能率も上がっている。

音質

 本機のテストはリビングシステムで行っている。

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 3000Fの音を一言で言えば、「上にも下にもレンジの伸びたAtom」である。

 スピーカーに貼り付くことなく軽やかに広がる再生音、そしてなにより「うるさくない」というAtomの特筆すべき美点を3000Fも同様に備えている。鋭い音、硬い音はそのまましっかりと描きつつ、歪みっぽく耳に痛いところがないので、とにかく聴いていて疲れない。実際に3000Fで音を出しつつ一日中ゲーム……もっぱら『Ghost of Tsushima』をプレイしたりもしたが、聴き疲れはまったくと言っていいほど感じなかった。

 高域の伸びという点では、わずかながら3000Fに優位性を感じる。これにより前述の「うるさくない」という美点は堅持したまま、高音楽器の煌びやかさ、金属的な効果音の描写がリアリティを増している。

 3000FとAtomの仕様をよくよく見てみると、ツイーターとミッドレンジのクロスオーバー周波数が異なる。具体的には3000Fが3kHzで、Atomが2.3kHz。ユニット構成の関係で3000Fはツイーターの負担が減り、結果的に高域の伸びとして感じられるのだと思われる。

 3000Fは箱が大きくなり、ウーファーも2個追加されたことで、低域は沈み込みと量感の両方でAtomを大きく上回る。量感については最初「出すぎる」と感じるほどだったが、しばらく鳴らしていると引き締まる方向で落ち着いていった。トールボーイを導入する人は少なからず低域の豊かさを求めていると思われるが、6畳+α程度の空間なら低音の量感を懸念する必要はなさそうだ。

 ちなみにレビューに使った試聴機はまったくの新品とのことで、最初の印象はそれが原因と思われる。

 全体として情報量は豊富で、空間の立体感もよく出る。ユニットが増えた結果定位が曖昧になるといった弊害も特に感じない。その一方で、相対的に低音の量が多く、音が空間を満たす感覚が強いため、6畳程度の空間で使うぶんには「ストレスのない音の広がり」という感覚はAtomよりも薄れる。

 映像再生においては、Atomとの差が音楽以上に顕著に表れる。

 UHD BDの『モンスターハンター』では、ディアブロス亜種との遭遇戦やリオレウスとの決戦時のスケール感や効果音の威力で一線を画す満足感が得られる。『ボヘミアン・ラプソディ』のクライマックスのライブシーンでは、中低域が充実するおかげで、演奏のテンションがかなり違って感じられる。そのうえで「うるさくない」という印象も健在で、長時間の映像視聴も苦にならない。

 なお、映像再生時はアンプをヤマハのプリメインアンプ「A-S801」からAVアンプ「RX-V4A」に繋ぎ替えている。RX-V4AはエントリークラスのAVアンプだが、3000Fの美点である音離れの良さや、スムーズな出音は健在だった。本機はアンプに優しい、鳴らしやすいスピーカーだと言っていい。

3000Fか、Atomか――「スピーカースタンド」という問題

 ブックシェルフのいいところは、テレビラックやらサイドボードやらPCデスクやらにそのまま置けること、すなわち設置の汎用性が高いことだ。また、基本的に同シリーズのトールボーイに比べて価格も安い。しかし、スピーカースタンドの存在に目を向けると、話は変わってくる。

 安い価格帯のスピーカーになればなるほど、スピーカースタンドの価格が問題になる。ブックシェルフとスタンドのトータルで、同シリーズのトールボーイの価格を越えてしまう、なんて場合も往々にしてある。こうなると単純に「安いからブックシェルフを選ぶ」ことはできなくなり、「あえてブックシェルフを選ぶ」理由が必要になる。

 それでは、Atomと3000Fではどうだろうか。

 
 まず、Atomは55,000円、3000Fは110,000円。スピーカーだけなら価格差は倍だ。

 しかし、家具に直置きするのでなければ、ブックシェルフの導入はスタンドとセットで考える必要がある。つまり現実的に多くの場合で、Atomにはスタンドが要る。

 安価なスピーカースタンドであれば、おおむね数千円から1万円程度で手に入る。安価なスタンドであっても、選択さえ間違わなければ、耐荷重や設置の安定感など、実用上の問題は生じない。

 例えば、私はなるべくブックシェルフを高い位置に置きたい人なので、ちょいと高いHAMILeX SB-967を使っている。これでもAtomと組み合わせて6万円そこそこで済み、まだ3000Fに対して価格的な優位はある。

 ただ、スピーカースタンドとは困ったもので、再生音にかなり大きな、決して無視できない影響を与える。これが高級/高額なスピーカースタンドが存在する理由でもある。

 例えば、私は汎用スピーカースタンドとして、リビングシステムでTiGLONのTIS-70J を使っている。シンプルかつ高性能なスタンドであり、実際にAtomと組み合わせても、SB-967とTIS-70Jでは再生音のレベルがまるで違ってくる。

 Atomをはじめ、ブックシェルフの実力をしっかり引き出すためには、やはりTIS-70Jクラスのスタンドを使いたいというのが正直なところだ。そして先述の音質比較も、AtomはあくまでTIS-70Jと組み合わせた状態で行っている。

 で、問題は価格。TIS-70Jの価格は52,800円であり、Atomと組み合わせれば3000Fの価格とほぼ同じになってしまう。より高額な価格帯のスピーカーシリーズになればこういう事態はあまり起こらなくなるが、Monitor SEくらいのシリーズでは由々しき問題である。

 
 結局のところ、スピーカー単体の価格だけを見て「Atomの方が安い!」と思っても、設置も含めてきちんと実力を発揮させようと思えば、3000FとAtomの価格差はほとんど存在しないと考えていい。

 なので、あとは純粋に、「どんなコンテンツを楽しみたいのか」で決めればいい。音楽と映像で比重が後者にあるなら、その時は断然3000Fがいい。Atomに下手なサブウーファーを追加するよりも3000Fを使う方がずっと楽。音楽メインなら、好きなジャンル次第といったところだ。

まとめ

 音質評価で述べたように、3000Fは「うるさくない」という印象も含めてAtomの音を極めて忠実になぞっており、異質な音という感覚はまるでない。中低域の充実といった違いはあるにせよ、この「近似」は驚異である。Atomの音が気に入った人であれば間違いなく3000Fの音も気に入るし、逆もまた然り。

 そのうえで、3000Fはトールボーイならではのレンジ感と低域の豊かさがあり、より広い音楽ジャンル、映像を含むより多くのコンテンツに適応する。スタンドのことを考えずに済む、サブウーファーがなくても低音の量感にまず不満を感じないという点で、使いやすさにおいてはAtomを上回る。

 Atomはブックシェルフゆえの高い設置の自由度がある。音的には相対的に低音が少ないぶん、ストレスのない音の広がりにおいては3000Fを上回る。低音が少ないといっても普通に音楽を聴くぶんには必要十分であり、特に歌ものを聴く際のバランスの良さは傑出している。

 とにかく3000Fはまっとうなトールボーイスピーカーである。同価格帯のスピーカーにありがちな「個性で一点突破」を意図せず、奇を衒うことなく基礎性能を高め、誠実にHi-Fiスピーカーとしての王道を貫く。ある意味で突出した点がないぶん穴もなく、音楽を聴いても映像を見ても物足りなく感じるところがない。この優れたバランスこそが最大の魅力といえる。

 ペア11万円という価格は世間の大多数の人から見ればぎょっとする金額であることは確かだ。しかし、いわゆる「安価なスピーカー」の一線を越えて、「趣味のオーディオの真価」を味わわせてくれるスピーカーとして考えれば、満足度は非常に高い。

 Monitor SE Atomが「これからオーディオを始める人」に対して心からすすめられるブックシェルフであるように、Monitor SE 3000Fもまた、「初めてのトールボーイスピーカー」として素晴らしい選択肢である。

 
 というわけで、Audio Renaissanceはリビングシステム用の「トールボーイのリファレンス」として、Monitor SE 3000Fを導入した。
 
 

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