Soundgenic HDL-RA2HF
iFi audio ZEN Stream
Bluesound NODE
これらに共通するのは、価格・機能性・得られる体験のバランスにおいて、いずれも2022年現在「ネットワークオーディオの最初の一歩」たり得る製品だということ。
もっと単純な言葉を使ってしまえば、本格的にネットワークオーディオを始めるうえで、実に「コスパが高い」製品ということになる。
しかし、これらの製品は必ずしも同じ機能を提供するものではないし、想定しているユーザー層もそれぞれ異なる。
そこでこの記事では、Soundgenic HDL-RA2HF・iFi audio ZEN Stream・Bluesound NODEの3製品について詳細な比較を行い、何が出来て何が出来ないのか、どのようなユーザーにおすすめなのか、ということについて解説する。
目次
まずは並べて比較
この時点で、一言で「ネットワークオーディオの最初の一歩」だの「コスパが高い」だの言っても、小さくない違いがあることがわかる。
Soundgenic HDL-RA2HF
Soundgenicはアイ・オー・データ機器が展開するブランドで、4モデルをラインナップしており、「HDL-RA2HF」は最廉価モデルとなる。その他、ストレージやグレードの違いで「HDL-RA3HG」「RAHF-S1」「RAHF-S2HG」の3モデルがある。機能は全モデル共通。
「オーディオ用NAS」と呼ばれることもあるが、SoundgenicはNASの範疇を完全に越えているため、あまり相応しい呼称ではない。ちなみに「ミュージックサーバー」とは、後述する「サーバー」と「プレーヤー」の機能を両方備える機器に対する、主に海外で使用される製品ジャンルである。私も使っている。
パッと比較表を見ただけでは×が多くて少々アレなのだが、実際のところ、HDL-RA2HFは今回の3製品の中で最も安く、それでいて熱心なオーディオファン向けの機能を満載した、極めて充実した内容の製品である。これはSoundgenicの備える機能が上位ブランド「fidata」からほぼそのまま継承されていることによる。
HDL-RA2HFをはじめ、Soundgenic/fidataの製品の本懐は「サーバー」である。つまり、ネットワークプレーヤーなりネットワークトランスポートを別に用意して、それに対して音源データを送り出すというのが、HDL-RA2HFの本来の役目となる。よって、3製品で唯一サーバーとして使用可能であり、ライブラリ機能にくわえて、音源を管理するための機能もかなり充実している。UPnP/DLNAサーバーとして使わずに、純粋にNASとして使うこともできる。
また、HDL-RA2HFは充実した機能を備えるネットワークトランスポートでもある。PCM 768kHz/32bit・DSD512の音源を再生可能というのは3製品随一の仕様であり、こんにちのファイル再生の上限値を易々とクリアする。プレーヤー機能はOpenHomeに対応しているため、音楽再生機器として真っ当であることも保証されている。
Diretta Hostにまで対応するのは間違いなく凄いと言えば凄いのだが、さすがに本機の価格帯だと活用する機会はほとんどないと思われる。
さらに、fidata/Soundgenic共用の純正アプリ「fidata Music App」は、音楽を快適に聴くためのインターフェース/デザインについて良き先例をしっかりと踏まえた、完成度の高いコントロールアプリに仕上がっている。
つまりHDL-RA2HFは、この価格で、ネットワークオーディオの三要素たる「サーバー」「プレーヤー」「コントロール」を、純正アプリも含めて1台で、しかも高いレベルで実現するという、驚嘆すべき製品といえる。三要素が全部揃い、USB DACがあればシステムが完成するのでネットワークオーディオ初心者にも優しい。Soundgenicが登場してから丸4年が経つが、その魅力はまったく減じていない。
もちろん、比較することで見えてくる欠点もある。
真っ先に挙げられるのは、Spotify(Spotify Connect)を除いて音楽ストリーミングサービスに対応しないことだろう。もっとも、fidata/Soundgenicの「自分の音源ライブラリをしっかりと管理運用する」というコンセプトからすれば、あれもこれもとストリーミングサービスに対応していくと、自らの立ち位置を見失うことにも繋がるので難しい。
「自分の手持ちの音源を聴く」ことに関して、Soundgenicのネットワークトランスポートとしての仕様は盤石。一方でその機能に特化していることもまた確かで、音楽ストリーミングサービスが完全に一般化した2022年における「ネットワークオーディオの最初の一歩」としては、そこがネックとなり得る。Spotify HiFiが始まれば(いつ始まるんだ?)本機のSpotify Connect対応が真価を発揮するので、また事情は変わってくる。
ただし、後にネットワークトランスポートやネットワークプレーヤーを導入したとしても、HDL-RA2HFは価値を失わない。相手がUSB DACなら自らネットワークトランスポートとなって音源の再生まで担い、相手がネットワークプレーヤー/ネットワークトランスポートなら本来のサーバーとしての役割に徹するだけ。それこそ、ZEN StreamやNODEをフルに活用するためにHDL-RA2HFを導入する、というのもおおいにアリだ。
まとめると、Soundgenic HDL-RA2HFは、
■既にUSB DACを持っている、あるいは導入する予定がある
■自分の音源ライブラリを構築していて、PCレスでそれをしっかり聴きたい
■CD資産を活用したい
■なるべく初期投資を抑えつつネットワークオーディオの精髄を味わいたい
■システムの将来的な方向性がまだはっきりしない
という人におすすめだ。
逆に、ほとんど音源を所有していない、将来的にライブラリを構築する気もない、ストリーミングサービスでしか音楽を聴かないという人は、あえて本機を選ぶ必要はない。
iFi audio ZEN Stream
ZEN Streamは今までUSB関連製品を中心にリリースしてきたiFi audioが、満を持して投入したネットワークトランスポートである。
iFi audioが使っている「ストリーマー」という呼称は、手持ちの音源の再生だけでなく世界的に浸透した音楽ストリーミングサービスの受け皿として本機を活用してほしい、という意識の表れといえる。
3製品のなかで最も小型ながら、最も熱心なオーディオファン向けの内容となっており、音質を追求すべくiFi audioが培ってきた各種技術が投入されている。HQPlayer NAA対応といったマニアックな機能や、排他モードに代表されるストイックな仕様も備える。
DACを搭載しないトランスポートであるため組み合わせるDACは自由。PCM 384kHz/32bit・DSD256の再生に対応し、ハイスペックな音源を聴きたいオーディオファンにも対応できる。
ZEN StreamはVolumioベースのプラットフォームを採用するとはいえ、OpenHome対応のプレーヤーとしての使用が基本となる。一応ライブラリ機能も備えているが、おまけレベルに過ぎず実用に耐えないので、手持ちの音源をしっかり聴くためには別途サーバーが必要になる。
現時点では純正アプリは用意されておらず、「独自のアプリをまもなくリリース予定!」とアナウンスされている。アプリの完成度がどうなるかは未知数ながら、純正組み合わせによるさらなるユーザビリティの向上に期待したい。
音楽ストリーミングサービスは色々と対応しているものの万能とまではいかず、Amazon Music非対応、TIDALはTIDAL Connectのみ対応(プレーヤーとしてコントロールアプリからの再生は不可)など、惜しいと思う部分もある。
一方でRoon Readyに対応しており、「所有しているDACを活かしてRoon Readyのシステムを構築したい」という志向にはよく合う。本機をRoon Readyデバイスとして使うなら、ストリーミングやユーザビリティに関する課題は一瞬で解決する。
まとめると、iFi audio ZEN Streamは、
■既にオーディオに取り組んでいる
■自分の音源ライブラリを構築していて、PCレスでそれをしっかり聴きたい
■USB DACを中心にファイル再生のシステムを構築したい
■こだわりのDACを使いつつネットワークオーディオを始めたい
■Roon Readyのシステムを構築したい
という人におすすめだ。
ZEN Streamは低価格ながら熱心なオーディオファンに向けた機能と仕様を備えた製品であり、「ネットワークオーディオの最初の一歩」たり得ることは確かでも、「初めて本格的にオーディオに取り組む」人に対しては、いささかマニアックである感は否めない。
Bluesound NODE
NODEは3製品で唯一DACを搭載し、アナログ出力が可能なネットワークプレーヤーである。
Bluesoundが使っている「ワイヤレス・ミュージック・ストリーマー」という呼称は、音楽ストリーミングサービスの活用を重視していることにくわえ、ワイヤレス――すなわち設置場所の自由度を強調する意図もある。
「別途DACを用意する必要がない」「DACとの相性を考える必要がない」という時点で、特に「初めて本格的にオーディオに取り組む人」にとっての導入のハードルは一気に下がる。そのぶん価格も上がっているが、HDL-RA2HFまたはZEN StreamとUSB DACをセットで導入することを考えれば、そこまで大きな違いがあるわけではない。
また、アナログ/デジタルの豊富な入出力を持ち、ボリューム可変出力を使ってアクティブスピーカーと組み合わせたり、HDMI ARCを使ってテレビの音声を本機で楽しんだりと、システム構築の柔軟性と拡張性は他の2機種と一線を画する。
デジタル出力を活用し、本機をトランスポートに使ってより上位のDACと組み合わせることも可能。しかし、そういうオーディオマニア的な使い方をしようと思えば、「再生可能な音源はPCM 192kHz/24bitまで・DSDは非対応」という制限が気にかかる。手持ちの音源の再生には別の機器を使い、本機は純粋に音楽ストリーミングサービスの受け皿として使う、という方法も考えられなくはないが……
もっぱらストリーミングで音楽を聴き、「DXDとかDSDとかナニソレ?」という人からすれば、192kHz/24bit上限というスペックは一切問題にならない。Bluesoundがどのようなユーザー層を想定しているかがよくわかる。
NODEをはじめとするBluesound製品は「BluOS」という独自のプラットフォームを使用しており、よくあるUPnP/DLNAとは互換性がない。ライブラリ機能もNODE側が担うため、手持ちの音源の再生にはUSBストレージか、ただのNASを使用する。サーバーだのサーバーソフトだのを考える必要がなく、この点でもハードルは低い。
強いて言えば、BluOSのライブラリ機能はごく基本的なナビゲーションツリーを提供するだけなので、ライブラリのタグ付けに凝りまくっている人にしてみれば物足りなさはある。
BluOSの純正アプリ「BluOS Controller」は操作性からデザインからよく練られており、サードパーティ製アプリが使えないことが問題とはならない。手持ちの音源とストリーミングサービスの音源を縦横無尽に駆け巡って音楽を快適に聴けるし、レスポンスも優秀。
音楽ストリーミングサービスへの対応力は抜群。Amazon Music (HD)を完全な形で、かつローカル&他のストリーミングサービスの音源と同一プレイリスト上で再生可能な、非常に希少な能力も有する。Amazon Musicを使っている、今後もAmazon Musicを使い続けるつもりである、Amazon Musicをいい音で聴きたい、という場合、それだけでNODEを選ぶ強力な理由になる。
現代のネットワークプレーヤーとして、当然のようにRoon Readyにも対応する。しかし、Roon Readyデバイスとして使うためには別途Roon Coreが必要だしRoonの使用料もかかるし、せっかくのBluOS Controllerも出番がなくなるので、本機が想定するユーザー層を考えると、相対的にRoon Readyであることの意味は小さい。
まとめると、Bluesound NODEは、
■初めて本格的なオーディオに取り組む
■Amazon Music (HD)をいい音で聴きたい
■システムを構築するうえでなるべく面倒は省きたい
■リビングルームにオーディオを導入したい
■テレビもいい音で楽しみたい
という人におすすめだ。
初めて本格的なオーディオに取り組む人に最も優しいこと、様々なストリーミングサービスへの対応力とアプリへの統合度合いをもって、NODEのネットワークプレーヤーとしてのトータルのユーザビリティは今回の3製品で頭一つ抜けていると評価できる。
NODEは非常に多機能であり、その気になればマニアックな使い方もできる。しかし、Bluesound自身はそうしたオーディオマニア的な志向ではないし、マニアックに攻めたいなら選択肢は他にもある。
音質
価格も機能も大事だけど、オーディオである以上、音質も大切。
Soundgenic vs ZEN Stream
コレについては既に決着している。ZEN Streamの方が上。
純粋なネットワークトランスポートであるZEN Streamが複合機であるHDL-RA2HFを再生音で上回るのは当然であり、むしろそうでなければZEN Streamの立つ瀬がない。
一方で、ZEN Streamは手持ちの音源をまっとうに再生するためには別途サーバーを必要とするので、この比較をもってHDL-RA2HF/Soundgenicの価値が失われることはない。
ZEN Stream(+ ZEN DAC) vs NODE
ZEN Streamは音を出すために別途DACを必要とするので、NODEと比較するにあたり、同社のエントリークラスのUSB DAC「ZEN DAC」と組み合わせた。定価で合計71,500円の組み合わせであり、この時点でZEN Stream組とNODEとの価格差はあまりない。
その他の前提条件は以下のとおり。
●サーバーにはHDL-RA2HFを使用
●ネットワーク接続はどちらも無線
●ZEN DACとNODEはどちらもアナログRCA・固定出力
●ZEN Streamの電源にiPower(前モデル、約7,000円)を使用 →ますます価格差が縮まる
●ZEN StreamとZEN DACの接続には付属品のUSBケーブルを使用
●アンプはYAMAHA A-S801、スピーカーはParadigm Monitor SE 3000Fを使用
高域の伸び、中低域の厚みと躍動感のあるNODEが僅差ながらトータルで優位。
ZEN Stream・ZEN DAC間のUSBケーブルをAudioQuest Forest(0.75mで約5,000円)にすると、解像感と透明感が改善されて絶対値で拮抗する。それと同時にZEN Stream組とNODEの価格もほぼ同じになる。
すなわち、ZEN Stream組とNODEは「音質」という点において同水準だといえる。
しかし、ZEN Streamはずばり「トランスポート」である。高度なスペックの音源を再生でき、組み合わせるUSB DACの実力を引き出せることこそが強み。システムのグレードアップの可能性でNODEを大きく凌駕する。
NODEの強みは良くも悪くも「1台で完結」すること。デジタル出力があるのでトランスポートとして使えなくもないが、その際の能力と発展性はZEN Streamに及ばない。
最後に
この記事で取り上げたSoundgenic HDL-RA2HF・iFi audio ZEN Stream・Bluesound NODEの3製品は、「ネットワークオーディオの最初の一歩」であると同時に、「2022年において求められる機能と体験の基準」でもある。
今は2022年である。2010年ではないし、2015年でもない。
ネットワークプレーヤー/トランスポートが優れたユーザビリティを実現していること、快適に音楽を聴けることは、もはや努力目標ではなく前提条件に他ならない。音質以前の問題である。
これからネットワークオーディオを始める人は、正しい知識と認識を持って、ぜひ後悔のない選択をしていただきたい。