ネットワークオーディオのソリューション「ITF-NET AUDIO」がAmazon Music対応を予告すると同時に、スフォルツァートから発表されたコンパクトなネットワークトランスポート「DST-Lacerta」。ちなみにラケルタとは「とかげ座」を指す。
DST-LacertaはSFORZATOのネットワークオーディオ製品としてはかつてない価格設定であり、さらにAmazon Music対応を含めて機能的には上級機とほとんど遜色ないということで、おおいに登場が期待された製品だった。
実際にはAmazon Music対応に向けて深い深い密林を踏破する必要があり、結果的に当初の予定から大幅に遅れる形とはなってしまったが、ついにDST-Lacertaは発売を迎えた。
はたしてその実態はいかに。
目次
仕様・機能
製品サイトを見ると、「USBブリッジ」「RJ45 LAN入力、USB出力のDDコンバーター」といういささか首を傾げる書き方がされているが、DST-Lacertaが主として果たす役割は【レンダラー】であり、要はUSB出力搭載の「ネットワークトランスポート」である。
そのうえで、上の表からわかる通り、DST-LacertaはZERO LINKといった一部を除いて基本的な機能は上級機と同一である(というより、「同一のプラットフォームを搭載する」とはつまりこういうことである)。
こんにちのネットワークプレーヤー/トランスポートの仕様・機能はかなり成熟の様相を呈しているが、そんななかで「Amazon Musicに対応」、つまり「ネットワークプレーヤー/トランスポートで直接Amazon Musicを再生できる」という点が、他社製品に対するDST-Lacertaの特徴と言える。特にハイエンドなクラスでAmazon Musicに対応する製品は未だにごく少数であり、ITF-NET AUDIO採用製品がAmazon Music対応を果たした意義は大きい。
外観
DST-Lacertaは非常にコンパクトである。
とはいえ、アルミのフロントパネルと金属筐体は、しっかりと「オーディオ機器」を感じさせるに足る。
SFORZATOの上級機と異なりフロントパネルにディスプレイや操作ボタンの類は一切なく、それだけに最も「ネットワークオーディオの本質」を体現するデザインとなっている。
ただ、外部電源仕様ということもありとても軽い。使用するケーブルや配線次第で簡単に本体が動いてしまうため要注意。
背面にはLAN入力とUSB出力(向かって右側はアップデート用)、そしてアップデートの際に用いるレトロな雰囲気の緑スイッチがある。
底面。フロント側に電源インジケーター。電源スイッチの類はなく、アダプターを繋ぐと電源がオンになりインジケーターが点灯する。
DST-Lacertaの足はいわゆる「ソフトスパイク」で、三点支持と点接触の併用で安定した設置が可能。通常のスパイクと異なりスパイク受けも不要。私としてはソフトスパイクがもっと流行ってほしい。
付属の電源アダプター。仕様は5V4A。DST-Lacertaは外部電源仕様なので、自己責任の範疇で別の電源を使うこともできる。
運用
DST-LacertaはUPnPベースかつOpenHome/DLNAの両方に対応するので、様々なコントロールアプリで操作可能。
が、ITF-NET AUDIOの仕様として、各種音楽ストリーミングサービスへのアクセスは専用コントロールアプリ「Taktina」を使う必要があるため、ここは素直にTaktinaを使おう。
DST-LacertaとTaktinaの組み合わせのレスポンスは極めて優秀であり、ローカルの音源の再生では音が出るまで有意なタイムラグゼロのレベルで速く、TIDALの音源を再生する際は順当に速く、Amazon Musicの音源を再生する際も「遅い」ことに定評があるAmazon Musicの枠内では速い。きっとQobuzも速いはず。
下の動画は三種類のネットワークプレーヤーでAmazon Musicのレスポンスを比較したもの。
音質
DST-Lacertaの基本は「UPnPベースのネットワークトランスポート」であるものの、Diretta Targetとしても使用可能だったり、様々な活用が考えられる。今回は実際に様々なケースを通じてDST-Lacertaの音質評価を行った。
本機の149,600円という価格を踏まえると、繋ぐDACもそれなりのレベルになり、当然ながらアンプも、スピーカーもそれなりのレベルになる。
というわけで、再生環境はリビングシステムのレギュレーション上限(システムトータル100万円くらい)とし、USB DACにiFi audio NEO iDSD、プリメインアンプにNmode X-PM9、スピーカーにDynaudio Emit20を使用した。
今回はせっかくなので、試聴には基本的にAmazon Musicの音源を使う方針とした。
なお、試聴では様々な曲を聴いているが、空気録音に使用する音源は、私自身が原盤権を保有して権利関係がクリアされているKOKIA『白いノートブック』に統一している。
純粋にネットワークトランスポートとして
まずはDST-Lacertaのネットワークトランスポートとしての再生品質を評価すべく、Amazon Musicに対応するエントリークラスのネットワークプレーヤーであるWiiM Pro、Bluesound NODE (2021)との比較を行った。この二製品はDACを搭載しているがデジタル出力も可能で、今回はそれを使ってトランスポートとしてNEO iDSDに繋ぐ形である。WiiM Proは同軸デジタル、NODEはUSB出力を使用した。
WiiM Proとの比較では、文字通りクラスやグレードが完全に違う。今回メインの音源として使ったPapa Grows Funk『Slinky Snake』やNils Lofgrenのライブアルバムから『Bass & Drum Intro』では、音の広がり、密度、ダイナミックレンジ、音像の切れ味といった点でまさに隔絶しており、DST-Lacertaに比べるとWiiM Proは「狭すぎ&薄すぎ」と感じてしまう。
WiiM Proは2万円弱で手に入る製品であり、直接的な比較対象としては少々アンフェアなのは承知している。しかし、(比較的)廉価な価格帯にあってもトランスポートの音質差は厳然と存在すること、単に「Amazon Musicが聴ける」という点にのみ価値があるわけではないということは確かであり、それを再確認する結果となった。幸いにしてDST-LacertaはAmazon Musicの再生に関してもレスポンスが優秀なので、「WiiM ProでAmazon Musicを使い始めた人」の乗り換え先としてばっちりである。
NODEとの比較でも、さすがに差は縮まるもののDST-Lacertaの優位性は揺るがない。「音が大きく感じる」レベルで音楽全体の情報量が増大し、Audio RenaissanceのリファレンスであるKOKIA『白いノートブック』では、ボーカルをはじめとする音の粒立ちの良化が顕著であり、左右の広がりや解像感でも上回る。
トータルの印象として、DST-Lacertaの再生音は元気が良い。こんなにも小さくて軽い姿からはイメージできないほどに。そして「再生機能を担い、接続するDACの能力を引き出す」というトランスポートとしての価値をしっかりと感じることができる。
なお、WiiM ProにせよNODEにせよ本懐はDAC入りのプレーヤーであり、他にもDST-Lacertaにはない数多くの機能を持っているため、ネットワークトランスポートとしての比較でもって単純に製品の優劣が決まるわけではない、ということは念頭に置いてほしい。
で、次からはある種のおまけ編。
Amazon Musicの音源とローカルの音源の比較
ロスレスどころかハイレゾ音源すら音楽ストリーミングサービスで聴ける現在、わざわざNASやら何やら用意して、自前のローカル音源を聴く意義はあるのか……?
という疑問は、ネットワークとオーディオを融合させた人ならば、多かれ少なかれ誰しもが抱くものだと思う。
そこで、DST-LacertaとSoundgenic HDL-RA2HFを使い、
■直接Amazon Musicの音源を再生
■HDL-RA2HF内のファイル(=ローカルの音源)を再生
という比較を行った。
結果、Amazon Musicと比較してローカルの音源は情報量と解像感に勝る、という印象だった。とはいえ、両者の差はほとんど気にならないレベルで小さく、絶対値としてAmazon Musicの音源も立派にオーディオソースたり得るということも確認できた。
はたしてメインシステムで使っているDST-Lepusとcanarino Filsの組み合わせではどうなるだろうか?
UPnPとDirettaの比較
DST-LacertaはDiretta Targetに対応しており、Diretta Hostに対応するSoundgenicと組み合わせれば、Direttaを使った再生システムを構築できる。
そこで、DST-LacertaとHDL-RA2HFを使い、
■HDL-RA2HFを【サーバー】、DST-Lacertaを【レンダラー】として再生(一般的なUPnP再生)
■HDL-RA2HFを「Diretta Host」、DST-Lacertaを「Diretta Target」として再生(HDL-RA2HFが【サーバー】と【レンダラー】を兼ねる)
という比較を行った。
ここではNils Lofgrenの「Acoustic Live」から『Wonder land』を聴いたが、UPnP再生に対しDiretta再生ではわずかに空間が狭くなり、音がおとなしくなってボーカルも引っ込む。また僅差ながら、低域の明瞭さは明らかにUPnPが上回っている。
今までこの手の比較を行うと基本的にDiretta優位の結果ばかりだったので、この結果は私としても少々意外ではある。DST-Lacertaの【レンダラー】としての能力が高く、トータルでDirettaの恩恵を上回ったのだと考えられる。
ただ、DST-Lacertaは「Diretta USB Bridge」として機能しており、必ずしもDiretta本来の恩恵が受けられるわけではない、という点で注意が必要である。
なお、前後と表現を揃えるために項目として「UPnPとDirettaの比較」という言葉を使っているが、これは「Soundgenicとの組み合わせにおいて、DST-LacertaをUPnPの枠組みで【レンダラー】として使った場合と、Diretta Hostとして使った場合の比較」を意味する。
あくまでも「DST-Lacertaではこうでした」という個別の話であって、「UPnPとDirettaではどちらが良い」というような、仕組みそのものの音質比較をしているのではないので、要注意。
電源の比較
DST-Lacertaに適合する電源としてたまたま手元にELSOUNDのリニア電源(5V4A)があったので、付属の電源アダプターとの比較を行った。
Amazon Music音源とローカル音源の比較だのUPnPとDirettaの比較だのがたちまちどうでもよくなるレベルでめっちゃ効く。中低域、特に低域の改善が著しく、低音の沈み込みなどは付属電源アダプター使用時とは別物のようだ。それでいて静けさも如実に向上し、全方位的に良いことばかりである。
繰り返しになるが、DST-Lacertaに付属の電源アダプター以外の電源を使うのは自己責任の範疇である。それを踏まえたうえで、オーディオ的に優れた外部電源を使用する余地があるのは、「伸びしろ」としてDST-Lacertaにさらなる魅力を加えるものだと断言できる。
ついでに、DST-Lacertaはそれ自体では極めてコンパクトであり風貌は頼りないが、なにかしら外部電源をあてがってやると、途端に「ふむ」という感じの見た目になる。この点でもおすすめ。
まとめ
DST-Lacertaは機能や使い勝手においては上級機と同様に申し分なく、音質においてもエントリークラスの製品とは一線を画す確かなクオリティを有する。自己責任の範疇ながら電源を換える効果も大きく、音質をグレードアップする楽しみもある。SFORZATOのネットワークトランスポートとしては上級機として「DST-Lynx」があり、価格差も大きく同列に語れるものではないが、DST-Lacertaは自らの立ち位置で存分に価値を示す。
記事中にも書いた通り、特にハイエンドなクラスでAmazon Musicに対応するネットワークプレーヤー/トランスポートは未だにごく少数に限られる。LINNやLUMINなど、ネットワークオーディオの世界で燦然と輝くブランドさえ、Amazon Musicがロスレス/ハイレゾ配信を始めてすぐに「うちもやります」と言ったきり、まるで進展なしいうのが現実である。その点AURALiCは凄い。
そんななかで、DST-LacertaをはじめとするSFORZATO製品が――そして私が「日の丸ネットワークオーディオ」として追い続けているITF-NET AUDIOがAmazon Music対応を果たしたことは、いちオーディオファンとして実に喜ばしい。149,600円という価格設定で登場したDST-LacertaはSFORZATOにとって戦略的な製品であると同時に、ITF-NET AUDIOにとっても、その意義と価値を広く伝えるうえで大きな役割を果たすだろう。